異世界でバスガイドしてます ~天界交通(株)は今日もてんやわんや~

紫野晶子

第1話 プロローグ

 アメリカ合衆国の、グランドキャニオンを思わせるような、赤い岩の渓谷。その谷にかかる、縄と丸木で造られた、不安定な吊り橋を大きく揺らしながら、天界交通のバスは今日も爆走する。床に叩きつけられるのではないか、窓の外に放り出されるのではないかとおびえつつ、私は運転席近くの手すりにしがみつき、腰に提げているトランシーバー型のマイクを取っていつものアナウンスをする。

「皆さま、左手に見えますのが、魔王の旧居跡でございます」

 砂漠の中にポツンとある、少し傾いた石造りの円塔は、いつか社会科の教科書で見た、イタリアのピサの斜塔そのものだった。やっぱり、この世界は、私が以前いた世界の「パクり」なのかもしれなかった。

 私の名前は、島村しまむら恵理えり。元いた世界の日本という国ではまだ働けない年頃の、14歳、中学2年生だが、故あって異世界でバスガイドの仕事をしている。

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