第1話

 車は山と海を挟んだジブリ映画に出てきそうな曲がりくねった道を、何でもないかのように走る。


 ゆっくりと走る後ろには4tトラックが付いてきている。


「さぁ~着いたぞ〜!」

お父さんの声。


 父は引っ越し業者に、テキパキと指示を出しながら家具や、色々な物を運び込んでいる。


 引っ越し先は、田舎とは言えないけども「都会」とも言い切れない、のどかな町。


「今日からここに住むんだぞ〜夢想」。


 私の名前は夢想と書いて「ゆめ」。決して「♪飛んで飛んで…」の歌ではない。初めての人が読むと勘違いすると思うけど・・・

 どうやら両親は夢を持ち続け、想いをなす人になって欲しいと、この名前を付けたらしい。


 今・・・1歳の女の子


「お〜、ヨシヨシ。疲れたね〜、いい子だったね〜」

と私をあやす両親は、どうやらいい年になってからの「念願の」子供だったようで、私に甘い。


 まだ言葉の理解さえ出来ない私に父は、「この家はね、不思議な事が起きるらしいよ。楽しみだね、なぁ夢想!」と耳打ちしてきた。


「ちょっと、アナタ!荷ほどきを手伝ってよ!」母親の声が聞こえた。


「今は夢想をあやしてるから、忙しいの!」


「あ・な・た。」母親はニコニコした顔をしているが、額に青筋が立っている。


「わ、わかりました!」


 私を揺りかごに寝かすと2人は、賑やかに荷ほどき、掃除を始めるが、私の事が気になるのか2人共、何度も私の方を見ては微笑むのだった。


 父親はこの町の役場の職員として赴任するのが、今回の引っ越しの原因。

 

 元々は都内に住んでいた。


 私はあまり丈夫な身体ではなかった為、どうしたもんかと悩んでいる所に来た辞令。ありがたいと早速、引っ越しをした訳。


 一通りの作業が終わったと思ったら、すぐに私の所にやってきて、「僕が抱っこする!」「さっきまで貴方が抱っこしてたでしょ!次は私が抱っこする番です!」と、かなりの溺愛っぷり。それだけ嬉しかったんだと思う。


 そんな私はいつも笑い声が絶えない家庭で育っている。

 幸せを絵に描いたような幸せな家庭なのだ。


 夜、いつも母が私を寝かしつける時は、必ず絵本を読み聞かせてくれる。

 母親は「アメリカの映画でこのシーンをやってみたかったのよね。」

 どうやら、「読み聞かせ」は母の夢だったようで・・・


 私はゆっくりと眠りについた。

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