第23話 クマさんのトローリング

「いやあ、あの魔道具には驚いたぜ。」

 クマさんはそういって私の手を握りしめました。

「はっ、はあ……。」

「あんた、そうやって脅かさないの!」 

「いや、俺は……。」

「はあ、この子が怯えてるじゃないの。」

「い、いえ……、少し……慣れてきましたから。」

「ヒゲを剃っていれば、ここまで怖い顔じゃないんだけどね。」

「いや、海の男はなめられたらいけねえからな。」

「アハハッ……。」


「それで、今日は何の用だい。イカなら好きなだけ持っていきな。」

「いえ、別の魔道具を作ってきたので、使ってもらえたらうれしいなって……。」

「なにぃ!」

「ヒッ……。」


「それで、このボルトを締め付ければいいんだな。」

「はい。」

「だがよお、こんなもの取り付けるだけで本当に漕がなくても進むのかよ。」

「大丈夫ですよ。信用してください。」

「しかも、この”P”って刻印は、今売り出し中のマギ・デザイナーのことだろ。」

「はい。私の師匠が作ったんですよ。」

「そんな偉くて忙しいセンセイが、なんで俺なんかの……。」

「ですから、この間のイカのお礼ですって。」

「あんなもんで良ければ、毎日でも届けるが……。」

「毎日じゃ飽きちゃいますから、3日に一度くらいがいいですね。」

「よし、これでいいんだな。」


 簡単に操作説明をして、私たちは海に出ます。

「こりゃあ、とんでもねえ魔道具だな……。」

 今は、時速30kmで沖に向かっています。

「身体強化もかかっているはずなので、漁も楽になるはずですよ。」

「まあ、漕がなくていいから楽にはなるが……。」

「そうだ!マグロ釣りましょうよ!」

「あんなもん、狙って釣れるわけねえだろう。」

「大丈夫ですよ。道具も作ってきましたから。」

 私はリュックから仕掛けを取り出します。

「なんだよ、それは?」

「20メートルの縄に、疑似餌をつけたんです。時速10キロくらいで流せば、海の中で泳ぐイカみたいに見えるはずです。」

 この仕掛けは、お祖父ちゃんに見せてもらったのを参考にしています。


 10分ほど流していたら、クンと船が引っ張られる感じがありました。

「マジかよ!」

 クマさんが縄を巻き上げます。

「キハダじゃねえか。本当に釣れちまったぜ!ちょっと待ってな、絞めて血抜きしちまうから。」

 クマさんは慣れた手つきで1メートルを少し超えたマグロの頭にモリのようなものを刺したり、エラのところやお尻を切り裂いて内臓を引っ張り出したりしています。

「氷、出しますか?」

「出せるのか?」

「はい。」

 リュックから魔方陣を書いた板を取り出して起動し、船に横たわるマグロを氷の粒で覆います。

「マギ・デザイナーってのは、ホントに信じられねえことをやってのけるな。」

「そうですか……。」


 帰りに、もう一匹キハダマグロをゲットして、帰宅します。

「おい、けえったぞ。」

「お帰り。どうだった……って、まさかソレ……。」

「ああ。こんな短時間でキハダ2本だ。」

「それって、半年分の稼ぎじゃ……。」

「信じられんだろ。多分、夢なんだろうぜ……。」

 奥さんであるレアさんに捌いてもらい、4枚におろした切り身と、カマの半分をお土産に分けてもらいました。

 しかも、これからは、週に2度魚やイカを届けてもらえることになりました。

 当然、家に直接です。


「なんでこんなことに?」

「魔道具のお礼ですって。」

「この量のマグロだと、カマ込みで金貨5枚くらいしますね。」

 マリーさんが呆れています。

「マリーの腕の見せ所じゃないですか。」

「えっと、刺身にステーキ。カルパッチョにたたき……。」

「当分、マグロ尽くしですね。」

「いえ、女4人で食べきれる量では……。」



【あとがき】

 ご近所さんにおすそ分けですかね。

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