第22話 海のクマさん……
私は、道具屋のおじさんと船外機について話し合っています。
「この筒はなにをするんだ。」
「前から入ってきた水を、勢いよく後ろに吹き出すの。」
「幅15センチか、魚がスッポリはまっちまったら詰まっちまうな。」
「そこまで都合よくはまらないでしょ。」
「それで、この2枚の板で船のへりを挟んで固定すると。」
「この棒で向きを変えるから、ここは動くようにしてほしいの。」
「で、さび止めの塗装だな。」
「それでお願いします。」
「なあ、お前ってさ、どこかでこれを見たことあるのか?」
「うっ、ううん。頭の中で考えてスケッチしただけよ。」
「想像だけで書いたってのかよ。まったくとんでもねえ娘だな。」
「”P”はイケメンの男なんだから、間違えないでくださいね。」
「ああ。シャキはただの弟子なんだよな。」
「そういうこと。じゃ、お願いしますね。」
おじさんに船外機を作ってもらう間に、私は魔方陣を考えます。
「魔方陣の本質部は、”水噴出”でいいかな。全部から吸い込んだ水を後方へ噴出して、あとは進行速度を変数にしてやる。」
ついでだから、船全体に強化をかけて……、操作者にも身体強化っと。
「えっと……、これだけ?」
そう、作動自体は簡単なものでした。
ミサイル発射とか、バリヤとかも必要ないし、飛び上がる効果も必要なかったんです。
「でも、この程度じゃ誰でも作れるのよね……。」
私のイメージでは、海の魔物とも互角に戦える船です。
そう、クラーケンとかシーサーペントや、リバイアサン相手にです。
「勝手に、船を改造するわけにもいかないから、やっぱり武器は別かな……。」
いつのまにか、セリカさんがお茶を持ってきてくれていた。
「お嬢さま、釣り船でございますよね?」
「でも、漁師さんなんですよ。」
そう。日に焼けた褐色の肌。キラリと輝く白い歯。
「できれば、モリを持っていて欲しいですね。」
「多分、釣り竿かアミだと思いますけど。」
「そうですわ。ランチャーから打ち出される氷のモリ!」
「万一、そういうのを仕留めたとして、どうやって持ち帰るのですか?」
「ロープで引っ張ってくればいいのよ。」
「血を垂れ流しながらですか?サメとか、ほかの肉食の怪物が追ってきますよ。」
「ダメかな……。」
「諦めてくださいね。常識的な範疇でお願いします。」
セリカさんによると、プロフェッサーの屋敷ということで、噂になり始めているらしいです。
まあ、私がキックボードで出入りしていれば目立つのは当然でしょうか……。
大量の胸当てが搬入されたり搬出されているところも目撃されていますしね。
数日後、私は荷台付きのキックボードに、船外機を括りつけて海に向かいます。
「こんにちわ」
奥から、熊のような人が現れました……。
ち、違う!こんなの海の漁師じゃない!
「あっ、……あの……奥さまは……。」
「おう、カエデなら今イカを捌いてんだが、何の用だ?」
「あ、あの……、この間の……、魔道具の具合は……。」
「ああん、魔道具?……って、まさかお前が例のマギ・デザイナーだってのか!」
「ひっ、ひぃ……。」
「どうしたの?五月蠅いわね!」
奥から、子供をおんぶした奥さんが現れました。
「あっ、この間のお嬢ちゃんじゃない♪」
「やっぱりそうなのか!」
私は熊に肩を掴まれてしまいました。
「お父さん、お母さん、先立つ不幸を……。」
「あははっ、大丈夫よ。クマはこんな顔してるけど、優しいのよ。」
「うっ、そんなに怖かったか……。」
コクン……。
旦那さんは、まさかのクマという名前だそうです。
【あとがき】
森熊さんならぬ海クマさん登場!
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