第5話 さしすせそ

「コロン、大変よ!」

「どうした。さっき大きな音がしたけど、星でも落ちてきたのか?」

「近いかもしれないわ。あれ、シュキの魔法陣よ。」

「なに!」

「シュキはマギ・デザイナーのトップクラスだったの。」

「マジかよ。」

「シュキに魔法陣を書いてもらえば、Sランクも夢じゃないわ。」

「となると、シュキのことは仲間だけの秘密だな。」

「当たり前でしょ。バレたら城に連れていかれちゃうわよ。」


 という訳で、私の居場所ができました。

 これで、売られる心配も……多分ありません。


「じゃあ、明日から魔法陣の特訓よ。」

「はい。どんな特訓でも耐えてみせますから。」

「まずは、この国の文字を覚えてもらうから覚悟してね。」

「えっ……。」

「ほかの人の魔法陣を読み解いて自分の言葉でより強力に作り直すのよ。」

「私……、英語と体育は苦手だったんです……。」

「知らないわ、そんなの。覚えが悪かったら売り飛ばすからね。」

「えーっ、そんな……。」


 この国の文字は、比較的簡単な造でした。

 母音と子音の組み合わせでできており、構造的にはローマ字に似ています。

 私はひらがなとの比較表を作って、なんとかついていきます。


「じゃあ、夕食の買出しにいくわよ。」

「あっ、食事のシーンがなかったので、心配してたんです。」

「?」

「定番の串焼き屋台とかあるんですか?」

「何それ?」

「出来上がった総菜を売ってるお店とか、パン屋さんとか……。」

「そんな便利なものがあったら、誰も料理なんかしないわよ。」

「私の……異世界のイメージが壊れていきます……。」

「壊れてるのは、あんたの頭でしょ。」


 ところが……です。この国には、調味料が砂糖と塩しかなかったんです。

「す・せ・そ はどこにいっちゃったんですか!

「なによ”すせそ”って。」

「えっと、すはお酢、ビネガーです。」

「なにそれ?」

「酸っぱいんです。レモンみたいに!」

「レモンならあるわよ。」

「うっ……、じゃあ”せ”……せっ?」

「なによ!せって。」

「せ、せ、あれっ?……そうだ!お醤油です……えへへ。」

「全然”せ”じゃないでしょ。」

「あっ、あれっ?……おかしいな?」

「おかしいのは、あんたの頭でしょ。」

「じゃあ、”そ”!……そっ?”そ”ね……”そ”だわよね……。ソース!じゃなくて……。」

「なによ”そ”って。」

「わかった!お味噌です!」

「なによそれ?」

「えっと、……えっと、……ウ〇〇みたいな……。」

「何よ!モゴモゴ言ってないで、はっきり言いなさいよ!」

「えっと、しょっぱくて、色は茶色で、土を水で練ったような柔らかさで……。」

「なにそれ?」


 ダメだ!砂糖と塩だけじゃ私の料理スキルは発動しない。

「ああ、醤油さん、どこに行ってしまったの……。」

「何分かんないこと言ってるの。さっさと買い物して帰るわよ。」

 肉は切り口がどす黒く変色した塊だし、野菜は虫食いなんて当たり前で、そもそも色がおかしい……。

「アイリスさん……。」

「なによ。」

「それ、芋虫さんがこんにちわしてますけど。」

「虫が食ってるってことは、美味しいからじゃない。ばっかじゃないの。」

 根菜類は比較的まともだった。当分、根菜中心に食べておこう……。


「ほら、野菜を洗って切ってちょうだい。」

「は、はひぃ……。」

 玉ねぎにしようと思ったら、アイリスさんはキャベツみたいなのを指定してきました。

「慎重に、慎重に……。」

 ペロン ニョキッ! ギャー!

「なによ騒がしいわね!」

「ニョ、ニュキ、ニュキッ……って!」

「ああ、もう!」

 アイリスさんは虫をつかんでポイっと……野菜スープの鍋に放り込みました。

「ヒッ!」

「貴重なタンパク質じゃないの!」

 ……今後、スープは飲まないようにしないと……。


【あとがき】

 うっ、日常会話だけで終わってしまった。

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