無能で死に損ないの俺と、それに着いてく君。

タービン(道路歩行者)

無能で死に損ないの俺と、その近くに居た君。

俺は無能だ。任された仕事や課題が何一つ出来ない。アルバイトもひと月でクビ、高校の課題はやらない。多分何らかの法律で罪にして死刑にしても良い人間だと思う。人間の数を減らせと言われたら、真っ先に殺されるべき人間だと思う。よって俺は死に損ないだ。


だから今日も今日とて、帰り道で交差点に差し掛かっては信号無視による交通事故で死ぬ事を妄想して、点字ブロックの先の部分に立ち動かないのである。ただ、今日は何かが違う。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


何やら下に顔を向けて俯いている女が居た。見るからに身長150cm代、黒髪ロングでグラマラスなその存在は、流れる様な小声で謝罪ともとれる独り言を延々と呟いていた。


その声を何とか聞こうとしてる間に信号の音が止まる。そうすると女は声を止め、俺の斜め後ろから1歩踏み出した。


「あっ、ごめんなさい」


俺はその女の進路を遮るように横に移動した。女は謝り、また1歩踏み出そうとするが、俺はその度に横に移動していく。


「ごめんなさい」

「ごめんなさい」


先に死ぬのは俺だ。俺の方を先に死なせてくれ。なんて思って妨害していくうちに、


「あっ」


俺は衝突の勢いで道路に出た。一瞬死の匂いを感じる事が出来たが、その匂いは左手を掴んだ謎の存在によってあえなく消えてしまった。


「……死なせて、くれよ」

「…………」


小声でそう呟くと、俺は目に涙を浮かべようとした。ただそれより先に女が涙を浮かべた。


「ひくっ、ひくっ」


俺のブレザーはいつの間にか胸の辺りが汚れていた。だからただそっとその原因を抱擁した。


そうして次の青信号まで待ち、女を確認しながら歩道を渡った。


「ありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございます……」


女はそう言って顔を伏せたままだった。これ以上の面倒ごとは厄介だったので、すぐさま自分の進行すべき方向に向かって走り出した。やはり俺は屑だ。


生きて家に帰ってしまった。今日もまた。特に死ぬ気は無いが生きる気も無い。そんな歪な日常がまた明日も行われる確率を無くせず今日も気分は沈んでいく。

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