第436話 【反転熱線】
炎の力比べを続けていくと、私と悪鬼の間に反転物質が生まれた。
「うげっ!? 何で!?」
私はすぐにその場から離れる。
「フェンリル! 紅葉さんと一緒に離れて!」
紅葉さんを乗せたフェンリルが攻撃の機会を窺っていたので、すぐに離れるように言う。反転物質は、フェンリルが離れ始めた直後に、全てを飲み込む虚無の爆発を起こす。フェンリルの背後に付いて、【エネルギー吸収】を発動する。反転物質のエネルギーを吸収出来るかは心配だったけど、ちゃんと吸収出来た。
ただ、吸収したエネルギーによって、ダメージを受ける。私の許容限界を超えたエネルギーみたいだ。でも、これでフェンリルと紅葉さんが巻き込まれないようにする事は出来る。悪鬼の闇は、そこまで強いものじゃなかったみたいで、大規模な爆発にはならず、地上への被害は地面が大きく捲れ上がるだけだった。
『大丈夫か?』
爆発が終わったところで、フェンリルが確認してくる。
「うん。このくらいだったらね。それより、悪鬼は?」
『我が見たところ、あの爆発で吹っ飛んでいった。方角は向こうだ』
フェンリルが鼻を向ける方を見るけど、カルデラの中にはいない。つまり、エアリーとフラムが作り出している炎の竜巻の外にいるという事だ。【万能探知】に集中すると、妖怪達の中に交ざっているのが分かる。そして、周囲の妖怪達を吸収し始めた。しかも、妖怪達が自分から吸収されに行っている。
「一体何を……」
悪鬼は、どんどんと膨れ上がっていく。骨の状態から、今度は元の肉の付いた鬼へと戻っていく。いや、それ以上になっていく。その大きさは、山をも超える。そして、炎の竜巻を吹き飛ばした。HPが最後の四段目になっていた。さっきの爆発で削れたみたい。つまり、この状態が最終形態という事だ。道理で森までの範囲がレイドエリアになるわけだ。
巨大化した悪鬼が、私達に向けて手を伸ばす。それに対して、エアリー、フラム、ライが風の刃、炎の球、極太の雷撃を浴びせる。その攻撃により、悪鬼が押されて、一歩後ろに蹌踉けた。おかげで、手は空を切った。その間に、神殺しに大量の血を吸わせながら、空を飛ぶ。そして、【神炎】を纏わせた神殺しを振い、【神炎】を纏った極大の血の刃を飛ばす。悪鬼の身体に大きなダメージエフェクトが散る。そして、命中した場所から【神炎】が広がる。でも、身体の大きさが大きさなので、胸の周囲が燃えたくらいだった。HPはあまり削れていない。巨大化して防御力でも上がったのか分からないけど、これまで通りに戦ったら、かなり時間が掛かりそうだ。長期戦になるタイプのボスなのかな。
そんな事を思っていると、私のものじゃない青い炎の球が悪鬼に命中して激しく燃え上がった。フラムかと思って地面を見たけど、フラムが何かをしているわけじゃないみたい。寧ろ、今力を溜めている感じだ。
この炎の持ち主は、玉藻ちゃんだった。扇状に広げた九本の尻尾の先端に青い炎が灯っている。そして、手を天に掲げると、玉藻ちゃんよりも大きな青い炎の球が出来上がる。それを再び悪鬼に放つ。悪鬼は、左手を前に出して炎の球を身体ではなく手で受ける。燃える範囲が左腕のみになったところを見ると、燃え上がる範囲は決まっていそうだ。それでもまだHPの削れる量は少ない。
そこに紫色の風が悪鬼の周り吹いた。一瞬、悪鬼の攻撃かと思ったけど、悪鬼に向かってしか吹いていないので、こっちの攻撃だと気付いた。清ちゃんとセイちゃんが吐き出す毒の煙をエアリーの風に乗せて、悪鬼に送っているらしい。普通に吐き出してもあの巨体じゃ足の裏くらいにしか届かないので、上手いやり方だと思う。まぁ、それ以上に恐ろしいのは、私の魅了と呪いが効かないのに、普通に毒、麻痺、呪いの状態異常を与えている事に加えて、何か表面が溶け始めている事だった。恐らく、悪鬼だから耐えているけど、普通のモンスターだったら、即行で骨に……いや、骨すら残らないだろう。
でも、毒によるダメージも少ない。私の吸血も試したいところだけど、第一形態の時の背中から生えてきた腕が気になる。この巨体でその変化も出来るのであれば、背中に噛み付いたとしても、潰される可能性がある。長時間吸血出来れば、かなり削れると思うけど、短い時間で何度もとなると、普通に戦った方が早い。
「……ぶっつけ本番かな」
私は地上に降りる。
「皆! 一旦、ギルドエリアに帰って!」
テイムモンスターであるエアリー達は、私が【送還】すれば無理矢理帰す事が出来るけど、フェンリルと玉藻ちゃん達は違う。だから、言葉で伝える必要があった。
『何か考えがあるのじゃな?』
「うん。でも、かなり危険でどこのくらいの被害になるか分からないの」
『うむ! 皆! 一旦退くのじゃ!』
玉藻ちゃんの号令で、胡蝶さん達も帰る。私もフェンリルやエアリー達をギルドエリアに帰す。そうして一人になった私に向かって、悪鬼が拳を振り下ろす。私は、【雷化】を使ってその場から離れる事で避ける。
そして、これまで怖くて試していなかった【反転熱線】のチャージを始める。口から喉に掛けて、光と闇が集まってくるのが分かる。でも、まだ融合しているわけじゃない。ただ、それぞれ独立して集まってきているようだった。いきなり反転物質が出来て、頭が吹き飛ぶとかなくて良かった。
悪鬼の攻撃を、空を飛びながら【雷化】などを挟みつつ避ける。そして、少しでも削っておくために、神殺しを使って血の刃を飛ばして攻撃をしておく。そうして、一割近くのHPを削ったところで、それ以上溜まらないところまで、光と闇が溜まった。
私は空高く飛び、悪鬼に向かって口を大きく開く。口と喉に溜まっていた光と闇が一気に融合する。それによって反転物質は生成されずに、そのまま反転エネルギーとして放出された。
悪鬼は私に向かって手を伸ばしていたので、手の先から受ける事になった。【反転熱線】に触れた瞬間、悪鬼の手が消え去る。そして、その直後に頭と身体の上半分にも命中し消し去った。それでもまだHPの二割弱を残している。消え去った部分を再生させようとしているのか、断面がぶくぶくと泡立っていた。
私は神殺しから白百合と黒百合に切り替えて、大鎌にし、【死神鎌】を発動する。そして、【雷化】で近づき、悪鬼の身体を斬り裂いた。レイドボスでも問題なく発動し、悪鬼のHPを全て刈り取った。
「特にダメージを受けた感じはなし。自滅技にならなかったのは良かったかな。まぁ、命中した場所が悲惨だけど」
悪鬼を貫いて命中した地面が深く抉れていた。それにその余波で森の一部が消し飛んでいる。悪鬼が巨大化して出来た足跡よりも、私の【反転熱線】の方が森に大きな被害をもたらしていた。【蒼天】だった頃よりも遙かにヤバい。こっちは、本当に危ない時以外は封印かな。地上で使ったらどうなるか分からないし。
『高嶺レイドボス『魑魅魍魎を統べる悪鬼』を討伐しました。レイド参加報酬、MVP報酬、ラストアタックボーナス報酬を獲得』
沢山の素材を手に入れた。でも、前にあったような称号は貰えなかった。入手方法が限定的すぎたからかな。
念のため、空を飛んでカルデラの方に戻ってみると、その中央に宝箱が置かれていた。これがもう一つのレイドボス討伐報酬みたいだ。
宝箱を開けてみると、血瓶が三つも入っていた。
「……私の特徴って吸血鬼しかないのかな。前は、皆武器とか貰えていたのに」
手に入った血瓶は、悪鬼の血瓶、魑魅魍魎の血瓶、虚空の血瓶というものだった。紅葉さんがいないうちに全部飲んでおく。全部マイナスイメージがある血だからか、重い感じが強かった。
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