第431話 長閑な行程
そのまま進んでいくと、森を抜けて平原に出た。見晴らしの良い場所で、そこら辺にモンスターがいる事がよく分かる。モンスターは、動物系のモンスターが多い。でも、私が吸血していないモンスターはいなかった。ここはレアモンスターよりも、普通のモンスターが数で圧倒してくる場所みたい。つまりは、中級エリアってところかな。これを倒しながら進むのは、かなり厳しそうだけど、エアリー達がいる私は、かなり楽だけど。
ラウネが足元の草を使って、モンスター達の動きを封じて、エアリーが風の刃で切り裂き、ソイルが地面から土の槍を作り出して串刺しにして倒していた。
「今のところ、他のプレイヤーはいないみたい」
『幻覚はしっかりと張っておるのじゃ、妾達の姿は誰にも見られる事はないのじゃ』
『蜘蛛達を放ってやすので、他に人がいたら分かりんす』
「つまり、誰もいないって事ですね」
『そういうことでありんす。森で足止めを食らっているようでありんすね』
『森の中で彷徨うようにも出来るのじゃ。そうするか?』
「いえ、それは止めておきましょう。別に争っているわけでもありませんから」
『うむ。ハクがそう言うのなら止めておくのじゃ。それより、そろそろ妾達にも馴染んで良い頃じゃないかのう?』
「どういう事です?」
玉藻ちゃんの言っている事がどういう事なのか分からず、首を傾げる。すると、玉藻ちゃんの尻尾が私の頬に添えられる。
『それじゃよ。妾達に敬語は必要ないのじゃ。清と紅葉は癖のようなものじゃが、ハクのそれは敬意を払っているだけじゃろう。エアリーやフェンリルと話すとき同様で構わんのじゃ』
玉藻ちゃんは胸を張りながらそう言う。それを受けて、胡蝶さん、清ちゃん、紅葉さんも頷いていた。皆同じように思っていたらしい。仲良くなっていけば、自然と敬語も抜けるだろうと思っていたみたいだけど、一向に抜ける様子がないから、痺れを切らしたらしい。
「じゃ、じゃあ、普通に話すね」
『うむ!』
玉藻ちゃんは嬉しそうに尻尾で私を包んでくる。その結果、フェンリルの上から玉藻ちゃんの尻尾の中に移動する事になった。まぁ、自分で歩いていない事は変わらないのだけど。
『お姉様。この先の地形に関してなのですが』
「うん。山とかではないよね。見た感じ、山は見えないし」
『はい。どうやら、海のようです』
「海? それは面倒くさいな」
前の探索型イベントの時は、霊峰が聳え立っていたけど、今度は海が上級エリアになるのかな。いや、もしかしたら、その先もあるのかもしれない。
「エアリー、船ってない?」
『それらしきものならあります』
「それじゃあ、それを使って移動する事が前提かな。でも、水の中も調べたいから、一時的に皆は避難して貰う事になるかな」
『そうなると、私達も一旦妖都に避難する事になりそうですね』
「清ちゃん達は泳げないの?」
『泳げますが、ハクちゃん一人の方が動きやすいと思います。平均並みでしかないので』
「なるほど。分かりました。あっ……」
『頑張って慣れてくださいね』
清ちゃんはそう言いながら頭を撫でてくれる。清ちゃんの蛇も私の頭に顔を乗っけてきた。清ちゃんの真似をしている感じかな。恐る恐る頭に乗っかっている清ちゃんの蛇を撫でる。清ちゃんの蛇は、何となく嬉しそうにしていた。
「……そういえば、この子って名前あるの?」
『ん? 特にないですね。私の一部みたいなものですし。せっかくですから、ハクちゃんが付けてください』
「えっ!? 私、ネーミングセンスないですよ……?」
『大丈夫です。この子が気に入るかどうかですから、何度でも付けてください』
清ちゃんの蛇。かなり強い毒を持っている。それに、色々と食べられる大食い。ここら辺からは、良い名前は思い付きそうにない。だから、白蛇から何かを連想してみる。あまり良い名前が思い付かない。次は、清ちゃんから連想だ。
「う~ん……じゃあ、セイちゃん」
清ちゃんの名前から貰った名前だ。清ちゃんの蛇は、清ちゃんの方に戻っていく。
『うん。それが良いってさ』
単純な名前だけど、気に入ってくれたらしい。名前を付けたら、ちょっと愛着が湧いてきた。我ながら単純だなと思う。
『名付けをしているところ悪いが、海が見えてきたのじゃ』
玉藻ちゃんが尻尾を動かして、私に前が見えるようにしてくれる。すると、本当に大海原が広がっていた。
「うわぁ……向こうの方に陸が見えないから、結構遠くまで続いてそう」
『私の感知外です』
「それが聞けただけでも収穫かな。予定通り海に着いたら、皆は一旦避難ね。フェンリルもだよ」
『ああ。分かっている』
これにはフェンリルも納得してくれた。普通に空を駆けられるから、付いてくるって言ってくるかと思ったけど、そんな事はなかった。
エアリー達のおかげで、モンスターと遭遇する事なく海まで着くことが出来た。予定通り、エアリー達を帰していく。玉藻ちゃん達とも一時的に解散する。そして、レインを喚び出した。
『私の番!』
「うん。私を守ってくれると嬉しいな」
『うん! 任せて!』
やる気満々のレインと一緒に海の中に入る。【海神のお守り】のおかげで、無限に潜っていられるから、水上には出ずに進んでいく。
『お姉さん。向こうにマーメイドがいるよ』
「へぇ~、マーメイドかぁ。確かに、モンスターとして反応してるね。捕まえてくれる?」
『うん!』
水の中だから聞き取りにくいはずだけど、レインはしっかりと聞き取ってくれた。レインが拘束してくれたマーメイドのところに来ると、上半身が人で下半身が魚の典型的な人魚だった。ただ貝殻の水着とかじゃなくて、Tシャツを着ていた。そこは配慮されているらしい。こっちの方が、ある意味で人気が出そうではあるけど。身体が氷漬けにされているマーメイドを吸血していく。複数体いるから、次々に血を飲めた。その結果、【水中発声】【歌唱術】【魅了歌】【睡眠歌】を手に入れた。【歌唱術】は、【歌唱】の進化だったので、手に入れたばかりの【歌唱】は消えた。
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【水中発声】:水中で陸上と変わりなく声を発する事が出来る。控えでも効果を発揮する。
【歌唱術】:歌に大きく補正が入る。MPを消費した歌唱により様々な現象を引き起こす事が出来る。
【魅了歌】:MPを消費して、確率で対象を魅了状態にする歌を歌う事が出来る。
【睡眠歌】:MPを消費して、確率で対象を睡眠状態にする歌を歌う事が出来る。
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滅茶苦茶良いスキルを手に入れた。これで、レインとの意思疎通がしっかりと出来る。私にとっては、それが嬉しい効果だけど、魔法使いにとっては、水中でも魔法を使えるという大きなメリットがある。まぁ、私は魔法をメインに使わないから、あまり関係ないけど。そもそも魔法を使わなくても、スキルの組み合わせで魔法と似たような事が出来るし。
そこからは、特に大きな障害もなく海の中を進む事が出来た。クラーケンとコーラルタートルもいたけど、レインがボコボコにしていたし。
他にいたのは、モンスターじゃなくて、ただの動物として鯨とかだった。こちらに襲い掛かってくる事はなかったから、普通に通り過ぎた。
レインの助けも借りて、何とか海を突破する。真っ直ぐ泳いでいき、辿り着いたのはさっきとは別の大陸だった。
「ふぅ……レイン、お疲れ様」
『ううん。楽しかった!』
「そっか。それなら良かった」
レインの頭を撫でて労ってあげてから、またレインとエアリー達を交代する。当然、フェンリルも喚び出す。そろそろ夕方になるので、どこかのセーフティーエリアを見つけて、休める場所と作っておきたいかな。
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