第421話 氷城エリア

 その日の夜は、軽くレベル上げをして終えた。翌日は、バイトもないので、少し早めにログインする。今日は、新しいエリアの探索を行う。行くエリアは、北の氷城エリアだ。空を飛んで、氷城エリアまで移動する。氷城エリアは、古城エリアのような大きな城の中のエリアになっている。基本的には屋内の探索になるので、スノウは喚べない。昔のスノウなら、【矮小化】状態でギリギリって感じだけど、今はそうもいかない。なので、レインと二人での探索になる。


「それじゃあ、よろしくね」

『うん! ここは地下にも広がってるみたい』

「う~ん……もしかして、地下も深い?」

『微妙かな。同じくらい』

「うん。上と同じくらいなら深いね。取り敢えず、上から探索していこうか」

『うん!』


 レインと一緒に氷城エリアを歩いていく。氷城は、不透明な氷で出来た城で、壁越しに内側を確認する事は出来なかった。だから、部屋も一つ一つ調べて行く必要がある。

 そんな探索になる訳だけど、モンスターの数が氷点下エリアと同じように多い。通路を埋める程とはいかないものの至る所にいるのを【万能探知】で確認出来る。そして、その全てをレインが止めてくれている。いるモンスターは、氷霧の兵士、氷霧の魔女、アイスガーゴイルという三種だった。氷霧の兵士と氷霧の魔女は、氷点下エリアにいた氷兵士、氷魔女の進化版で、アイスガーゴイルの方は、名前のまま氷版ガーゴイルみたいな見た目だった。

 レインが止めてくれているから、何もさせていないけど、まともに動いていたら連携をしてくるであろう事は予想がついた。氷点下エリアがそれだったからだ。

 ただ、氷城エリアのモンスターは、氷点下エリアと比べものにならない程強い。吸血をしていてよく分かる。それに、ここのモンスター達は、自らの身体を氷の霧に変える事が出来るらしい。まぁ、私はそれも飲み込む事が出来るから、あまり意味はないのだけどね。何度か吸血を繰り返していき、【水氷翼】【氷霧】という二つ新しいスキルを手に入れた。


────────────────────


【水氷翼】:自身が持つ翼系スキルに水氷を纏わせる事が出来る。水氷系スキルの威力を上昇させる。控えでも効果を発揮する。


【氷霧】:MPを消費して、身体の一部を氷の霧に変える事が出来、内部に入り込んだ対象を氷結させる。


────────────────────


 氷美味しいと思いながら吸っていたけど、【氷霧】は割と危ないスキルだった。凍結スピードによっては、色々と使いようがありそうだ。


「獲れるスキルは獲れたから、全部倒しちゃって良いよ」

『うん!』


 そう言ってレインが手を鳴らすと、【万能探知】に映っていたモンスター達の気配が、全て消えた。相手が氷で出来ているからだけど、本当にこういうところでは、無類の強さを誇る。


「ありがとう」


 レインの頭を撫でてあげると、レインは嬉しそうに抱きついてくる。こういうところは、進化して成長しても変わらない。レインにモンスターを頼みつつ、部屋の中などを次々に調べて行く。


「そういえば、廊下のあちこちに氷像が置いてあるよね」

『うん。偉そうな服を着た女の人』

「そういう風に言っちゃ駄目だよ。権力の象徴として、綺麗な服を着るっていう意味もあると思うし。まぁ、それはさておき、これって氷霧の魔女とは違うよね?」

『うん。動く気配はないし、ただの氷像だよ』

「それじゃあ、この人がボスかな。この氷像って壊せる?」

『うん』

「それじゃあ、氷像の中に何か隠されたりとかしてない?」


 私の視界の中に、氷像は十以上ある。これから先にもあると考えて、これが壊せるのなら、中に何かが隠されていてもおかしくはないと思う。私も完全支配を手に入れているから、近場のものくらいなら、ちゃんと調べる事が出来るけど、レインは全てを一気に調べる事が出来る。私もある事は分かるし、操れもするけど、詳しい事は認識出来ない。結局は操ったりする事が主体だというのがよく分かる。


『う~ん……ないかな。氷像とは違うけど、地下には変な感じのものがあるよ。湖的な場所』

「湖? いや……これって、氷の床じゃなかったのか……」


 確かに、下の方に水の気配はある。でも、氷とのはっきりとした区別は付かなかったし、水面が凪いでいて湖というよりも床という認識でいた。それに、氷城という名前からも分かる通り、ここは全部が氷で出来ている。そのせいで、色々と細かい区別が付きにくいというのもあるかな。


「やっぱり、地下に行くべきだったか……いや、そっちを後の楽しみにしよう! まずは、何より探索だ!」

『お~!』


 レインと一緒に探索を続けていった。氷の部屋という事もあり、家具も全て氷で出来ている。つまりどういう事かというと、本すらも氷で出来ているという事だ。


「……ページが脆い!!」


 完全な形で保っているから、ちゃんと読めると興奮と興奮したのも束の間ページを捲った瞬間に砕けた。ページの一枚一枚が、薄すぎて指で触るだけでも熱で溶けてしまう。それを持ち上げようとすれば、薄氷のように割れる。【完全支配(水)】で動かそうとしても同様だった。


『この氷、薄すぎ』

「ね。レインでも割れちゃうなら、誰が読めるんだろう?」


 レインもチャレンジしたけど、同じように割れてしまった。中身も読めそうなのに、これでは全く読めない。


「う~ん……後は……【召喚・ヒョウカ】」


 残りの氷系の仲間はヒョウカだけなので、取り敢えず喚んでみた。突然喚ばれたヒョウカは、かなり戸惑っていた。


『え、えっと……』

「戦闘をしてって話じゃないから大丈夫だよ。ヒョウカにお願いしたいのは、こっち」


 私はまだ無事な状態の本を指さす。


「私達じゃページを捲れないんだ。だから、ヒョウカなら捲れるかなって」

『が、頑張ります!』


 ページを捲るのに頑張るも何もないと思うけど、張り切るヒョウカは可愛いので、それで良し。

 ヒョウカは、ゆっくりと本を開いていく。薄氷を指に引っかけて、ゆっくりと捲った。ページは割れていない。


「おぉ! ヒョウカ、ありがとう! 良い子だよ!」


 ページを捲ってくれたヒョウカの頭を全力で撫でてあげる。そして、本の中身に視線を戻して読んでいく。内容は、当たり障りのない恋愛小説だった。


「…………こんなものも追加されてたんだ。最近、図書館にもいけてないしなぁ。まぁ、いいや。取り敢えず、このまま探索を続けていこう。ヒョウカは、私の傍にいてね」

『は、はい!』


 ヒョウカがいないと本は読めないので、このまま探索に付いてきて貰う事にする。氷城の探索を続けていくと、大量の小説を見つけた。一応、軽く読んでいるけど、特に何かのヒントになりそうもない内容ばかりなので、途中からはざっとした確認だけにした。

 氷城の地上部分の半分を調べたところで、今日は終わりだ。収穫はスキルだけだけど、これから先に何か手に入れられるかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る