第407話 炉の神の祝福
ヘスティアさんがずっと居てくれる事は分かったけど、他にも色々と確認しないといけない事は残っている。
「私が何かしないといけない事とかはない感じですか?」
「うん。この暖炉があればどうにでもなるからね」
「それじゃあ、ここをヘスティアさんの部屋にしますか。ちょっと待っていてください」
「ん? うん」
ヘスティアさんを部屋に残して、アカリの作業部屋に移動する。
「アカリいる?」
「いるよ~」
「ちょっと良い?」
「うん」
アカリを連れて暖炉のある部屋に戻ると、アカリは驚いて固まっていた。まぁ、家に知らない人がいたら驚くよね。
「こちらは、神様のヘスティアさん。こっちは、恋人のアカリです。基本的に、私よりもアカリの方が家にいるので、何かあればアカリにもお願いします」
「へぇ~、恋人がいたんだ。よろしくね、アカリさん」
「あ、はい。よろしくお願いします。えっと……ちょっと待っていて下さいね」
アカリはそう言うと、私の手を掴んで、一旦部屋を出た。
「どういうこと!?」
「いや、溶岩エリアの溶岩湖の下にある空間に行ったら、ヘスティアさんを喚び出せちゃってね。前は人がいっぱいいて地上での活動も出来たみたいなんだけど、火山の噴火で溶岩が流れてきて村がなくなっちゃって、こっちに顕現出来なくなっていたんだって。顕現には【神炎】が必要みたいで、これからも地上に来たいから、家に住まわせてって話になった感じ。一応、こっちに見返りがあるみたい」
「なるほどね……」
私のまとめきれていない説明でも、アカリはすぐに理解してくれた。こういうところは本当に助かる。
「家って、あの部屋だけで大丈夫なの?」
「一応、暖炉からも離れて活動できるみたいだよ。まぁ、範囲に制限はあるらしいけど。それで、アカリを呼んだのは、ヘスティアさんに紹介したかったってだけじゃなくて、あの部屋をヘスティアさんにあげられないかなって思って」
「まぁ、あまり使ってない共同部屋だから良いけど……住みやすいように模様替えするって事だよね?」
「うん。勝手に決めちゃってごめんね」
「ううん。急に神様がいてびっくりしちゃっただけだから気にしないで。玉藻ちゃん達みたいな感じって事だよね?」
「常駐するみたいだから、どちらかというとレイン達みたいな感じかな」
「なるほど……でも、あそこで良いの? もう少し広い部屋とか用意出来るよ? 神様なら、豪華な場所とかにした方が良いんじゃ」
「う~ん……元々いた場所が、かなり狭い石造の家だったから大丈夫じゃないかな」
「そう? まぁ、大丈夫なら良いかな」
そう言って、アカリは部屋に戻る。私も後に続いて戻った。
「すみません。ちょっと話し合いをしていました」
「ううん。急に住ませてなんて言った私の方が悪いから気にしないで。アカリさんは鍛冶師か何か?」
「いえ、鍛冶師でもありますけど、本業は裁縫師です」
「そうなんだ。暖炉の他に鍛冶場があるって聞いてたから、鍛冶師かと思っちゃった。鍛冶場の炉の火が【神炎】にしてみたから火力とかに気を付けて」
「へ? あっ、それが見返りですか?」
「うん。その一つかな。本当の見返りは、皆の健康と心の平穏を助ける事だよ」
ヘスティアさんはそう言って、手を鳴らす。すると、私達の前にウィンドウが出て来た。
『ギルドエリアに、炉の神ヘスティアの祭壇が建てられました。スキル【炉の神の祝福】を収得します』
アカリと同時にウィンドウが出たという事は、アカリも貰ったという事だ。そして、恐らくアク姉達も貰っていると思う。
────────────────────
【炉の神の祝福】:常時HPMP継続回復状態になる。また、状態異常に掛かる確率を大きく減少させる。控えでも効果を発揮する。
────────────────────
かなり有用なスキルだ。特に状態異常に掛かりにくくなるというのが強い。まぁ、私が自動回復をいくつも持っているからそういう感想になるのであって、普通のプレイヤーからしたら、全部含めてぶっ壊れスキルって感想になると思うけど。
「ヘスティアさんって炉の神様なんですか?」
「うん。ただ勘違いされやすいけど、鍛冶を司ってるわけじゃないかな。昔は炉が家の中心にあってね。家庭を支える神として崇められてたんだ」
「そうなんですね」
炉の神と書いてあるのに、炉に関係しないなと思っていたら、結構ちゃんとした理由が隠れていた。一応、元の神話に合せていたりするのかな。
「でも、炉を司っているのは本当の事だから、炉の炎を変える事くらいは出来るんだよね。【神炎】になったら、色々と効率的に作業が出来ると思うよ。ちゃんと扱えたらだけどね。もし元に戻して欲しかったら言ってね。元に戻す事も出来るから」
「あ、はい。分かりました。ありがとうございます。それじゃあ、私は作業部屋に戻るね」
「うん。来てくれてありがとう」
模様替え自体は、私でも出来るので、アカリがいなくても問題ない。ヘスティアさんが住むことを了承してくれただけでも有り難い事だし、ここは私が頑張らないと。
「ヘスティアさん、何かこういう部屋が良いとかってありますか?」
「欲しいもの? う~ん……基本的な家具は置いてあるし……特にないかな」
「そうですか。何か欲しくなったら、私かアカリに言って下さいね」
「うん。ありがとうね」
そう言ってヘスティアさんが椅子に座るので、私は対面の椅子に座る。ちょっと話を聞きたいからだ。
「ヘスティアさんは、私が火を点けるまでは神界にいたんですよね?」
「そうだね。顕現出来る環境がなかったからね」
「顕現出来る環境は、他のところでは満たされないんですか? ここでは満たしたみたいですけど……」
「うん。【神炎】が必要なとに加えて、もう一つ私を呼ぶための素材が必要になるから。あそこにあった素材は、ハクさんが持って帰ってきた灰だね。まぁ、あれだと力が弱いから、私が作った炭を渡したってわけ」
「なるほど」
ヘスティアさんが他のギルドエリアに呼ばれる可能性があるかと思ったけど、結構条件が厳しい。まず【神炎】が難しいし。
「それじゃあ、灰はあってもなくても良いって感じですか?」
「そうだね。炭があるから、必要はないかな」
せっかく持って帰ってきたけど、あまり意味はなかったみたい。ヘスティアさんから炭を貰えなかったら、必要になったみたいだけど。
「なるほど。そういえば、ヘスティアさんはサクヤさんかポセイドンさんはご存知ですか?」
神様の横の繋がりを知りたくて、ちょっと訊いてみた。
「うん。サクヤちゃんは土地神をしてるよね。昔、何度か話した事があるよ。ポセイドンは、もっと親密かな。私はポセイドンの姉であって妹でもあるから」
「?」
サクヤさんと交流があったのは分かったけど、ポセイドンさんとの関係がよく分からない。姉でも妹でもあるとはどういう事なのだろう。
「複雑な家庭事情があってね。一応、姉弟の中では長子なんだけど、私が一番肉体年齢が下なんだよね」
「何か本当に複雑そうですね」
「うん。人様に聞かせるようなものでもないから、あまり気にしないで良いよ」
これも神話を元にしているのなら、現実で調べれば答えが出て来るかな。
「サクヤさんは土地神で、ポセイドンさんは海の支配者って話ですけど、今のヘスティアさんの立ち位置は、どうなるんですか?」
「う~ん……簡単に言えば、この辺りの土地神になったって感じかな。いつでも神界には戻れるけどね。取り敢えず、この土地は祝福されているはずだから、少なからず影響はあるかな。あっ、良い方にね。私が豊穣の神とかなら、もっと影響はあるんだけどね」
一応、このギルドエリアの土地神になったみたい。土地にも影響があるというのは、どんな感じなのだろう。それは後々分かってくるかな。多分、作物の生長速度か特殊な作物が育ちやすいとかなのだと思うけど。
取り敢えず、聞きたいことは聞けたかな。ヘスティアさんのおかげで、良いスキルも手に入ったし、ギルドエリアに来てもらって良かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます