第393話 移動する厄災

 次の闘技場も戦闘中みたいだった。なので、ソルさんに向かって混合熱線を放つのと同時に他のプレイヤーを巻き込む事にする。

 攻撃と攻撃の合間にタイミング良く混ぜた混合熱線をソルさんは、私の頭に手を置いて完全な死角に移動する事によって避けていた。このままだと、背中を斬られてしまうので、血と影と【神炎】を噴き出してソルさんを近づけさせない。

 混合熱線を吐き終えると、プレイヤー達が闘技場の端っこに移動していた。私の混合熱線から逃げていたみたい。再び混合熱線をチャージしつつ、背後を振り返ってソルさんの攻撃を受け止める。咄嗟に【鬼】を使う事で物理攻撃力を底上げし、完全に受け止めた。


「やっぱり怖い威力だね」

「私としては、ソルさんの攻撃の方が怖いですけどね」


 火属性と光属性、神聖属性の混合攻撃である混合熱線は、私に命中したとしても全く効かないので、ソルさんの攻撃の方が恐ろしかった。


「まぁ、スキル構成が違えば、怖い物も変わるよね」


 ソルさんはそう言いながら、私の身体を浮かして吹っ飛ばしてきた。【鬼】を使っているし、私の物理攻撃力も相当なもののはずなのだけど、技術で浮かされたような感じがする。

 闘技場の中央に着地すると、急に周囲から魔法が殺到してきた。ソルさんと戦っている今なら私を倒せると思ったみたい。火、水、氷、光、神聖、闇、暗黒属性以外は武装系スキルで逸らしておく。

 そんな弾幕のなかを近接職が突っ込んできた。面倒くさいので、【天聖】【邪鬼】を使い、光と闇の剣をどんどんと飛ばしつつ、何人かを魅了状態にし、狙いを私から周囲のプレイヤーに逸らす。ついでに、周囲に魔法職プレイヤーを全員視界にいれて呪い状態にした。何人かが魅了状態になったから、弾幕も薄くなる。

 そこにソルさんも混じって、次々にプレイヤー達が屠られていった。五分もしないうちに、周囲にいたプレイヤーは全滅した。キル数を稼ぐために、沢山移動していたけど、恐らくそろそろ十分なはず。

 ここからは、ソルさんと真っ正面から戦う。それをソルさんも感じ取ったのか、ニコッと笑っていた。

 まず初めに動いたのは、私の方だった。

 【電光石火】で突っ込んでいく過程で、【支配(影)】を使い、影の中に入って背後に回り、ソルさんの足元から白百合を振り上げる。ソルさんは鞘を動かして、白百合の攻撃を受け流した。そして、私の事を思いっきり蹴り飛ばす。影による防御が働くけど、即座に割られて【夜霧の執行者】を一回使わされる。ついでなので、そのまま霧化してソルさんから離れる。

 次にするのは、【天聖】と【邪鬼】で短剣を数十本ずつ作り、ソルさんに飛ばす。ソルさんは一部の短剣だけ刀で弾き、その他は最小限の動きで避けていた。それでいて、私から視線を完全は外さない。

 だから、勢いよく空を飛んで視界から外れようとしたら、闘技場の一番高いところ辺りで、思いっきり頭を打った。


「あぅっ!?」


 本当に勢いよく飛んだからか、ダメージにはならなかったものの気絶状態になってしまった。時間にして二秒くらいだけど、ソルさんが私を倒すのには十分な時間だ。でも、そうはならなかった。


「よっと……大丈夫?」


 私の攻撃を潜り抜けてきたソルさんが、空を駆けて受け止めてくれていた。


「あ、はい。大丈夫です」

「限界高度が、ここまで低いとはね」

「はい。予想外でした。というか、私を助けて良かったんですか? どう考えても私を倒せるチャンスだったんじゃ?」

「だって、突然頭打って真っ逆さまに落ちてきたら心配になるよ。相手が知らない人なら斬ってたけどね」


 知り合い特典で助かったらしい。基本的には優しい人だからっていうのもありそうだけど。


「それじゃあ、仕切り直しね」


 地面に着地したソルさんは、私を地面に降ろすと、距離を取った。本当に仕切り直しをしてくれるらしい。取り敢えず、空を飛んで上から攻撃するというのは止めておこう。現状の限界高度からすると、ソルさんもすぐに駆け上がれる高さなので、こちらが有利とはならないからだ。

 正面から【電光石火】で突っ込んで白百合と黒百合を大斧にして振り下ろす。ソルさんはタイミングを寸分違わず合わせて、綺麗にパリィした。そのままパリィされると、隙が生じるので、白百合と黒百合を結合している血液の硬質化を解いて、黒百合だけを空に打ち上げさせる。手元に残った白百合で、ソルさんの刀を受け流す。パリィしてすぐに攻撃に移ったのだ。

 仮に硬質化させたままだったら、また【夜霧の執行者】を使わされていた。


「【共鳴】」


 打ち上がった黒百合を手元に戻して、黒百合を振り下ろす。ソルさんは一歩横にずれる事で避けたけど、左手に持った白百合で追撃を掛ける。こっちは刀によって受け流された。この間に、右脚に圧縮した血液を纏わせて、回し蹴りをする。私の白百合を受け流した事でがら空きになった左側を狙ったのだけど、既に刀が私の脚の通り道に置かれていた。

 普通であれば、ただ私の脚が斬られるだけだけど、何重にも血液で強化していたおかげか、ソルさんの刀と拮抗する事が出来た。これにはソルさんも少し驚いていた。ソルさんの身体が浮き上がり、軽くノックバックしていく。身体が浮いたところで、黒百合を思いっきり投げつける。空中では身動きは取れないと思っていたのだけど、すぐにそんなわけないという事を思い出す。そもそも【空歩】を知ったのはソルさんきっかけだったし。

 ソルさんは空中で身体を捻って黒百合を避ける。それに、不自然に止まって地面に着地していた。恐らく、【慣性制御】だ。そして、即座にソルさんが【電光石火】で突っ込んでくる。【心眼開放】の前に嫌な予感がしたので、【電光石火】で背後に逃げる。

 さっきまで私がいた場所を、さっきまでとは違う馬鹿でかい刀が叩き割っていた。いつの間にか入れ替えていたみたい。


「バレちゃった……訳じゃないかな。ハクちゃんは、いつも勘が良いもんね」

「経験上、自分の感覚に従っていた方が安全ですからね」


 ソルさんが握っていた刀は、すぐに元の刀に戻っていた。アイテム欄の武器と装備している武器を入れ替えるスキルだったかな。攻撃の直前に変えるという割と嫌な使い方だ。血液に収納する私のスタイルでは、真似がしづらいものだ。


「言っておくけど、ハクちゃんの双剣を色々な武器に切り替えるのは、こっちもやりづらいからね」

「顔に出てました?」

「うん」


 私の双剣を色々な武器に切り替える戦法も意外と嫌な戦い方だったみたい。でも、ソルさん相手に多用は厳禁だ。対応されて負ける。だから、ちゃんと負けない戦いをしないといけない。

 そう思っていたら、四方向の出入口から沢山のプレイヤーが入ってきた。どうやら中央四つの闘技場まで来ていたみたい。入ってきたプレイヤーは、百人近くになるかな。


「何で急に……」

「暴れているプレイヤーは、私達だけじゃないって事じゃないかな。基本的に死なないことが最低条件のイベントだから、安全圏まで逃げようと思うのは当然の心理だよ」


 いつの間にか背後に来ていたソルさんがそう言う。全員で攻撃し合わずに逃げてきた事から確かに生き残ろうという考えだけで来ている事は想像できる。


「今回はハクちゃんとゆっくりじっくり戦うのは難しそうだね。取り敢えず、邪魔は排除しようか」

「えっ、あ、はい。分かりました」


 私達を見たプレイヤー達が武器を構えて突っ込んできている事が分かったので大人しく頷いた。ソルさんとしては、私とはじっくり戦いたいらしい。だから、こうして逃げてきたプレイヤー達を一旦全滅させようという事みたい。

 ソルさんも動いているので、取り敢えず私の視界に広がるプレイヤー達に向かって血と影の大波を食らわせて思いっきり炎上させていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る