第390話 都合良くいかない探索

 紅葉さんの元に降りると、紅葉さんがビルの方に手を向けていた。すると、大鉈が紅葉さんの元に戻ってくる。私の白百合と黒百合の【共鳴】みたいなものかな。


「紅葉さん、ありがとうございました」

『いえ、ここまで圧倒できていたのなら、私の助けは要らなかったかもしれませんね』

「いえいえ、来て下さって助かりました。どう動きを止めようか迷っていましたから。それにしても、大鉈を投げてドラゴンを吹っ飛ばしたのは本当に凄かったですね。あれは紅葉さんの力なんですか?」

『私の力もありますが、この鉈が重いからでしょう』


 そう言って、紅葉さんが大鉈を私に差し出す。それを受け取ると、あまりの重さに取り落としそうになった。先端を地面に着けて、ようやく支えられる重量だ。ステータスが上昇するスキルをいくつも持っているから、私の力も相当高いはずなのだけど、この大鉈は支えられない。


「重すぎじゃないですか……?」

『私としては、重さで押し潰す方が楽ですので』


 紅葉さんは大鉈を軽々と持ち上げて肩に担ぐ。これが本物の鬼の力なのかな。それにしても激しく動いていたからか、紅葉さんの着物はかなりはだけていた。


「紅葉さん、服を直した方が……」

『これは……失礼しました。まさか、すぐに戦闘になるとは思わなかったもので。少々お待ちください』


 紅葉さんは一旦転移で消えると、動きやすいように袖が短くなり、裾上げされた着物で戻って来た。そうなると、脚が剥き出しなのではと思ったけど、股引のようなもの着ていた。ここら辺はゲームの配慮なのかな。ちょっとヘンテコな服装っぽいけど、紅葉さんがしていると、不思議と違和感はない。


『これでまた戦闘が起こっても大丈夫です。それにしても、清ちゃんから聞いていた話と少し異なりましたね。戦闘はないとおっしゃっていましたのに』

「今回の戦闘は私も予想外でした。これまであのモンスターがいたことはなかったので」

『なるほど。そういう事でしたか。では、ここからは何もなく探索が出来そうですね』

「はい」


 紅葉さんの様子も確認出来たので、さっきのエンカウントボスの報酬を調べる。吸血では【機関銃】が獲れていたけど、初討伐報酬としては、【エネルギー吸収】が手に入った。


────────────────────


【エネルギー吸収】:熱、電気、光、あらゆるエネルギーを吸収する事が出来る。吸収したエネルギーは解き放つことでダメージを与える事が出来るが、許容量以上のエネルギーを吸収すると自爆する。


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 控えでは発動しないので、パッシブ発動というよりは任意タイミングで発動するアクティブ系スキルかな。正直、熱と光に関しては無効化を持っているから、あまり使い道がないように思えるけど、何か特別な使い道とかがあるのかな。要検証だ。

 そこからはいつも通りの探索だ。紅葉さんも一緒に手伝ってくれて、パソコン一台とUSBメモリが一つ見つかった。ようやくパソコンを見つけたので、これをアカリに渡して調べてもらう事にする。

 今日の探索を終えたところで、紅葉さんにお礼を言ってから別れた。

 そして、ギルドエリアに戻ってきた私は、アカリの作業部屋に移動する。


「アカリいる?」

「いるよ」


 アカリは裁縫をしながら、こっちを振り向く。メアリーがいないところを見ると、メアリーには別の作業をやって貰っている感じかな。


「これって直せる?」

「ん? 何これノートパソコン?」

「だと思う。ほら、USBメモリを手に入れたって話はしたでしょ?」

「うん」

「もしかしたら、ノーパソで見られるかもしれないじゃん? だから、直せないかなぁって」


 私の頼みに、アカリはパソコンを調べ始めてくれる。でも、眉を寄せているところから見るに難しいのかな。


「う~ん……正直、生きているパソコンを探す方が早いかも。基板が滅茶苦茶だし、色々と部品がないから。部品の作り方もよく分からないし、そこから探らないといけないかな」

「そうなんだ。それなら地下空間に行った方が早いかな。ありがとうね」

「ううん。力になれなくてごめんね」

「いいよ。駄目元だったし。そういえば、アカリはヘビーアームドドラゴンって知ってる?」


 ここで一応アカリに確認してみる。あのヘビーアームドドラゴンが前からいた可能性もあるから。


「私は知らないかな。どんなドラゴンなの?」

「身体中に銃を着けていて、私が使う反転物質みたいな攻撃方法があるって感じ」

「うん。やっぱり知らないね。態々訊くって事は、エンカウントボスか何か?」

「正解。廃都市エリアで遭遇したんだ。他の人も遭遇しているなら前からいるやつだと思ったんだけど、その感じだと今回追加されたやつなのかな」

「態々廃都市エリアに配置してるくらいだし、そうなんじゃないかな。もしかしたら、エリア限定のエンカウントボスかもよ?」

「そうなると、遭遇確率は上がるって事かぁ……探索の邪魔だからそうじゃない事を祈ろっと」


 正直、そこまでの脅威ではないけれど、あの機銃が万全に機能している状態では戦いたくない。エアリーが全部弾いてくれる事は分かっているけど、かなり面倒くさい相手という事に変わりは無い。エンカウントボスだから、遭遇する確率が低い事に賭けよう。


「ソイルちゃんが見つけた地下の空間に生きてるパソコンがあると良いね」

「まぁね。戦闘アンドロイド達の整備工場があると思うから、多分ある程度は生きてると思うけどね。それじゃあ、私はログアウトするね。そろそろ夕食だから」

「うん。またね」


 夕食の時間なので一旦ログアウトする。そして、諸々のやることを終わらせて、夜に再びログインした。今度はラングさんのお店に向かった。


「ラングさんいますか?」

「ん? おう、嬢ちゃんか。珍しいな。武器の直しか?」


 ラングさんは裏から出て来た。そして、すぐにカウンターに立つ。


「いえ、おかげさまで良い状態のまま使わせてもらってます。今日は別の相談で来ました」

「別の相談って言うと、銃か?」


 ラングさんには武器に関する相談を少ししている。だから、銃に関する事も知ってはいた。


「はい。今って、どのくらいの銃が作れますか?」

「そうだな……現状だとハンドガンとショットガン、アサルトライフルくらいだ」


 そう言ってラングさんが銃を並べてくれる。私自身は銃に詳しくないから、何となくの種類しかわからない。よく知っている人だったら、銃の名前とかが分かるのだと思うけど。


「う~ん……う~ん……やっぱり血ですぐに作るのは無理そうですね……」

「すぐには厳しいかもしれないな。近接武器と違って、一挺で全ての銃をカバーできる訳じゃないからな。素体だけ持つというのも厳しいだろう」

「じゃあ、現物を持たないと駄目ですよね。取り敢えず、一つずつください」

「毎度。大分高いが、金は大丈夫なのか?」

「自分の身体から出せるので大丈夫ですよ」


 適当に生産素材を身体から出せば、簡単にお金稼ぎは出来る。それに深海とかを歩いて調べても、金目のものを探す事は出来るし、お金で困るという事はない。

 まぁ、その前にまだまだお金は有り余ってるから、そういう意味でも全く困っていないのだけど。


「そうか。また何かあれば言ってくれ。武器も不調だったり、物足りなくなったら、すぐに改良してやる」

「はい。ありがとうございます」


 ラングさんにお礼を言ってから店を出る。これで銃系統のスキルもレベル上げ出来る。SP問題解決にも一歩近づけるかな。

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