第368話 大洋に潜む怪物
サクヤさんと話しながら、ゆっくりとした時間を過ごした後、私は大洋エリアへと来ていた。クエストである『大洋に潜む怪物』を進めるためだ。多分、大洋エリアに来れば何かしら起こると思う。
【熾天使翼】を広げて空を飛んでいると、【万能探知】で海中に何かがいるのが分かった。それは空中からでも分かるくらい大きい蛇のようなモンスターだった。ただ、その終わりが感知出来ない。私の感知よりも大きな存在らしい。
「こんなモンスター見た事がない……やっぱり、クエスト受注で現れる系のモンスターなんだ。てか、でかすぎ……」
確かに、あの大きさなら金属の船が沈没したのも無理はない。イモータルメガロドンが可愛く思える大きさだし。海中にいたそのモンスターが飛沫を上げながら飛び出てくる。そこでようやくモンスターの名前が分かる。リヴァイアサンという名前のモンスターは、私の事を噛み砕こうと突っ込んできていた。
顔だけでもイモータルメガロドンの倍くらいあるので、普通に避けても攻撃範囲に入ってしまうと思う。だから、【電光石火】で大きく背後に退いた。
リヴァイアサンの牙が空を砕く。私を倒せなかった事で苛ついたのか、今度は水のレーザーを撃ってきた。前にもスワンソーサラーが使ってきたりしたけど、それとは比較にならない程の太さがある。なんなら、私の身長の倍以上はある。
咄嗟に【支配(水)】で逸らす。でも、すぐに嫌な予感がして、上空に向かって【電光石火】で移動する。すると、さっきまで私がいた場所を水のレーザーが通り過ぎていった。私が逸らした後に、思いっきり湾曲して背後から襲ってきたらしい。
「もしかして、リヴァイアサンも支配を持ってるの?」
そんな独り言に答えるが如く、リヴァイアサンが咆哮する。それだけで、空がどんどんと暗くなっていった。夜に変わったわけじゃない。分厚い雲に覆われて激しい雷雨を伴う嵐が生まれていたのだ。恐らく天候魔法の一つだと思う。そんな雨がリヴァイアサンの周りに集中していく。あれは、レインの戦い方で見た事がある。
「ヤバい!」
私はこの嵐の中で【神炎】を出して一点に凝縮させた。【炎翼】も使う事で、どんどんと熱量が上がっていき、私の周囲を通り過ぎる雨が海に落ちる前に蒸発する。同時に、【蒼天】と【天聖】の混合熱線をチャージする。ここに【邪鬼】を合わせる事も可能だけど、それは私の中の光と闇の混合になるので、下手すると私の中で反転物質が生まれる事になる。さすがに危険過ぎるので、まだ試せていない。
リヴァイアサンが集めた水を圧縮して撃ち出すのに合わせて、私も熱量を上げた【神炎】を撃ち出す。火と水なら、水の方が有利になるけど、こっちの火は異常な温度に達している。私の火とぶつかり合ったリヴァイアサンの水が一気に蒸発し水蒸気爆発が起こり、辺り一面に衝撃波が撒き散らされる。【暴風武装】で衝撃波をやり過ごす。
そして撒き散らされた水蒸気の中をリヴァイアサンが突っ込んで来た。そこに混合熱線を吐き出す。リヴァイアサンの口の中に吐き出された熱線が、リヴァイアサンを内側から焼いていく。リヴァイアサンのHPが三割程削れたところで、リヴァイアサンが海に潜っていった。
「あれで三割か……手強いかも。【召喚・レイン】【召喚・スノウ】」
レインは、神霊となって【完全支配(水)】を手にしている。リヴァイアサン以上か同等の支配力を持っているので、この状況では頼もしい味方となる。そして、レインに唯一足りていない機動力をスノウと合わせる事でカバーする。
氷炎竜王となったスノウは、レインを背中に乗せる。
「私はリヴァイアサンの血を吸いに行くから、二人は無理しない程度に攻撃して。スノウ、レインを頼んだよ」
『ガァ!!』
『気を付けて』
「うん」
二人を空に残して、私はリヴァイアサンを空から追っていく。私がついてきている事に気が付いたのか、リヴァイアサンは、海中で体勢を変えて、こっちに突っ込んできた。でも、水中から出る前にリヴァイアサンが泳いでいた場所の水が消える。いや、正確には、水が移動して何もない空間が出来ただけだ。前にコーラルタートルを倒した歳にもレインがしていた事だ。前は結構無理をしていたようだけど、今は涼しい顔でやってのけている。重力に引かれてリヴァイアサンの身体が海底に落ちていく。
同時に、リヴァイアサンの身体に向かって、スノウが氷炎を吐いた。リヴァイアサンの身体が凍り付くけど、すぐに剥がされる。さすがに、そっちの耐性は持っているみたいだ。
剥き出しになったリヴァイアサンの身体に取り付こうとしたら、リヴァイアサンが咆哮した。その瞬間に、身体から力が抜ける感覚がした。そして、この感じには懐かしさを覚える。
「これは……ステータス低下だ」
感覚的には三割くらいといったところかな。でも、これくらいなら普通に戦える。迷わずリヴァイアサンに突っ込み、その首の後ろに張り付く。血と影を駆使して、身体を縛り付けた上で白百合と黒百合を突き刺し、身体を安定させる。
「ステータスが低下したくらいで怯むと思った?」
【吸血】をずっと付けていた私にとって、ステータス低下は当たり前の事だった。これくらいで怯む事はない。
リヴァイアサンの身体に噛み付いて、吸血を始める。リヴァイアサンが身体をうねらせて海底を移動しながら、レインが退けた水に移動しようとする。でも、その度に、レインが水を退かしているので、一向に海に戻れない。私の仕業ではない事に気付いたのか、リヴァイアサンの尻尾の方が、空を飛ぶスノウ達に向かっていく。同時に、私の方にも水による攻撃が来た。私でもある程度までは操作できるので、なるべく私に当たらないように逸らす。
どんどんとHPが削れていき、残り三割になったところで、再びリヴァイアサンが咆哮した。悪天候だったのが、さらに悪くなり、槍のような雨と激しい落雷が降り注ぐ。さらに、私のステータスが下がる感覚がした。でも、血と影の力に大きく影響するわけじゃない。そのまま吸血していき、リヴァイアサンを倒した。
力なく横たわったリヴァイアサンは、全くポリゴン化しない。それに、【始祖の吸血鬼】でスキルを得たお知らせも届かない。でも、天候は晴れに戻っていた。
警戒しつつ口を離し、リヴァイアサンと距離を取る。
『お姉さん』
レインも海は元に戻さず警戒しながら、スノウと一緒に近くまで降りてきた。
「二人ともご苦労様」
頑張って戦ってくれたので、二人の頭を撫でてあげる。二人とも嬉しそうな表情をしていたので、思わず笑っていると、リヴァイアサンが首を持ち上げた。
「っ!?」
すぐに、白百合と黒百合を出して、二人の前に出る。レインもいつでも行動できるようにしている。リヴァイアサンは、こっちを見上げると大きく咆哮した。直後にウィンドウが出て来る。
『嫉妬の悪魔リヴァイアサンより、【嫉妬悪魔】及び【嫉妬の大罪】を引き継ぎました。【呪詛】【呪いの魔眼】は【嫉妬の大罪】に統合されます』
そのウィンドウが出た直後に、リヴァイアサンはポリゴンとなって消えた。
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【嫉妬悪魔】:悪魔の最上位に位置する階級。闇、暗黒、水に属する力を極端に強化する。闇属性、暗黒属性、水属性、呪い状態に対して完全な耐性を得る。全ステータスを非常に大きく上昇させる。控えでも効果を発揮する。
【嫉妬の大罪】:視界に入れた対象を呪い状態にする。呪い状態にする確率が大きく上昇する。戦闘状態になった対象のステータスを二割下げる。自身よりもスキルレベルの合計が上の対象に与えるダメージが上昇する。自身よりもスキルレベルの合計が下の対象を確率で怒り状態もしくは行動不能にする。HPが二割以下時、ステータスを三割上昇させる。控えでも効果を発揮する。
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『クエスト『海洋に潜む怪物』をクリアしました。報酬として、根源の紙を獲得しました』
『【始祖の吸血鬼】により、リヴァイアサンから【水神竜】を獲得』
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【水神竜】:水属性の攻撃の威力が上昇する。泳ぎの速度が上昇する。MPを消費して、水で出来た水神竜を放つ事が出来る。
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何か色々と手に入れた、まずは、【嫉妬悪魔】と【嫉妬の大罪】を手に入れた。リヴァイアサンは、嫉妬を司る悪魔だったらしい。そこは私も知らなかった。てか、七つの大罪について、そこまで詳しくないし。ここは、現実に戻ったら軽く調べておく事にする。
続いて、根源の紙を手に入れた。これはアイテム化すれば、根源が手に入るものだけど、正直また血になったらどうしようと思ってしまう。多分大丈夫だろうけど。
そして、最後の【水神竜】は完全に予想外だった。正直、息吹系のスキルが手に入ると思ったからだ。控えでは使えないから、基本的には使わないスキルになるかな。
「色々と凄いなぁ……取り敢えず、上に行こうか。スノウ、お願い出来る?」
『ガァ!』
このまま海に大きな穴を開けておく訳にはいかないので、スノウに乗って上空に移動し、海を元に戻して貰う。
「……これ他のプレイヤーが被害に遭ってそうだなぁ」
『やらない方が良かったかな?』
レインが少し顔を曇らせるので、その頭を撫でて安心させる。
「そんな事ないよ。おかげで助かったしね。他のプレイヤーには申し訳ないと思っておこう。あんなのが出て来るのが悪い!」
『うん!』
運営への責任転嫁だけど、実際運営がこんなクエストを用意する方が悪いと思うので、開き直る事にした。
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