第330話 封印すべき必殺技
身体が崩壊した後、私達はファーストタウンの広場に戻ってきた。
「はぁ……これじゃあ、最高でも入賞までだね。ごめんね」
「ううん。ハクちゃんと一緒に楽しめたから、全然大丈夫だよ。でも、あれはあまり使わない方が良さそうだね」
「本当にね。光と闇のコントロールの正確さも上がっているから、自爆にはならないと思ったんだけどね。血を通して使えるのが分かったのは進展だけど、取り出す量が増えていたのは、本当に誤算だった。闇霧の始祖にも報告しておかないと」
ようやく報告出来そうな事が出来た。私にとっては、完全に失敗だけど、闇霧の始祖からしたら、面白い事って評価になるだろうし。
「そうだね。安全圏まで離れたところから出来たら良いんだけどね」
「あぁ~……どこまで離れて平気かは調べておかないとか。どうせ、突っ込まれるだろうし」
「安全な場所でやりなよ? プレイヤーが少ない場所とか」
「大洋エリアかな……完全支配なら、海の中で拡散させないくらいは出来そうだし」
普通に水の中に血を入れたら、水の中に血が広がっていくだけになるけど、【完全支配(血)】なら拡散させずに血の塊として残しておく事が出来るはずだ。それに、大洋エリアは、船を使わないと移動しにくいので本当にプレイヤーの数が少ない。だから、こういう実験には打って付けの場所だと思う。
「それじゃあ、早速大洋エリアに行って来る」
「うん。いってらっしゃい」
アカリにキスをしてから、大洋エリアに転移する。イベントの結果を待って、広場にいる必要はない。別にイベントの様子が見られる訳でも無いみたいだし、他に参加している知り合いもいないしね。
大洋エリアの端っこに移動して、空中から血を流し続ける。予想通り、海の中に血溜まりが出来始める。青い海の中で赤い海が出来上がっていく。十分な量の血を海に浮かして、自分は安全圏まで離れる。
「このくらいかな……っと、メッセージだ」
イベント終了のメッセージが届いた。時間で終了するには早いので、最後の一組が決まったみたい。後まで生き残っていたプレイヤーが優勝で、そこから生存時間が長い順に入賞者が決まるみたい。私達は入賞者に選ばれなかった。あの反転物質爆発で、死んだ時点でまだ十組以上生き残りがいたみたいだ。
「やっぱり、アカリに悪い事しちゃったかな。何もイベント中に実験しなくても良かったしね。まぁ、やってしまった事をずっと引き摺っていても仕方ないか。現実の方で埋め合わせはしておこっと」
次の休みにデートに誘うのが埋め合わせになるはず。私も行きたいし。
イベントの結果を確認し終えたところで、実験の続きをする。離れていても、自分の血液の場所はしっかりと分かっている。そこに【光明武装】と【暗黒武装】を発動する。離れていても私の武器という判定を受けるみたいで、二つがちゃんと発動したのを感じる。
さらに、【魔聖融合】を発動すると、その場所の色が反転しているのが見えた。
「あっ、また量が多かった」
すぐに【魔聖融合】を解除すると、海の一部が消えて周囲の海を吸い取り始める。吸い取った水は、全て消えていくので半球状の凹みが出来上がっていた。吸い込みが終わり、反転した物質が出来上がる。そこに元に戻ろうと水が押し寄せていき爆発する。
反転した爆発の範囲には入っていないけど、爆風が届く場所ではあるみたいで、軽く飛ばされる事になった。
「うわわ!!?」
一旦羽を仕舞って、海の方に落ちるようにする。あのまま羽を使い続けると、錐揉み状態になって上も下も分からなくなりそうだったからだ。
【浮遊】で体勢を整えて、【重力操作】で空の方に昇り、再び羽で滞空する。海は、再び抉れていた。四方八方から海水が押し寄せていって、高い水の塔を作り上げてから元の海に戻った。いや、実際には元の海ではない。海は大きく荒れて、高い波が広がっていった。
「……これじゃあ、他のプレイヤーに被害が出るかな……沈まない事を祈ろう」
取り敢えず、安全域からでも操作が出来る事が分かった。自分の血が消えない範囲内であれば、どこでも武装系スキルは使える。【完全支配(血)】か【根源(血)】の効果なのかは分からないけど、新しい必殺技が出来たと言っても過言ではない。
ただし、空中では少し使いにくいという弱点もある。空中に浮かしているよりも地面に広げた方が遙かに楽だからだ。血液の空中操作に慣れるために、日頃から血液を浮かしておく事も考えておかないと。ただ遊び感覚でやればいいだけだから、そこまで苦ではないし。
「さてと、報告出来る内容になった事だし、闇霧の始祖のところに行こうかな」
今の位置からだと湖畔の古都が近いので、そっちに移動して古城の闇霧の始祖の塔へと向かった。
『何かあったか?』
紙に視線を落としていた闇霧の始祖がそのまま訊いてきた。私は、今回の【魔聖融合】の利用について話していく。すると、闇霧の始祖が紙から視線を上げて、こっちを見た。
『ふむ。お前、白炎の血を飲んだのか』
「へ? あ、うん。飲んだけど」
『根源を手に入れた事といい、白炎の血を飲んだ事といい、お前は驚かせてくれるな。白炎の力は発現したか?』
「ううん。黄昏の方も使えないよ」
『そうか。根源を持っている以上、使えてもおかしくないと思ったが……』
「そういえば、そっちは根源を持ってないの?」
同じ始祖だし、持っていてもおかしくはない。
『根源は、極限られた者だけが持つものだ。始祖だからと言って、必ず持っているものじゃない。お前はかなり運が良いぞ』
「そうなんだ」
『そうだ。そこまで行けば血液は武器そのものだからな。属性を乗せられるという事も頷ける。それに、一度に出せる量も遙かに上がっているのだろう? 文字通りの意味で世界を崩壊させられるかもしれないな』
「え~……」
闇霧の始祖にそう言われると、本当に出来そうな気がしてくる。ただ、そうなると、疑問になるのが、こんなものを実装した運営の思惑だ。ただ面白いからで実装したという事も考えられるけど、もっと違う何かの可能性もある。いつの日か、この反転物質生成が必要になるタイミングが来るのかな。
仮に来るとしても、あんな危険なものを使う時ってどういう時なのだろうか。それに、使うには最低でも天使と悪魔が必要だし、それを融合させる【魔聖融合】が必要不可欠だ。それを持っている人は、恐らく私だけだろう。そう思えるだけの苦労はあったから。
でも、可能性のある子はいる。私の血を飲んだあの子だ。もしかしたら、私と同じように色々なスキルを手にして、この領域に来る可能性がある。
「そういえば、私の血を吸血した子がいるんだけど、大丈夫かな?」
これについて闇霧の始祖に訊いてみる。すると、闇霧の始祖は、眉を寄せながら難しそうな顔をする。
『そうだな……正直、お前の血は、俺も飲みたくない。それくらいにデタラメな血液だ。飲んだ血の量にもよるが、身体に馴染むまでは、地獄のような苦しみだろうな』
「やっぱり?」
『まぁ、身体が拒否すれば、受け入れず排出されるだろう。それまでの辛抱だ。だが、お前の血を飲んだ吸血鬼は興味があるな。ここに連れて来られるか?』
「えっ? 無理だけど。でも、そのうち来るんじゃない?」
そもそもゲーム内で不必要に関わる人を増やしたくない性分なので、あの事も不必要に関わりたいとは思えない。例外と言えば、フレ姉のギルドメンバーとラングさんくらいだろう。どっちも必要以上に関わっていないけど。
そんなこんなで、アカリとのデュオイベントは終わり、封印すべき必殺技が完成した。明日は、天聖竜に一度挑みに行こうかな。
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