第329話 血溜まりの有効活用

 アカリと一緒に地上に降りた途端、第六感が反応する。影と血でアカリを覆いつつ、攻撃が来る方向の土を盛り上げて、土壁を作り上げる。同時に、土壁を迂回するように血の短剣を飛ばした。

 土壁の向こうで、誰かが動いたような気配がする。同時に、今度はアカリの方から第六感が反応する。即座に回り込んで蹴る。


「んっ……!?」


 私の反応速度を甘く見ていたのか、突っ込んできた黒装束の女の子の脇腹に命中した。吹っ飛んでいく女の子を別の黒装束の女の子が受け止めた。そこに、槍に変えた黒百合を投げつける。


「ひっ!?」


 女の子達がしゃがんで避けようとするので、黒百合を短剣に戻して、上から直角に落とす。無傷な方の女の子の背中に突き刺さり、猛毒、麻痺、沈黙状態になる。沈黙状態は、【黒百合の一刺し】の効果だ。

 さらに、アカリがそこに突っ込んで細剣を突き刺す。細剣には、私の血を纏わせている。麻痺で動けなくなっている方を庇うように前に出た女の子は、首と心臓を突き刺された。麻痺で止まったところで、二人の首を人斬りで斬り飛ばす。


「本当に暗殺者みたいな子達が出て来たね。私は気付けなかったよ」

「私は、【心眼開放】に【第六感】が含まれてるからね。ちょっと油断したら、吸血されたりするけど。まぁ、それよりもヤバい事になってるかも」

「どういう事?」

「周りに敵だらけって事」


 そう言いながら、飛んで来た雷撃を黒百合で迎撃する。私達の周りには、多くのプレイヤーの姿があった。戦闘音があまりしなかった理由。静かに相手を倒せるプレイヤーが多いからじゃない。協力して私を倒すために人数を集めていたみたいだ。今度は烏合の衆という感じがしない。


「さっき【蒼天】を使ったから、居場所がバレたんだと思う」

「ど、どうするの?」

「戦うしかない。アカリは、乱戦に慣れてないよね?」

「うん。殲滅戦とかくらい」


 あの時は、アク姉達もいたし、相手はモンスターだったから、今とは大分状況が異なる。アカリを守りながら戦うのは厳しいし、どうしたものかと悩んでいると、魔法が飛んでくるので、全部黒百合と白百合で打ち消す。


「まぁ、頑張ろうか」

「うん。そうだね」


 どうしようもないので、二人で頑張る事にする。私が特攻する事も有りだけど、確実にアカリが集中攻撃されるので、二人一組で戦う。そもそもこのイベント趣旨がそれだろうし。

 黒百合と白百合を血の中に仕舞い、アカリの腰を抱えて、【電光石火】で移動する。すれ違いざまに片手剣持ちのプレイヤーの首を、移動中に出した人斬りで斬る。首を防御していないなら、私は一撃で倒せる。そうでなくても、人に対して特効である人斬りなら、大ダメージは免れない。PvPでは無類の強さを誇る。

 一人を倒したと同時に、近くにいる魔法使いに向かってアカリを投げる。魔法使いが魔法を使おうとしたところを、アカリが爆薬を投げて阻止した。爆発に驚いた魔法使いが言葉に詰まった後、声が出なくなっている事に驚いていた。爆薬の中に沈黙状態になる毒を混ぜていたみたい。狼狽えている間に、魔法使いの傍まで接近したアカリが、喉と心臓を突いてから瓶を投げて後退する。クリティカルダメージを受けた後、アカリの投げた瓶が割れて、魔法使いが激しく炎上する。

 その魔法使いを助けようとした魔法使いの背後に【電光石火】で移動して首を刎ね、【雷脚】で速度を上げながら駆け抜けつつ、周囲にいたプレイヤーの首を刎ねていった。六人くらい倒してから、アカリの傍に移動して、また腰を抱えて【電光石火】で移動する。

 アカリを放して、アタッカーの片手剣持ちに投げる。その間に、タンクの方に突っ込んで真上から人斬りを振り下ろす。【加重闘法】を使って重さを上げた事で、タンクの足が地面にめり込む。そこに【竜王息吹】で思いっきり炎を吐きかける。


「【シールドバッシュ】!」


 さすがに焼け死ぬと思ったのか、盾で私を跳ね上げようとした。でも、【浮遊】と【重力操作】でタンクの背後に移動し、その肩に噛み付く。吸血しつつ、鎧の隙間から血を流し込んで、鎧の内側の肉体を滅多刺しにする。血を飲み干したところで、思いっきり血液を撒き散らす。血液が森の中にどんどんと広がっていく。

 片手剣持ちと良い勝負をしていたアカリの元に【電光石火】で向かい、アカリの事を血液で私の方に引っ張りながら、首を刎ねる。そして、飛んで来ていた魔法を私達に当たらないように逸らす。

 ただ、魔法の数が異様に多く、種類も豊富だった。さすがに、全てを逸らし続けるのは、無理があるので、血液の壁を増やして命中する確率を減らす。


「アカリ、爆薬はどのくらい残ってる?」

「えっと……二百個ぐらい」

「多っ!? まぁ、いいや。百個ぐらい、血の上に出して」

「うん」


 アカリは、何も訊く事なく、爆薬を次々に血の上に置いていった。その片っ端から血の中に入れていく。


「これで百個」

「オッケー。じゃあ、行くよ」


 血液の上を走ってきているプレイヤーが分かる。私の一部というべきものだから、その上を通っている人がいる事くらいは分かる。その位置に爆薬を出して、血液で割る。


「うわぁあっ!!?」

「うおっ!?」

「きゃっ!?」


 様々な場所からプレイヤー達の悲鳴が聞こえてきた。爆発で少なからずダメージを負っているはずだ。回復の隙は与えない。動きを止めた瞬間に、複数個一遍に爆破してダメージを重ねる。その間に、血の水溜まりを広げていく。【完全支配(血)】のおかげで、かなり広範囲に広げても血液の場所が分かるし操れる。地面の血液を水で押し流そうとしているプレイヤーもいたけど、それは無駄だった。こっちの血液の量は、向こうが出す水の何十倍も多い。すぐに新しい血液が広がる。それを見て諦めたみたいで、邪魔をされる事はなくなったけど、大人しく血液の上にいる事もなかった。

 その場から逃げ出すか、【浮遊】などで地面に接しないか、今爆破攻撃を受けているプレイヤー達みたいに、何かをされる前に私を倒そうとしてくる。


「このくらいかな。アカリ、おいで」

「うん」


 両手を広げてアカリを抱きしめる。向こうも私を抱きしめるので、二人の距離はほぼゼロだ。こうしてくっついたのには理由がある。今からやることになるべくアカリを巻き込まないためだ。

 血液は私の武器。その認識は、ずっとある。だから、この血液には、私の武装系スキルが機能するはず。私の目論見通り、血液が影、炎、雷、闇を纏う。その血液を一気に剣山のように尖らせた。ただの血溜まりが、一転血の剣山となり、上にいるプレイヤー達を襲う。さすがに、鎧を着込んでいる相手には、効果は薄いけど、これを防いだだけで安心をしたのなら、それは間違いだ。だって、剣山になったとはいえ、元は血液なのだから。

 防がれた血液の剣山を液化して、相手の鎧の中に入れる。そして、さっきのタンクのように内側から串刺しにする。


「アカリ、もう百個の爆薬」

「うん」


 再び爆薬を血液の中に入れて、今度は私の血で麻痺しているプレイヤー達を次々に爆破していった。森中で爆音が響き渡る。


「ん? これって、もしかしたら……」

「どうかしたの?」

「ちょっと思い付いた事があってね。上手くいくか分からないけど、ちょっとやってみようかなって」

「それって、大丈夫?」

「下手したら、私達もろともだね」

「う~ん……でも、ハクちゃんはやりたいよね。良いよ」

「ありがとう」


 アカリの額にキスをしてから、【光明武装】と【暗黒武装】を血液に使う。若干反発みたいなものがあるけど、これくらいなら無視出来る。その光と闇を離れた血液の場所に集中させて、【魔聖融合】を使う。この【光明武装】と【暗黒武装】が私の光と闇を使っているのか。これが大きな問題になるけど、そうでなければ、虚無が生まれるだけだ。ただし、もし仮に、私の光と闇を使っているのなら、それは虚無以上のあれを作りだせる事になる。私の視界内じゃないけど、血液の上でなら【魔聖融合】も使えた。

 そして、遠くからでも分かる事象が起きた。色の反転だ。


「あっ、やば……」


 遠くにし過ぎて、【魔聖融合】の制御が上手く出来ない。結果、私の制御から離れた光と闇の混合物が、周囲の空間を食い、ありとあらゆるものを吸い込む。私の血液も一気に持っていかれて、私とアカリのところまで吸い込みが来た。重力を反対方向に出して、抱きしめたアカリを絶対に放さないように、血液で括り付ける。さらに、足のスパイクを強化して、地面に縫い付けた。

 ただ、これで安心出来るものじゃないというのは、私も分かっている。周囲の木々が吸い込まれては消えていく。私の視界から確認出来るだけで、三人くらい犠牲になっていた。


「ハ、ハクちゃん!?」

「あ~……【魔聖融合】のやつ。使ったのは完全に失敗だったね。これ、私達も死ぬわ」

「やっぱり? でも、少量だったら、大丈夫なんじゃないの?」

「うん。でも、【光明武装】と【暗黒武装】になって一気に操れる光と闇の量が増えたから、【操光】【操闇】の時の半分以上はあるんじゃないかな。完全に逃げられない吸引力だし」

「まぁ、仕方ないよ。周囲には、まだ生き残ってるプレイヤーも多かったわけだし。あっ、また消えていった」


 次々にプレイヤー達が吸い込まれて消えていく。でも、一番恐ろしいのは、この後だ。吸引が終わり、反転した物質が出来上がり、そこに一人のプレイヤーが触れる。吸い込まれていた勢いのまま突っ込んでしまった形だ。

 即座に爆発し、私達を含めて森の一角が消し飛んだ。イベントで思い付きの行動をするべきじゃなかった。そこはちゃんと反省している。まぁ、後悔はしてないけど。

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