第327話 自分の血
デュオイベントのエリアは、最初のバトルロイヤルの時と似ている森の中だった。あの廃都市だと、建物を壊して倒せたりしたから楽で良かったのに。転移直後に、開始までのカウントダウンが始まる。今回のイベント報酬は、イベントが終わるまで秘密みたい。
アカリは、自分の腰にぶら下げている細剣とパリングダガーを確かめていた。
「アカリ」
「ん?」
「楽しもうね」
「うん」
アカリの緊張も少し解れたところで、カウントダウンが終わり、イベントが始まる。
「どう動く?」
「走る速度が違いすぎるし、私が抱えていたら、アカリが戦闘に移るのも遅れるだろうから歩こうか。ただ、下手すると、相手が協力してくる可能性もあるから、四人とか十人とかと相手するかもしれないって思っておいて」
「……改めて、ハクちゃんって相当苦労して優勝してるよね」
「それだけ目の敵にされてるって感じかな。先にいろいろと準備はしておこうかな。皆は喚び出せないし」
さすがに、テイムモンスターの使用は禁止となっていた。普通にエアリーとかいたら、全員近づいてくる前に斬り刻める事になるから仕方ない。
準備として身体から血と水を出しておく。その血と水をアカリの周囲に小分けにして浮かしておいた。緊急防御で使えるようにしておくためだ。
「プレイヤー相手だと、【索敵】が効果を持たないのはキツいよね」
「確かにね」
アカリの言う通り、プレイヤー相手だと【索敵】も意味がない。なので、今は【腐食】を装備している。相手の武器とかの耐久を減らせば、こっちが有利になるしね。
そんな風に話ながら歩いていると、正面から鎧を装備したタンクと魔法使いの男女パーティーが現れた。
向こうも私達に気付いたようで、戦闘態勢に入ろうとした瞬間に後ろの魔法使いの喉に血で作った短剣を飛ばして突き刺した。【念力】になって動かす速度も速くなったし、【射出】
も併用したので、かなりの速度で飛ばす事が出来るようになっていた。喉を突かれた事で、魔法使いが沈黙状態になる。さらに、私の【猛毒血】と【麻痺血】の効果で、猛毒状態と麻痺状態にもなっていた。
「んなっ!?」
タンクが焦って魔法使いの方を振り向く。そこに、【電光石火】で突っ込んで、人斬りでタンクの首を刎ねた。タンクの全身鎧には、首を稼働させるためか鎧と兜の間に隙間があった。【心眼開放】でスローモーションにすれば、そんな隙間を通して首を刎ねるくらいは出来る。タンクの完全に首を断ったため、【致命斬首】の効果で即死した。
そのまま流れるように動いて、タンクが死んだのを見て狼狽える魔法使いの首も刎ねて倒した。
「装備的には初心者に近い人達かな。余所見をしなかったら、もう少し変わったかもしれないのに」
「いや……多分、そこまで変わらなかったと思うよ?」
「そう?」
確かに、こっちに気付いて盾で守ろうとしたら、【電光石火】で背後に回って、魔法使いから倒していただろうし、そこまで変わらないか。てか、人斬りの効果を確かめる良い機会と思っていたけど、【致命斬首】の効果がよく分かるだけで、人に特効という印象はなかった。
「もう少し歯応えのある人だと人斬りの効果も確かめやすいのになぁ」
「それって、ほぼ死闘になるよね。でも、そんな人、これまでソルさんくらいしかいなかったんだから、期待は出来ないんじゃない?」
「それが分からないのがゲームの良いところじゃん。このゲーム、経験値ブーストの課金アイテムもあるわけだし、私よりもレベルが高い人がいてもおかしくはないでしょ。後の問題は、プレイヤースキルくらいだね」
「ハクちゃんよりもプレイヤースキルがある人は、結構少ないと思う」
「そう? 割といそうだけど」
ゲームのプレイ人口がどのくらいなのかは知らないけど、私よりもプレイヤースキルが上の人はどこかしらにいると思う。世界は広いからね。
そのまま歩みを進めていくと、何度か戦闘が起こった。さすがに、最初みたいに私一人で倒しきるという事はなく、アカリも正確に急所を突いて、大きくHPを削ってくれた。首も守っているタンクが厄介だったけど、人斬りのおかげで倒しやすくはなっていたけどね。アカリの猛毒もあって、苦労するという程じゃなかったけど、面倒ではあった。
そんな中で面白い事もあった。二つのパーティーとの乱戦になっている間に、一人の女の子が、私に噛み付いてきたのだ。別の攻撃に対処していて、その小さな攻撃に反応しきれなかった。
噛み付きで致命的な攻撃判定はされなかったようで、【夜霧の執行者】は発動しない。初めて【吸血】の感覚を味わう事になる。本当に採血で血を抜かれるような感覚が……ない。それに、HPも減っていない。それどころか、女の子の方が猛毒状態に麻痺状態、さらに、急速にHPを減らしていた。
恐らく、【吸血鬼】まで育てる事が出来たのだと思う。だから、私の血液中に流れる強い光の因子でダメージを受けている。
私のダメージがないのは、【無限血液】により、身体を流れる血が減らないから、吸血されてもダメージにならないのだと思う。これを考えると、闇霧の始祖に吸血しても意味が無さそうだ。
「!?」
これには女の子も驚いていた。麻痺で動けないので、自分から離れる事も出来ず自動で血が口の中に入ってくるから、ダメージは重なるばかりだ。どうせなのでもっと飲ませてあげる事にした。勢いよく口の中に血液を押し込む。
「んぐっ!?」
これまでよりも遙かに多くの血液が口の中に入ってきたからか、苦しそうな表情をしている。ダメージも増えるので、若干焦りもあるみたいだ。もう少し私に吸血させて、私の血を調べたいところだけど、既にHPが一割を下回っている。
なので、私の方から離れる。
「げほっ!」
咽せている女の子の首を即座に断って、まだ戦っているアカリの援護のために、岩の剣と血の短剣を戦っている相手の両手足を斬り裂く。動けなくなった相手にアカリがトドメを刺して、この戦闘は終わった。
「ハクちゃん、大丈夫? 血を吸われたみたいだけど」
「大丈夫。【無限血液】のおかげで、血を吸われてもHPが減らないみたいなんだよね。だから、吸血をしながら私に別の攻撃をして倒さないとスキルは獲れないしね。まぁ、私にそんな事をしても、【夜霧の執行者】で霧になれるし、全身から血液の刃を生やして串刺しにするって方法も取れるから、吸血され続けても問題ないと思うただ、一つ面白い事が分かったよ」
「面白い事?」
「うん。多分、【吸血鬼】に進化してるね。ちょっと非力な感じがしたっていうのもあるけど、私の血を飲んでダメージを受けていたから」
「あぁ、因子ってやつだっけ。じゃあ、ハクちゃんに追いつくのかな?」
「どうだろう? 私の血を吸ったから、【魔気】とか【聖気】とかの収得条件は満たしたと思う。これからそれを取ってどう向き合うかで変わるんじゃないかな」
私の血は魔血と聖血が流れている。師匠の魔血を吸って【魔気】を得たように、私の魔血と聖血を飲んだ彼女が私と同じ道を歩く可能性はある。ただ、私の時には、既に下地みたいなものが出来ていたから、彼女が辿る道は私の時よりも険しいものになると思う。
「まぁ、頑張れってところかな」
「おぉ……ハクちゃんが師匠になるみたいな感じかな?」
「それは嫌だ。それをするなら、闇霧の始祖に押し付けるよ。私と同じ吸血鬼なら、闇霧の始祖にも気に入られるでしょ」
「古城に行くには時間が掛かるんじゃない……?」
「それはそうか」
闇霧の始祖に押し付ける作戦は上手くいきそうないので、弟子入りに来ないことを祈る事にする。
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