第317話 湖畔の古都

 湖畔の古都は、海辺の街的な雰囲気がある場所で、白い壁に赤い屋根の建物が多かった。空き家が多く、プレイヤー達がホームにしやすい街になっている。


「新大陸に拠点を構えるって感じかな」


 結局街間で転移が出来るので、どこに拠点を構えても問題はない。あるのは、店の多さとかそこら辺だけだ。私は、そこまで店に興味がないので、あまり重要視していない。アカリが基本的なものを作ってくれるし、武器はラングさんにしか頼んでいないし、そもそもアイテムを補充する習慣が、このゲームではない。モンスターが回復薬みたいなものだし。

 湖畔の古都には、NPCの店も少数しか無いので、プレイヤーが中心となる街になりそうだ。

 その中に、一際大きい建物がある。そして、その建物には見覚えがあった。


「あれ? これってギルド会館?」


 ポートタウンにあったギルド会館とほぼ同じような形をした建物が目の前にあった。何はともあれ、まずは中に入ってみる。中も大分似ている場所で、プレイヤーの姿もあった。ただ、ポートタウンよりも数がかなり少ない。その理由は、多分クラーケンを倒せるプレイヤーが少ないからだと思う。

 私は空を飛べるし、レインもスノウもいるから簡単に倒せたけど、普通のプレイヤーは船に乗ってあれと戦わないといけない。水中での戦闘も普通にあり得る。そう考えると、私がズルいって感じがするけど、スキルの違いのせいだから仕方ない。


「ようこそ、ギルド会館新大陸支部へ。クエストは、あちらに貼り出されています。受注する際は、受付までお持ち下さい」

「分かりました。ありがとうございます」


 入ってすぐに職員のお姉さんが説明してくれた。せっかくなので、クエストの種類を確かめておく。


「討伐が基本って感じかな。モンスターの名前が見た事ないから、多分このエリアで見つかるモンスターだよね。まぁ、正直お金には困ってないし、しばらくは受けなくて良いか」


 一通りギルド会館新大陸支部内を調べてみたけど、【心眼開放】で見つかるものはなかった。なので、そのまま出て行く。

 念のため、色々な店の中も見ていくけど、めぼしい物は無い。大体はアカリが作っているものだし。そのまま街中を歩いていると、端っこの方で【心眼開放】で靄を見つけた。固めると、一枚の紙になる。そこに書かれているのは、どこかの地図だ。


「う~ん……どこだろう? 街の近くっぽいけど……湖の中?」


 地図に湖畔の古都の一部があり、その部分が湖沿いだったところから、この地図が湖の中の地図だという可能性が出て来た。

 そんな中で、急に空の方から蝙蝠が降りてきた。蝙蝠は、私の目の前で滞空すると、私をジッと見てきた。


「私の蝙蝠じゃないし……闇霧の始祖からかな?」


 蝙蝠は、その場で霧に変わると、一枚の紙に変わった。その紙をキャッチする。そこには、血で文字が書かれていた。血文字で書かれているから、見た目だけで言えば物騒なものにしか見えない。


『雪狼会の情報の追加だ。奴等は、海を渡った先の街で消息を絶った。だが、その周辺の街に向かったという情報は無い。恐らく、その街の中で息絶えたか、何かがあったのだと思われる。こっちから調べられる範囲は、これくらいだ。時間が出来たら、こっちに顔を見せに来い。お前の状態も確認しておきたい』


 読み終えたところで、手紙は消えた。手に入れた情報を蝙蝠で送ってくれたみたい。この蝙蝠が私をずっと探していたのだと考えると、ちょっと申し訳なくなる。まぁ、最終的に消えているから、実際の蝙蝠ではないのだろうけど。


「あまり顔出せてなかったっけ。【属性結合】の効果で、身体がどうなってるのか知りたいし」


 闇霧の始祖のおかげで、この地図が雪狼会の生き残りもしくは邪聖教のアジトに繋がっている可能性が高い事が分かった。隠れ家への地図と判断して、ここを調べる事にひた。


「水の中か……まぁ、行ってみるだけ行ってみるかな」


 湖畔の古都を出て、湖の近くまで来た。湖は、かなり綺麗で透き通って見えている。


「おかしいなぁ。ここら辺にいるはずなんだけど……」


 【索敵】には、近くにモンスターがいる事を示しているけど、その姿が見当たらない。そう思っていると、チカチカとする存在が湖の上を飛んでいるのが分かった。【心眼開放】で形を固められないか試しみると、固める事が出来た。

 それは手のひらサイズの小さな精霊だった。いや、正確には精霊じゃなく妖精みたい。名前がレイクフェアリーって名前だし。可愛らしい姿をしたレイクフェアリーは、その容姿に似合わない悪い笑みを浮かべている。それだけで、精霊の皆とは違うという事が分かる。


「あれは……確実に敵かな」


 あの様子だと、物理無効とかを持っていてもおかしくない。なので、使うのは黒百合と白百合だ。血を纏わせて、思いっきり投げつける。レイクフェアリーは、その一撃で倒せたけど、他にもレイクフェアリーが集まってきた。十体くらいいるかな。

 レイクフェアリー達は、私をジッと睨んできた。呪い状態になってMPが減る。ただいつもよりもMPの減りが早い気がする。恐らく、呪い状態の他にもMPを減らしてくる何かがある。


「滅茶苦茶厄介だなぁ。てか、吸血出来るのかな」


 一応、アサルトバードも吸血出来ていたくらいだから、このくらいの大きさなら問題はないかな。【大悪魔翼】を使って空を飛びつつ、【電光石火】で接近する。そして、その身体に噛み付いた。すると、レイクフェアリーは、一瞬で吸収された。感覚的にはスライムを食べる時に近い。恐らく、身体のほとんどが魔力で出来ているのだと思う。


「アサルトバードみたいに吸い放題かな」


 【電光石火】で飛び回りながら、レイクフェアリーを吸血していく。そうして手に入れられたスキルは、【吸魔の魔眼】だけだった。他には、既に持っているスキルばかり。


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【吸魔の魔眼】:視た対象のMPを吸収する。控えでも効果を発揮する


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 これが呪いの他のMP減少の正体だ。MPの消費が激しくなっている現状だと、本当に有り難い事だ。多分、そこまで効率は良くないだろうけど。

 周囲のモンスターは、これでいなくなった。てか、レイクフェアリーから何もドロップしなかった。全部吸ったからなのかな。


「【召喚・レイン】」


 水に入るという事もあって、まずはレインを喚んだ。エアリーも喚んで、空気の確保を意識しようかとも思ったけど、取り敢えずは、レインだけで様子を見る。


『これは海?』

「違うよ。こっちは湖。ここの中を調べるから、レインはサポートよろしく」

『うん。任せて』


 手掛かりを見つけた私は、レインと一緒に湖へと入っていく。

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