第316話 久しぶりの三人

 ボスエリアに転移した私は、レインを喚ぶ。海という場では、レインは無類の強さになる。スノウとレインという懐かしいパーティーで挑むボス戦だ。ちょっと楽しみかも。


『海だ~』

「大変かもだけど、お願いね」

『うん! 任せて!』


 久しぶりの海だからか、レインは結構テンションが高かった。空を飛んで、ボスが出て来るのを待つ。中々出てこないなと思っていたら、海の中から吸盤の付いた足が出て来始めた。


「タコか、イカか……クラーケンならタコなんだっけ? あれ? でも、ダイオウイカがどうたらこうたらで……まぁ、いいや。とにかく、あまり近づかないで倒そう」


 そう言いながら、私は【蒼天】のチャージを始める。


『じゃあ、動きを阻害するね』

『ガァ!』


 レインが足周りの水を一気に凍らせる。スノウは、直接足を凍らせていった。その事に苛ついたのか、足がデタラメに動き回る。レインが凍らせた海に罅が入り、そこを突き破って本体が出て来た。ボスの名前が見える。やっぱり、ボスの名前はクラーケンだった。

 その姿が出て来たと同時に、スノウが思いっきりブレスを吐く。スノウへのヘイトが溜まり、足がスノウを追い掛けて伸ばされていく。スノウは、自由自在に動き回って、クラーケンを翻弄していた。その間に、レインが海の方を凍らせて、クラーケンの行動範囲を狭めていた。スノウの方もクラーケンが今いる場所からあまり動かないように避けている。二人とも、私が【蒼天】を当てやすいように動いてくれている。

 だから、【蒼天】を最大まで溜める。アカリが新調してくれた防具とアクセサリーのおかげか、チャージ中のダメージが減っている。

 そして、最大まで溜めた【蒼天】をクラーケンに向かって放った。即座に海に潜ろうとしたクラーケンだったけど、レインがそれを許さない。【蒼天】が命中したクラーケンは、どんどんとHPを削られていく。

 さらに、【蒼天】の熱により、水蒸気爆発が生じる。スノウが【矮小化】で小さくなり、レインの後ろに隠れる。同時に、レインが自分の前に水の膜を作り出し、爆発をやり過ごす。

 【蒼天】を放っている途中の私は、その防御に入る事は出来ない。だから、【暴風武装】でエアリーがやってくれるような空気の膜を作り、爆発による衝撃を軽減する。エアリーほど上手く出来ないから、多少の衝撃は届いたけど、影による自動防御で防げる程度には軽減出来ていた。

 クラーケンはというと、最大溜め【蒼天】を受けた結果、HPを一ミリだけ残して生き残っていた。【蒼天】によって海水の一部が消えたので、クラーケンの姿がよく見える。【浮遊】で足場を作り、クラーケンに向かって【電光石火】で突っ込む。そして、その身体に魔力で出来た牙を突き立てて、軽く吸血する。とてつもない生臭さに、顔を顰める。我慢して飲み込んだところで、クラーケンを倒した。

 クラーケンからは、クラーケンの足、クラーケンの腕、クラーケンの墨、クラーケンの核と【水中戦闘術】というスキルを手に入れた。称号は、【船乗りの恐怖】というものが手に入った。


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【水中戦闘術】:水中で長時間活動が可能となり、より動きやすくなる。控えでも効果を発揮する。


【船乗りの恐怖】:海賊系モンスターの防御力を下げ、一定範囲内に入った際に動きを止める。


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「水中活動がしやすくなるのは、有り難いかな。これから大洋エリアを探索する上で必須になりそうだし」

『私が水を退かせば良いと思う』


 レインが服の裾を引っ張りながらそう言う。自分がいるから、水中で戦闘する必要はないと言いたいのだと思う。


「そうだね。海底探索が中心になるだろうし、レインがいれば、水中を飛んで探索出来るからお願いしようかな」

『うん!』


 嬉しそうに笑うレインを撫でてあげると、スノウも撫でて欲しいと言わんばかりに頭を押し付けてくるので、スノウの頭も撫でてあげる。


「さてと、あっさりと倒せた事だし、早速新大陸に入るかな。取り敢えず、二人は休憩ね。お疲れ様」


 スノウとレインをギルドエリアに返す。正直、新大陸がどういう場所なのか分かっていないので、まずは一人で様子見をしようかなと思ったからだ。名前からある程度は予測出来るけど、新大陸って部分で不安が生まれている。

 用心しながら、新大陸に転移した。転移した直後、また海の上にいたので、空高く飛び上がる。


「すぐに新大陸ってわけじゃないのか。まぁ、陸地が見えるだけ、大洋エリアよりも絶望感がない。さっさと、陸地に移動しよう」


 三対の羽を生やして、連続で【電光石火】を使いながら高速飛行をしていく。異常な速さで飛んだ私は、二秒くらいで陸地に辿り着いた。


「ふぅ……ここは、船着き場かな。あるのは埠頭がいくつか。本当に乗り降りだけだ。という事は、ちゃんとした街が、近くにあるかも」


 今回はエリア探索よりも街の探索を優先する。早く情報を集めたいからね。そうして、空を飛んでいると、正面から大きな鴉が飛んできた。私の身長よりも大きいので、本当に大きな鴉だ。ただ特徴的なのは大きさの方ではなく、その身体そのものだった。全身が金属で出来ているような光沢感だ。でも、生身の鴉を思わせる。名前は、スチールレイブン。そこからも金属だという事が分かった。

 ぐんぐんと加速しようとしているスチールレイブンに向かって、【電光石火】で背後に回る。急に背後に回られたからか、スチールレイブンは驚いたような顔をしていた。

 そのまま背中に乗っかって、首に噛み付く。中身まで機械になっているわけじゃないみたいで、血の味が広がる。ただ、その中にガソリンスタンドの匂いみたいなものが混じっていた。絶対に飲んじゃ駄目なものだなと思いつつ、吸血を続ける。スチールレイブンは、錐揉みしたりして、私を振りほどこうとしてくるけど、そう簡単に振りほどけるわけもなく、あっさりと吸いきる事が出来た。


「ふぅ……うえっ……気分は車だね」


 ドロップアイテムは、鋼鉄鴉の羽根、鋼鉄鴉の鉤爪、鋼鉄鴉の嘴で、手に入れたスキルは【鋼鉄翼】だった。


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【鋼鉄翼】:金属の翼を生やす事が出来る。羽の展開時のみMPを消費して飛ぶ事が出来る。控えでも効果を発揮する。


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 試しに使ってみると、金属音を立てながら金属で出来た羽が出来上がった。


「……かっこいい」


 生えてくるときの動きが格好良い。ただ、本当に金属の翼なので結構目立つ。【虫翅】とは違う意味で、あまり使えないスキルになりそう。でも、育てたら面白そうなので、ギルドエリアで広げながら作業でもしようかな。


「さてと、街はどこにあるんだろう?」


 いつも通りの三対の羽に変えて、街を探す。そうして飛んでいると、森の中にある滅茶苦茶広い湖が見えてきた。このエリアの名前に湖畔とある通り、湖がメインになるエリアになっているみたい。その湖から、首長竜みたいなのが顔を出しているのが見えた。


「おぉ……ん?」


 その首長竜が沢山顔を出してくる。どうやら、あの湖の主というわけじゃないらしい。見た目だけで言えば、某湖の主的な見た目なのに。


「あっ、あれが街か」


 その湖の傍に森を拓いて作った街みたいだ。その入口に降りて、中に入る。街の名前は湖畔の古都という名前みたい。


「新大陸なのに、古都? ああ、いや、元々の大陸にいた私達からしたら新大陸だから、あながち間違いじゃないのかな。つまり、元々住んでいた人達がいるとか……あっ、いや、昔に見つかっていても新大陸には間違いないから、ずっとそう呼び続けている説もあるか。まぁ、どっちでもいいや。取り敢えず、街の中を隈無く調べよう」


 ここからは、使えるスキルを総動員して情報の欠片でも捕まえないと。

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