第307話 死霊術士は高みの見物
死霊術士の墓場の探索を進めて、全ての宝箱を開けきった。結局、スキルの書は【適応】の一つのみだった。運が悪かったと考えるか、【適応】を手に入れた事自体が運の良かった事と考えるべきか。まぁ、多分後者なのだと思うけど。
そうして、ボスエリアへと転移出来る場所へと辿り着いた。全員の準備は整っているので、そのままボスエリアに転移した。ボスエリアは、洞窟の広い空間などではなく、遺跡の部屋のような場所で、かなり広かった。正面奥に祭壇のような高いところがあって、そこに棺が置かれている。棺の蓋が開いて、中から黒い豪華なローブを被ったスケルトンが出て来る。その名前が死霊術士だった。
死霊術士の姿が見た瞬間、マシロが光線を放つ。その光線は、何かに阻まれて届かなかった。
「何かいる」
「本当ですわね」
私は、【心眼開放】で見えているけど、カティさん達も【霊視】で見えているみたい。
「幽霊みたいだね」
アカリも同じく【霊視】で見えている。そう。よく見てみて気付いたけど、マシロの光線は幽霊が盾になった事で阻まれたらしい。その幽霊は消滅していたから、使い捨ての盾みたいなものだ。
マシロは、連続で光線を放っていく。それを全て幽霊が盾になっていく。見た感じ、幽霊の数が減っている印象はない。そんな中、死霊術士が杖を掲げる。すると、部屋のあちらこちらから大量のスケルトンが出て来た。ソードスケルトンとスピアスケルトンだけとはいえ、百体以上いるので厄介といえば厄介だ。
それを見たマシロが、光の波動を部屋全体に行き渡らせる。それだけで、スケルトン達の身体に罅が入った。そして、私達に向かって歩き出した瞬間に崩れていく。
「お、おぉ……」
出番がなくなってしまったメイティさんが楽器を構えたまま固まっていた。まぁ、本気で力を使ったら、こうなるだろうなとは思った。スケルトンは、どんどんと追加されているけど、追加される度に崩れていくので全体の数は増えていかない。
その間に、エアリーとソイル、アク姉、アメスさん、カティさんが死霊術士に向かって攻撃をしていたけど、その全てが幽霊に阻まれていた。私もレインの水を投げつけてみたけど、それすらも幽霊が防いでいた。
「第一段階は、スケルトンの殲滅かな」
「段階を踏まないとボスにダメージが当たらない仕様か。面倒くさいなぁ」
「本当にね。メイティ、演奏でマシロちゃんの援護」
「うん」
私とアカリの会話に同意を示したアク姉がメイティさんに指示を出した。メイティさんが演奏を始めると、スケルトンが崩れる時間が短くなる。
「どうするの?」
「このままマシロちゃんとメイティにスケルトンの処理を任せて、私達はボスに攻撃が通るまで待機だね。トモエとサツキは前に出ておいて。敵に囲まれるかもだけど、二人なら大丈夫でしょ」
「分かりました」
「分かった」
アク姉の指示で、トモエさんとサツキさんが前に出た。スケルトン達が群がろうとするけど、その前に崩れるので問題はない。アク姉が懸念していたのは、マシロとメイティさんで崩せない相手が出て来た場合だろうけど、相手が死霊術士である以上、可能性は低い。
「ハクちゃんは、いつでも突っ込めるようにしておいてね。アカリちゃんは、爆薬の用意をしておいて」
「投げるんですか?」
「うん。マシロちゃんとメイティの攻撃が部屋全体に行き渡っている以上、あの幽霊防御がなくなれば、ダメージまでいかないかもしれないけど、弱体化はするはず。爆発が一番攻撃力の高い薬でしょ? なるべくHPを削りたいからね」
「分かりました」
アメスさんとカティさんには指示していないけど、遠距離から攻撃をするといういつも通りの事をするだけだからかな。
私も攻撃の準備を整える。双血剣を大槌の形に変形させる。アルラウネ戦で手放しちゃったけど、結局ほぼ無傷のまま地面に落ちていた。壊されていたら大変だったから助かった。
大槌に影、光、雷を纏わせる。闇も纏わせて良いけど、相手が闇で回復しないとも限らないので、念のため三つだけにしておく。
いつでも突っ込めるように構えたまま待っていると、状況が変化した。スケルトンが新しく生み出されなくなり、死霊術士が再び杖を掲げる。すると、これまで以上の速度でスケルトン達が生み出された。その中には、スケルトンドッグの姿もある。それらのスケルトン達が一気に崩れた。ただ、その崩れ方はマシロやメイティさんの攻撃による炭化にも似たようなものではなく、パーツ毎に分かれたみたいな感じだった。
その私の感じ方は正しかったようで、骨のパーツがどんどんと繋がっていき一体のモンスターとなっていった。
六足の獣に六人分の人の上半身がくっついた巨大な化物スケルトンだ。名前はスケルトンキメラ。私達の身長よりも五倍ぐらい大きな巨体が死霊術士の前で立ち塞がる。
「あの頭のパーツは、どこから?」
「新しく作ったんじゃないかな。さすがに、元パーツと大きさ合わないし」
「はいはい。二人とも、気を抜かない。幽霊の防御がない以上、あれを倒さないといけないんだから。しかも、あのスケルトンは一筋縄ではいかなさそうだしね」
アク姉の言うとおりだった。スケルトンキメラにも、マシロとメイティさんの攻撃は届いている。でも、炭化していく度に新しいパーツが足されていくので、いたちごっこになるだけだった。
「マシロ。どでかいの出せる?」
『少しだけ溜める必要があるわ』
「お願い」
『分かったわ』
マシロが攻撃を止めて、光を集め始める。
その間に、スケルトンキメラが動き始めた。
「【弱者の嘲笑】」
トモエさんから相手を馬鹿にするような笑い声がしたかと思うと、スケルトンキメラの七つの顔がトモエさんに集中した。獣の上に付いている六体の身体の内、三体が持っている長槍がトモエさんに突き出された。三連続の突きをトモエさんは盾で受け止める。
さすがはタンクと言うべきか、ダメージはほぼ無しでノックバックもほとんどしていない。
「【ライトニングアローレイン】」
カティさんが放った矢が稲妻のようなエフェクトと共にスケルトンキメラの頭上に放たれて、雷属性の矢の雨が降り注ぐ。結構な量が当たっているはずだけど、ダメージはほとんど無かった。
「特殊ギミックのモンスターかな。ハクちゃん、何か変わった点はない?」
アク姉に訊かれたので、【心眼開放】で動きをスローモーションにしてジッと見る。スケルトンキメラにこれまでのキメラと大きく違う部分はないように思えたけど、それこそが違和感だという事に気付いた。
「核が複数あるよ。いっぱい合体したからだと思う」
「カティ」
「分かりましたわ」
カティさんは、見える場所にある核を正確に射貫く。すると、その核があった場所から先の部分が崩れて落ちた。
「確定みたいだね……って、うわぁ……」
倒す方法が見つかったのと同時にスケルトンキメラの身体が再生しているのを見て、アク姉が嫌な顔をしていた。核を取り除いたのに再生した理由は、新たなスケルトンが合体したからだ。
「無限合体かな?」
「さすがに、それはないと思う。ここも殲滅かな。合体をしなくなるまで、パーツを剥がしていく必要がある感じ。この分だとマシロちゃんが頼りかな」
マシロの溜めが終わるまでは、地道に削っていく事になる。ヘイトをトモエさんが稼いでいて、攻撃を捌いてくれている。少しずつHPは削れてしまうので、メイティさんはトモエさんの回復に回った。サツキさんは、下半身の獣に攻撃をしているけど、やっぱり再生されてしまっている。
私は、カティさんと一緒に弓で核を射貫いていた。命中率は、そこまで高くないけど、何個か壊す事が出来ている。アカリは、爆薬を投げて骨のパーツを削り、アク姉とアメスさんも魔法で削っていた。
エアリーは、常に死霊術士への攻撃を繰り返している。もしかしたら、スケルトンキメラの攻撃を潜り抜けて死霊術士に一定以上の攻撃をする事が条件かもしれないからだ。
ソイルの方は、サツキさんの援護に回りながら攻撃している。サツキさんが攻撃をする際に拘束したり、獣の身体を土の杭で貫いたりしていた。
これらの攻撃をしていても、スケルトンキメラの再生は続く。キリは無いのかと思った時、マシロの溜めが終わる。
『【光聖波】』
マシロが伸ばした手を始点として、光の波動が広がっていく。その光は、私達の視界を奪う程の光で、辺り一面が真っ白に染まった。
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