第306話 死霊術士の墓場

 翌日。死霊術士の墓場の攻略をするために、私達はアークサンクチュアリまで来ていた。


「それじゃあ、ハクちゃんはアカリちゃんの傍にいて」

「オッケー。じゃあ、戦闘は、ソイルとエアリーに任せるよ」

『うん……』

『はい』


 アカリの護衛を私が務めながら、死霊術士の墓場へと向かう。途中で現れるモンスターは、ソイルとエアリーがほとんど倒した。一応、アク姉達も戦ってくれたけど、倒している数ではソイル達の方が上だ。

 あまり時間を消費せずに、死霊術士の墓場の前につく事が出来た。そのままアク姉からレイド申請を受けて了承する。

 そして、死霊術士の墓場へと転移した。死霊術士の墓場は、洞窟構造になっている。なので、ソイルとエアリーはそのままでマシロを喚ぶ。マシロを選んだ理由は、洞窟内という暗い場所に有効であるという事と死霊術士という点から相手がアンデット属性のはずなので、神聖属性も持つマシロが活躍すると判断した。


「マシロ、灯りを出して。エアリーは、構造把握をお願い。ソイルは、モンスターの拘束をお願いね」

『任せて』

『はい』

『うん……』


 既にエアリーの構造把握で分かっている行き止まりにも全て行くという方針で固まっている。その理由は、宝箱の存在だ。私がいる事で、スキルの幅が広がったのかは分からないけど、吸血やクエストなどでしか取れないスキルもスキルの書として出て来た。

 これは、アカリやアク姉達の強化に重要となる。それに、私が持っていないスキルが出る可能性もあるので、積極的に開けたいという事で意見が一致している。寧ろ、このゲームをしているプレイヤーで、宝箱をスルーしようという考えに至る人はごく僅かだろう。モンスターの可能性なども考えると、迷う気持ちは出て来るだろうけど、スルーするはない。少なくとも、私は絶対に無い。

 エアリーの案内で進んでいくと、【索敵】にモンスターの反応があった。数はそこまで多くない。それにしっかりとソイルが動きを止めていた。そこにいたモンスターは全身が骨で出来たスケルトンだった。骨で出来た片手剣を持っているので、ソードスケルトンという名前になっている。


「ハクちゃん、あれも吸えるの?」

「どうだろう? あれだと吸うっていうよりも食べる方が近いかも。まぁ、やってみる」


 ソードスケルトンに近づいて、その骨に噛み付く。すると、その骨が次々に口の中に入ってきた。骨の丸呑みという現実では絶対にやらないような事をする事になった。そうして最後に残った核まで飲み込んでようやく倒した判定になった。因みに剣まで丸呑みした。


「……あの骨ってどこに消えたのかしら?」

「ハクちゃんの胃袋でしょうか。本当に色々なものが入りますね」

「いや……胃袋より遙かにでかいでしょ」

「食べた瞬間に消化してるのかもな」


 アメスさん、トモエさん、サツキさんがそんな話をしているのが聞こえた。まぁ、確かに骨の丸呑みをしていたら、驚くのも無理はないと思う。虫に吸血しているよりも衝撃的だろうし。そんなこんなで他のモンスターからも吸血をしていく。他に出て来たモンスターは、スピアスケルトンとスケルトンドッグだった。

 結局毎回のように骨を飲んでいる姿を見られる事になった。

 このモンスター達から得られたスキルは、【骨強化】【魔力糸】の二つだけだ。他は、私が既に持っているスキルばかりだったので、経験値になった。


────────────────────


【骨強化】:骨の強度が上昇する。控えでも効果を発揮する。


【魔力糸】:MPを消費して、魔力で出来た糸を作り出す事が出来る。控えでも効果を発揮する。


────────────────────


 そこそこ良い効果のスキルではあると思う。


「スケルトンで【魔力糸】って、どこに使われてたんだろう?」

「骨と骨を繋げてるんじゃない? 多分、そういう設定にしてるんだと思うよ」

「ああ、そうじゃないと、骨だけで動いている理由が分からないからって事?」

「そういう事」


 まぁ、それなら納得かな。人形みたいに糸で骨を繋いで動いているみたいなイメージが出来るし。


「それにしても、【骨強化】かぁ……その内、骨で相手の攻撃を受け止めるとかが出来るようになるかもね」

「欠損状態になりにくいみたいな?」

「そうそう。あり得ない話じゃないでしょ?」

「確かに、それは良いかも」


 パッシブスキルになるだろうから、結構早くレベル上げが出来ると思う。【魔力糸】は、半透明な魔力の糸を出せるというだけで、全然使い道がないから、どうしようか迷う。まぁ、これに関しては後ほどという事で、探索を優先する。

 もう取れるスキルもないから、モンスターは殲滅する方針に切り替わる。スケルトンの弱点は、胸の中央に位置する核で、そこを破壊されない限り、身体が再構築されるという能力を持っている。だから、骨を全部砕いて核を露出させて割るか、直接核を砕くという方法で倒すという事になる。

 これに関しては、カティさんの独壇場となる。遠距離から正確に核を射貫いて破壊出来るというのは、かなり強い。

 そして、これらによらない倒し方もある。それは、マシロやメイティさんの神聖魔法による倒し方だ。マシロの場合、照らしている光を近づけるだけで、スケルトンの骨が崩れて、最終的に核が割れる。メイティさんは、回復か浄化の魔法を使うか、演奏で同様の事が出来ていた。メイティさんの演奏には、神聖魔法と同等の効果があるみたい。

 エアリーには、構造把握に集中して貰う。一応それが出来るだけの戦力があるからね。

 そのまま探索を続けていくと、いくつかの宝箱を発見する。中身は、闇属性系の素材ばかりで、アカリが喜ぶ結果となっていた。鍵付きの宝箱が中々見つからず、今回は外れダンジョンかと思われたけど、最後の宝箱でようやく鍵付きのものを発見出来た。


「さてと、それじゃあ、開けるね」

「ハクちゃん、気を付けてよ?」

「分かってるよ~」


 昨日ミスったからか、アク姉から念押しされた。全く私を信用して欲しいな。そう思いながら、影を使って宝箱を弄っていたら、何か変な煙が吹き出してきた。


「ごほっ……ごほっ……」

「ハクちゃん、大丈夫?」

「大丈夫……みたい。煙だけ?」


 アカリが心配そうにしていたけど、あの煙を吸った私は何も状態異常を受けていなかった。


「いや、あの種類のものは、必ず何かしらの状態異常になるはずです。それがなかったという事は、魅了の状態異常だったのでは?」

「なるほど。それが一番あり得ますね」


 私には魅了の状態異常が効かない。だから、煙を吸っても問題はない。この罠だったら、引っ掛かっても問題ないから構わない。影を動かして、鍵を開けようと頑張る。


「ねぇ、ハクちゃん」

「何、アク姉」

「普通に血でやれば良くない? 自由に操れるんでしょ?」

「操れるけど、血じゃ無理だよ。鍵穴には合わせられても、内部の錠の構造が分からないから、どう操れば鍵が開くか分からないもん。でも、やってみる」


 アク姉の意見が正しい可能性もあるので、血液を鍵穴に入れて鍵の形を変えていく。でも、やっぱり鍵が錠に合っているのかが分かりにくい。


「そこに影を合わせれば良いんじゃないの?」

「影ですか?」

「そうよ。アニメとかドラマだと道具を二つ使ってるじゃない。あれみたいにとは言わないけど、影で構造を理解して、血液を合わせるって形でやれば、無理矢理こじ開けるみたいな状態にはなりにくいから、ちょうど良いんじゃないかしら」

「なるほど」


 アメスさんのアドバイス通りに、影を錠の構造把握に使い、血液をその構造を開くような形に変えていく。これが結構難しい。でも、慎重にやっていたら、段々とコツが分かるようになってきた。影は細かく動かすのではなくて、全体に広げていく。影から得られる情報から必要な鍵の形を把握。血液を操って鍵の形を変えていき、目的の鍵の形へと変形させる。


「ここ!」


 鍵の形を固定して捻ると、宝箱が開いた。


「開いたよ!」

「やったね」


 アク姉が頭を撫でてくれる。結局、アク姉の言うとおり血液で鍵を開くことが出来た。それも錠を無理矢理開ける方法などではなく、鍵を作るという方法でだ。これからは、こっちの方法を使おうかな。鍵穴がある時限定になるけど。

 そうして宝箱を開くと、スキルの書が一つだけ入っていた。入っているスキルは、【適応】というスキルだった。


────────────────────


【適応】:環境に適応する肉体を得る。控えでも効果を発揮する。


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 何だか凄いスキルの書が出て来た。


「アク姉、どう思う?」

「言葉通りなら、かなりぶっ壊れスキルだね。恐らく、水の中や炎の中でもある程度適応するんだと思うよ。装備が要らない可能性も高い。仮にハクちゃんが始祖になっていなくても、太陽光に適応していた可能性もあるかな」

「どうする?」


 ここまでの良スキルは、皆も欲しいはず。だから、ちゃんと確認はしないといけない。


「どうするも何も無いよ。ハクちゃんのもの。鍵を開けたのは、ハクちゃんなんだから」


 アク姉は普通の顔でそう言った。その意見を否定するような言葉もない。


「じゃあ、貰っちゃうね」


 【適応】のスキルの書を貰い、早速収得した。強いスキルなだけあって、ランク4のスキルだった。これの強さが分かるのは、まだ先になるかな。

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