第248話 模倣の限界

 ドッペルゲンガーに向かって、血液で強化した双血剣を振う。ドッペルゲンガーは、それを影で出来た刀で弾いてきた。


「!」


 この一合でドッペルゲンガーがどういう相手なのか分かった。誰かに変身しても、出せる力に限界はある。師匠の力はもっと上だし、速度も師匠より遅い。それに、再現出来るものにも限度があるらしい。もし師匠を完全再現するのであれば、狐を使うはず。でも、この影には、狐らしきものはないし、使う素振りもない。

 ただ、それでも師匠より弱いというだけで、私より弱いわけじゃない。苦戦はする。


「師匠……じゃないから良いですよね」


 私は、双血剣のままドッペルゲンガーを斬っていく。ドッペルゲンガーは、刀で防御してくる。だから、連撃で攻め続ける。そして、ある瞬間に大きく横に動いた。さっきまで私がいた場所を稲妻が何本も通っていった。アメスさんの援護だ。

 ドッペルゲンガーは、その稲妻を避けた。これを避けられるのも凄いと思うけど、避けたという事実が大きい。さっきアク姉にも言ったけど、師匠ならこのくらい斬れるはず。【蒼天】を斬れるのに、魔法を斬れないのはおかしい。つまり、このドッペルゲンガーは魔法が通用するという事だ。

 私が隙を作り出し、アメスさんが魔法でダメージを与えていく。それが一番良い方法だ。そして、そのためにも、周囲にモンスターがいる状況を変える。

 一気に突っ込んで、双血剣を大斧に変えて横振りで攻撃する。ドッペルゲンガーは、私の攻撃は受け止められると判断したのかそのまま刀で受け止めた。それを利用して、思いっきり振り抜く。師匠には通用しないけど、ドッペルゲンガーには通用する。【武闘気】も併用する事で、ドッペルゲンガーを飛ばす事が出来た。そうして、モンスターの集団から離れた場所に持っていくと、ソイルがモンスターの集団と私達を分断するように壁を作り出してくれた。

 これで戦闘に集中出来る。ドッペルゲンガーも攻勢に出て来る。刀の振りをパリィして動きを止め、身体を傾ける事でアメスさんの射線を確保する。そこを通って、氷の槍が十本飛んでくる。ドッペルゲンガーは、ひらひらと避けていく。これくらいは、師匠も簡単に出来る。だから、ある程度動きは予測出来る。

 ドッペルゲンガーの動きを先回りして、黒百合で斬る。ドッペルゲンガーは、刀で弾いてくる。弾いた瞬間に生じる隙を白百合で突く。それを返す刀でギリギリ弾いたドッペルゲンガーの背中に白いキラキラしたものが混じった光線が何十本も押し寄せてきた。

 それを回避しようとするドッペルゲンガーを影で縛って阻害する。これはすぐに解かれるけど、回避が遅れた事で半分くらいの光線がドッペルゲンガーを貫いた。ドッペルゲンガーのHPが一割削れる。

 この攻撃でヘイトがアメスさんに向いた。一割も削れるダメージを受けたので当然と言えば当然だ。だから、すぐにヘイトを取り戻さないといけない。【雷電武装】で纏った雷を【暴風武装】を纏って放った風の刃に乗せる。大振りの二つの風の刃を避けたドッペルゲンガーに、【電光石火】で突っ込んで膝蹴りを入れる。回避行動中だった事もあり、膝蹴りはちゃんと命中した。

 ドッペルゲンガーが蹌踉めく。その足元の地面が赤熱していたのを見て、即座に羽を展開し、ドッペルゲンガーの上から退く。それと同時に十本の炎の柱がドッペルゲンガーを貫いた。そこに、思いっきり【竜王息吹】を吐く。多重の炎に、ドッペルゲンガーのHPが、また一割削れる。

 かなり順調に攻略出来ている。そう思っていると、急に【第六感】が反応した。瞬時に、その場から退くと、影で出来た槍が、先程まで私がいた場所を通り過ぎた。師匠の得物は、刀のみのはず。なのに、今通り過ぎたのは、確かに槍だった。

 その理由は、炎の中から出て来たドッペルゲンガーを見てはっきりした。


「フレ姉……」


 先程まで師匠だったドッペルゲンガーが、今度はフレ姉のような姿になっていた。こっちは、まだ形が分かる。もしかしたら、これもドッペルゲンガーの特徴なのかな。より大きな力を持つ者に変身すると、身体の形を安定させられないとか。

 そんな考察の暇は与えないと言わんばかりに、ドッペルゲンガーが薙刀を振ってくる。薙刀の動きは、ある程度把握している。現実でもゲームでもフレ姉が一番得意としている武器だからだ。私も少し習った事あるし。

 薙刀による攻撃を弾いていき、大きな振りには、パリィで対抗する。そして、動きが止まったところを、アメスさんの魔法が貫いていく。魔法の精度が高く、急所に命中していた。そして、戦闘中に垂れ流しにしていた血液で、地面からドッペルゲンガーを串刺しにしていく。

 そうしてHPを半分まで削ったところで、ドッペルゲンガーが奇声を上げる。それと共に、ドッペルゲンガーの身体が変化していく。師匠、フレ姉と続いたその姿は、私へと変化した。私にとっての最強の相手とアメスさんにとっての最強の相手に変化した後、今度はドッペルゲンガーにとっての最強の相手に変化したってところかな。どちらかというと、アメスさんの方が攻撃を当てているけど、私が常に阻んでいる立場なので向こうにとって厄介なのは私という風に判断されたのだと思う。

 ドッペルゲンガーが、私をどこまで再現しているのか分からないから、何とも言い難いけど、速攻で沈めるのが一番だ。【電光石火】で接近して、双血剣で斬る。それに反応して、ドッペルゲンガーも双剣で防いで来た。そこから連続で斬り続け、血液と影、風による攻撃も含む。ドッペルゲンガーの反応が追いつかないぐらいに攻撃を続けていくと、段々と攻撃が当たり始める。ここに、アメスさんの魔法も追加されるから、ドッペルゲンガーはどんどんとダメージを受けていく事になった。

 私に変化した事で判明した事がある。それは、私の姿を真似る事は出来ても、スキルの完全再現は出来ないという事だ。もしスキルを完全に再現するのであれば、影や風などを操るし纏うはずだから。

 てか、ドッペルゲンガーの動きが、師範よりも遅いから簡単に対応出来る。何というか、私にとっての最強が師匠だったせいで、段々と弱くなっている。本当は、強い相手だけど勝った事がある相手とかになるのかもしれない。だから、最後は自分自身が最強という感じになるのだと思う。

 しかも、私の戦い方よりも真面目な戦い方なので、【第六感】【予測】さらに【双剣】の極意である【双天眼】で簡単に攻撃が読める。羽を使って、大胆に身体を横向きにし、膝を側頭部に入れたり、【竜王息吹】で視界を遮りつつ、アメスさんの魔法で攻撃したり、勝つための戦いを続けていく。そうして、HPを減らしていき、最後は【始祖の吸血鬼】で倒した。

 そのまま他のモンスターの掃討に移る。ドッペルゲンガーは、一体しかいないみたいなので、掃討に時間は掛からない。全力で駆け回り、大斧や大鎌など大振りで複数体を倒せるような武器に入れ替えて、どんどんと蹴散らしていく。さっきまでいなかったモンスターもいるけど、敵と分かっているモンスターと戦っているところから、恐らくアク姉かアカリが出したモンスターのはず。そういうスキルを持っているのは、二人のはずだからだ。

 戦力が増強されたおかげで、今までで一番多い数だったモンスター達を倒しきる事が出来た。ドッペルゲンガーを倒してから、十分くらいの事だった。


「ふぅ……後どのくらい続くんだか……」


 まだまだ集中力は続くけど、このまま強敵との戦闘が続くようだったら、かなり疲労しそうではある。私が自分で請け負っている事だから、誰かに文句を言う事なんて出来ない。そろそろ終わって欲しいなと思っていると、目の前にウィンドウが出て来た。


『殲滅戦クリアおめでとうございます。今回討伐したモンスターの素材に加えて、選択式ランダムアイテムボックス十個、選択式レアアイテムボックス三個、五百万Gを授与します。三十秒後、ファーストタウンへと転移します。そのままお待ちください』


 これで殲滅戦が終了した。全部で十一波という中途半端な数だけど、最初の十がボス戦で最後のドッペルゲンガーがラスボス戦っていう位置づけなのかな。


「おぉ……素材がいっぱい」


 アカリが目を輝かせていた。見た感じ、全員で素材を分け合うというよりも、通常と同じ量の素材を全員分用意したみたい。それに、入賞優勝賞品だった選択式アイテムボックスと選択式レアアイテムボックスも手に入った。しかも複数だ。これまでの事を考えると、結構破格の賞品だと思う。

 転移の時間になり、ファーストタウンの広場に着いた。広場には、私達の他にはいなかった。殲滅戦というイベントの都合上、全員同じ時間に戻ってくるわけじゃない。

 スノウ達の方はギルドエリアに直接戻されたらしい。


「私達が一番みたいね。戦力的にかなり強いからかしらね」

「そうですわね。ハクちゃんとテイムモンスター達の強さが異常でしたわ。PvPイベントで優勝するのも頷けますわ」


 数という意味では、他よりも劣るけど、強さという意味では、私達はかなり強かった。スノウ達の殲滅力が、かなり高かったからだ。


「さてと、私達は、このまま探索に行くけど、ハクちゃん達はどうする?」

「私はギルドエリアに戻って、皆を労ってくる」

「私もギルドエリアで、今日手に入った素材で、何か出来ないか実験します」

「オッケー。それじゃあ、お疲れ様。楽しかったよ。またね」

「うん。私も楽しかった。また今度ね」


 アク姉達とは、ここで別れた。イベント終わりなのに、すぐに探索とは、さすがゲーマーって感じだ。まぁ、私も行こうと思えば行けるけど、先にスノウ達の労いをしたい。今日は、本当に頑張ってくれたからね。

 アク姉達を見送って、私とアカリが残った。


「それじゃあ、私達もギルドエリアに行こうか」

「うん。そうだね」


 私達もギルドエリアへと向かう。大きなイベントが二つ終わった。思ったよりも凄く楽しめたし、私にとって有益にもなっていた。正直なところ、第四回イベントでも、もう少し積極的に獲りに行けば良かったと思うけど、それはまた今度のイベントにとっておく。

 明日からは、今まで通りのゲームライフが戻ってくる。次は、どこのエリアを探索しようかな。

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