第175話 刀刃の隠れ里

 スノウとレインと一緒に、雪原エリアのモンスター達を倒し回っていると、レインの動きが止まった。


「どうしたの? 疲れちゃった?」


 一時間くらい戦いっぱなしだから、レインも疲れてきたかなって思ったけど、レインは首を横に振った。


『ううん。何か変な場所があるなって思って』

「変な場所? どういう事?」

『空洞があるの。でも、氷で閉ざされてる。普通に歩いてたら、おっきな鎧を着てても壊れないはずだけど、一度壊れた後みたい』

「空洞……隠れ里?」


 水を支配する力を持っているレインは、周囲の雪などの状態も確認出来るみたい。その能力で、分厚い氷の層とその先が何もないという事を察知出来たって感じかな。スキルさえ手に入れば、私も出来るようになるかも。


「その氷を破壊する事は出来る?」

『うん』

「それじゃあ、お願い。スノウ! 息吹で壁を作って!」


 私の指示で、スノウが息吹を吐いて、私達の背後に半円の氷の壁を作る。その間に、レインが隠された入口を開いた。本当に分厚い氷で、大きな氷柱が出て来た。


「ありがとう! ここからは一人で行くよ。【送還・スノウ】【送還・レイン】」


 二人をギルドエリアに戻して、レインが開けてくれた穴の中に飛び込む。直下に掘られている訳では無く、少し斜めになっているので、滑りながら落ちていく。そんな私の後ろで何かが固まる音がした


「もう塞がった? ここの氷は、普通の氷とは違うみたい。やっぱり、隠れ里かな」


 そこそこ長い間滑っていくと、急に出口が来て、思いっきりお尻を打った。


「いっ……たぁ……」


 打った部分を擦りつつ、立ち上がる。周囲は、そこまで暗くない。天井に光を発する結晶みたいなのがぶら下がっていて、辺りを仄かに照らしている。その中央に一軒の建物が建っていた。掘っ立て小屋みたいなもので、双刀の隠れ里とは違い、本当に一軒しかない。


「里って感じじゃないけど……」


 よくよく見てみたら、地面の何カ所かが小さく抉れている。一定間隔で抉れている事から、柱か何かが立てられていたのではと考えられる。だから、元々は里のようになっていたのかもしれない。

 師範の手紙もあるし、そこまで邪険にされる事はないはず。そう信じて、一軒の建物に向かい、その扉をノックする。直後、嫌な予感がして、その場でしゃがむ。すると、扉の上部が斬れて、吹っ飛んでいった。


「思ったよりも小さい……いや、しゃがんでいるだけね。よく分かったわね。凄いわ」

「……あ、はい」


 扉から出て来たのは、着物を着た女性だった。腰には、刀を差している。ソルさんが【刀】を手に入れた隠れ里で間違いなさそうだ。


「また、扉を作り直さないと……」


 そう言いながら、私をジッと見てくる。


「あなた、面白い身体をしているわね」


 唐突にものすごい失礼な事を言い出した。何も返事出来ずにいる私を見て、何かに気付いたかのような表情をしながら手を叩く。


「あっ、ごめんなさいね。面白いのは、あなたの中身の話よ」

「あまり変わらないのでは!?」

「でも、光の因子を持った闇の眷属なんて、そうそういないもの。因子が融合しているわけでもないのにね」


 そう言われてしまうと、確かに、分かる人には面白い身体ではあると思う。


「あっ、そうだ。一応、これを」


 取り敢えず、追い出される事はなさそうだけど、一応手紙を見せておく事にした。


「あら、恋文?」

「違います。双刀の隠れ里の師範からです」

「双刀の? あら、本当ね。ふふっ、大分成長したみたいね。分かったわ」


 手紙が返ってきたので、アイテム欄に仕舞っておく。


「一応、資格は……あるか微妙ね。まぁ、良いわ。いずれは、その資格を得るかもしれないものね」

「えっと……」


 話が一方的に進んでいくので、置いてけぼりになってしまう。


「【双剣】を得たその力を確かめさせて貰うわ。そうね。あの子が師範と呼ばれているのなら、私は師匠って呼んで」


 あまり変わらないのではと思ったけど、本人が望んでいるので、そう呼ぶことにした。


「それじゃあ、こっちに付いてきて」

「はい」


 師匠に連れて行かれた場所は、この空間の真ん中だった。そこに来ると、転移が可能になったメッセージが出て来た。


『刀刃の隠れ里への転移が可能になりました。街の広場から転移が可能になります』


 ここは、刀刃の隠れ里という名前らしい。転移も可能になったので、心置きなく死ねる。


「準備は良い?」

「あっ、ちょっと待ってください」


 パパッと装備するスキルを変えていく。


────────────────────────


ハク:【剣Lv69】【武芸百般Lv43】【短剣Lv84】【短刀Lv21】【双剣Lv75】【牙Lv23】【武闘術Lv48】【真祖Lv53】【血液武装Lv58】【操影Lv42】【使役(蝙蝠)Lv50】【突進Lv26】【空力Lv8】【防鱗Lv28】【未来視Lv24】

控え:【魔法才能Lv46】【水魔法才能Lv15】【支援魔法才能Lv45】【血行促進Lv21】【血液増加Lv21】【血液感知Lv6】【操砂Lv5】【操泥Lv1】【操水Lv1】【操氷Lv18】【HP強化Lv78】【MP強化Lv45】【物理攻撃強化Lv78】【物理防御強化Lv53】【魔法防御強化Lv40】【神脚Lv62】【器用さ強化Lv49】【運強化Lv70】【身体能力強化Lv18】【視覚強化Lv60】【聴覚強化Lv61】【腕力強化Lv47】【握力強化Lv32】【顎強化Lv21】【執行者Lv78】【剛体Lv24】【不動Lv21】【疾走Lv38】【軽業Lv29】【身軽Lv11】【見切りLv38】【毒耐性Lv30】【麻痺耐性Lv7】【呪い耐性Lv1】【沈黙耐性Lv4】【暗闇耐性Lv1】【怒り耐性Lv8】【眠り耐性Lv1】【混乱耐性Lv32】【気絶耐性Lv1】【竜血Lv51】【登山Lv10】【氷角Lv3】【雪鎧Lv2】【毒霧Lv10】【毒液Lv8】【酸霧Lv2】【暴食Lv23】【飲み込みLv16】【狂気Lv8】【吸収Lv27】【貯蓄Lv29】【擬態Lv35】【超音波Lv4】【怨念Lv1】【夜霧Lv25】【聖気Lv21】【農作Lv9】【調教Lv28】【感知Lv50】【言語学Lv63】【古代言語学Lv15】【現代言語学Lv9】

SP:435


────────────────────────


 この場に氷はないので、【操氷】は外した。そして、【感知】も意味がないので、こちらも外す。代わりに、【剣】と【防鱗】を装備する。【剣】は攻撃力の補正、【防鱗】は防御力を上げるためだ。正直、師範と同じくらいに強いなら、【防鱗】なんてあってないものだけど、装備しておいて損はないだろう。


「大丈夫です」

「それじゃあ、始めるわ。どのくらい耐えられるか、楽しみね」


 にっこりと微笑む師匠を前に、双血剣を抜き、自傷して【血液武装】を発動する。その後に、自分の血を飲んで回復と出血状態の解除を忘れない。

 師匠の方は、何やら白いお面を持っていた。一体いつ取り出したのか、全く分からなかった。それは、狐面の形をしているけど、のっぺらぼうになっていた。眼の部分にも穴はない。あれでは視界がないも同然だ。

 師匠は、躊躇いなく狐面を被った。すると、狐面に模様が入っていく。そして、どこでもよく見るような狐面になった。同時に、師匠の姿が掻き消える。

 私は、即座にお腹に【防鱗】を使い、硬質化も使う。直後、お腹に衝撃を感じたかと思うと、大きく吹き飛ばされた。刀の柄で、ド突かれたのだ。


「ぐっ……うっ……ぐっ……」


 地面を転がりながら、距離を取って、体勢を立て直す。さっき防御が間に合ったのは、奇跡に近い。私は、即座に【未来視】を使う。【双天眼】だけでは、相手の動きを読めないからだ。

 十メートル以上離れているのに、【未来視】には、私を斬る師匠の姿が見えた。その攻撃の軌道に、双血剣を重ねて、パリィする。ソルさんの斬撃よりも速く重い。パリィ出来たのは、ソルさんと戦闘した経験があったからに過ぎない。

 そこから、【未来視】を連続で使い、師匠の連撃をパリィし続ける。攻勢に出たいところだけど、向こうの攻撃が激しすぎて、パリィだけで精一杯だ。このまま師匠が満足するまで防ぎ続ければいいのかと思ったけど、その前に、変化が訪れた。それは、師匠の攻撃だった。刀だけでなく、鞘が抜かれた。


「くっ……!」


 【未来視】で分かっている事ではあるのだけど、刀の攻撃をパリィした直後という事もあり、こっちもパリィする事は出来ない。だから、【操影】で師匠の腕の動きを阻害する。阻害出来ても一瞬などではなく、半瞬くらいしか阻害出来ない。

 それでも、身体を傾ける事くらいは出来る。私の右側面を鞘が掠める。若干HPを持っていかれたけど、避ける事は出来た。私は、一旦距離を開けるために高速移動で逃げる。直後に嫌な予感がした。私は、振り返る前に【操影】で身体を引っ張って、その場から退く。さっきまで私がいた場所を、師匠の刀が突いていた。

 そこに驚いている暇はない。【未来視】で、すぐに刀が振られる姿を視たからだ。その一撃をパリィした直後、私の胸に師匠の手のひらが添えられる。いつもの嫌な予感がなくても、嫌な予感しかしない。

 師匠の掌底が命中して、思いっきり吹っ飛ぶ。硬質化なども間に合わなかったので、まともに受ける事になった。HPが半分近く削れた。

 今度は、地面を転がる事なく、空中で体勢を立て直して、着地した。すぐに【未来視】を使うけど、師匠の攻撃は来なかった。


「ひとまず、第一段階は合格ね」


 何かしらに合格したらしい。攻撃を受け続けて生き残った時間かな。でも、これで【刀】が覚えられるわけじゃないみたい。

 ここから、第二段階に移行する。私は、生き残る事が出来るのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る