第21話 第一回バトルロイヤルイベント開始!

 森の中を木々に隠れながら、少しずつ進んで行く。戦闘音は至る所から聞こえてくる。その戦闘音から離れるようにして移動しているので、戦闘に鉢合わせる事はなかった。多分、運が良かったのだと思う。

 ただ、ずっと遭遇しないという訳にはいかない。正面から男の人が走ってきた。なので、私もその人に向かって駆け出す。まさか、同じように向かってくるとは思わなかったみたいで、驚いていた。

 血染めの短剣を抜いて、踏み込む。【脚力強化】によって強化された踏み込みで、一気に加速する。最近思いっきり踏み込めば、普段よりも加速出来る事が分かった。ただ、溜める動作があるので、隙が生まれてしまう。だから、近接戦の最中に使うのは危険があった。

 だから、こうして近づくタイミングで使うのが、一番だと私は考えている。

 突然加速して、目の前に来た私に驚き、男の人は硬直した。それを見逃さず、首に短剣を突き刺して、思いっきり振り抜く。


「がっ!?」


 完全に削り切れず、赤ゲージで止まる。男の人は、一気に青い顔をしていた。まさか、急にそこまで削られると思っていなかったのだと思う。首という弱点へのクリティカルダメージなので、このくらい削れてもおかしくはないと思う。もしかしたら、この人は、ステータスアップを、あまりしていないのかもしれない。

 片脚で着地した私は、身体を反転させて、もう一度踏み込んで、脇腹を突き刺す。布の服なので、そのまま突き刺さって、HPを削り切った。


「ふぅ……クリティカルダメージが上手く入れば、結構楽に倒せるかもだけど、首や心臓を守られていたら、長期戦かな。ちょっと楽しくなってきたかも」


 今回は上手くいったけど、次は上手く行けるとは限らない。モンスターは、同じモンスターなら、ある程度行動パターンが一緒だけど、プレイヤー相手では、それぞれスタイルが違うので同じようにはいかない。

 それぞれのスタイルに対応しないといけないというのは、PvPの基本なので、初心を思い出せたって感じがする。

 私は、その初心を胸に、またこそこそと隠れながら進んで行った。そこで気が付いたけど、さっきから、あれだけ響いていた戦闘音が、聞こえにくくなっている。


「数が減った……もしくは、森から離れていったみたいな感じかな。もう少し派手な感じかと思ったけど……」


 魔法が飛び交う可能性も十分にあったので、森が燃えたりと色々な事が起きると考えてもいたけど、実際には、そんな感じはない。火魔法を使いやすくするために、森が燃えるみたいな仕様は無くなっているのかもしれない。

 周囲を警戒しながら歩いていると、一瞬嫌な予感がした。直後、私の横にある木に矢が突き刺さる。

 すぐに振り返って、矢が通って来たであろう木の隙間を睨む。そこに、女の人が弓を引いて矢を番えていた。


「弓矢なら、近づかれたら嫌なはず」


 私は、さっきの人にやったのと同じように、一気に接近する。でも、結構な距離があるから、一歩で急接近する事は出来ない。その間に、矢が放たれる。今度は、正確に私を狙った一撃だった。でも、それが私に当たる事はない。

 こんなまっすぐに近づいたら、まっすぐ私に飛んでくる事は、ほぼ予測出来るので、飛んでくる矢に合わせて短剣を振って弾いた。

 昔やっていたゲームでも、同じような事をした事が何度もあるので、そこら辺の経験から出来るだろうと思ってやった。ちゃんと出来て、内心ホッとしている。

 逆に、女の人は、驚いて完全に固まっていた。その間に、もう一度踏み込んで急接近する。女の人の装備も布製だけど、心臓を金属で守っているので、首を狙って短剣を突き出す。

 接近戦には慣れていないのか、急に慌て始めた。だから、こっちの攻撃への反応が遅れてしまっていた。喉に短剣を突き刺して、思いっきり振り抜く。

 今度の女の人は、それだけで倒れた。この事から、さっきの人よりHPもしくは防御力が低いと考えられる。でも、クリティカルなら即死させられるプレイヤーもいるという事が分かった。


「もう少し手応えがあると、自分の弱点とかを認識出来るんだけど……!?」


 急にぞわっと背筋が寒くなったので、その場でしゃがむと、私の頭上を槍が通り過ぎて、木に刺さった。さっきの矢と違って、本当に正確に投げられたので、余程良い腕前の人だろうと思って、投げてきた敵がいる方を見ると、そこにいたのは、ニヤニヤと笑っているフレ姉だった。


「相変わらず、勘はいいな」

「普通は、槍を投げて攻撃しないと思うよ。手ぶらになるし」

「仕留められれば良い話だろ。まぁ、ハクが、これで倒せるとは思ってなかったけどな」

「あっ! お前は!?」


 私とフレ姉の会話に、男性の声が混ざってきた。私とフレ姉は、声がした方を見る。そこには、片手剣をぶら下げて、私を指さしている男の人がいた。


「知り合いか?」

「ううん。男性の知り合いは、ラングさんくらいだよ」

「チュートリアルのところで、声を掛けただろうが!」


 男の人のその言葉で、ようやく誰なのか思い出した。


「ああ、ナンパしてきた人達の一人か。ごめんなさい。興味のない人って、全く覚えないから。というか、本当にいた?」


 チュートリアルの時にしつこくパーティーに誘ってきた人達の一人だという事は分かった。でも、この人が本当にその場にいたのかは、全く思い出せなかった。てか、どんな人がいたかも覚えてないけど。


「ば、馬鹿にしやがって!」


 男の人が片手剣を抜く。その直後、片手剣を握った方の腕が肩から落ちていった。


「えっ?」


 突然、自分の腕が落ちたので、男の人は、呆然としていた。男の人の腕が落ちた理由。それは、フレ姉の手にあった。私に向かって投げた槍とは、別の槍を取り出して、肩に突き刺したみたい。


「【五連突き】」


 武器もなく五回連続の突きを捌けるはずもなく、残り一ドットまでHPを減らした。


「次、妹に言い寄ったら、仲間もろとも串刺しにしてやるからな。覚えとけ」


 フレ姉はそう言って、返事を聞くことなく、もう一度槍を刺して倒した。


「ったく、何回気を付けろって言えばいいんだ?」

「私もすっかり忘れてた。あの時は、他のプレイヤーが助けてくれたから」

「そうか。そのプレイヤーに礼を言いたいところだが、どうせ覚えてないだろ?」

「うん」

「はぁ……」


 フレ姉は、ため息をつきながら、私の頭を乱暴に撫でる。攻撃判定にはならないみたいで、HPは減らない。


「興が削がれた。ハクとの勝負は、次会ったらな」

「えぇ~」

「それじゃあな」


 フレ姉はそう言って笑うと、私に向かって投げた槍を回収して離れていった。せっかくフレ姉と戦えるチャンスだったのに、あのナンパ野郎のせいで、お流れになっちゃった。そういう覚えられていない事に怒っていたけど、なんで覚えて貰えると思っていたのか甚だ疑問だった。


「取り敢えず、他のプレイヤーを探そっと」


 私は、フレ姉が歩いていった方向と逆方向に歩いていった。生き残れば、またフレ姉と戦える。ちょっと頑張って生き残ろうかな。

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