第15話 南のエリア

 その翌々日。私は、街の南側に来ていた。街の南には、小さな平原と大きな樹で覆われたジャングルが広がっていた。


「おぉ……圧巻だ。平原のモンスターは変わらずだね」


 平原には、いつもどおりスライムとホワイトラビットが跳ねていた。もしかしたら、基本的に街の周りには、スライムとホワイトラビットしかいないのかもしれない。

 これはこれで有り難いかも。街を出てすぐ、強敵がいるとか嫌だから。いや、そういえば、夜霧の執行者は出て来るんだっけ。まぁ、イレギュラー中のイレギュラーだろうし、そこはあまり気にしない方向でいこう。


「ジャングルのモンスターか……蛇とかジャガーとかかな? 蛇とかって、血に毒が混じっているとかないのかな? さすがに、毒腺と血は別なのかな」


 蛇っていうと毒を持っているイメージがあるので、【吸血】を安易に使うわけにもいかない気がしてならない。如何せん、【吸血】を使っている人が少ないので、ここら辺の情報も全くない。毒の血を吸ったら、どうなるのかも分からない。


「毒の血を飲んだら、経験値いっぱいとかだったら、嬉しいなぁ」


 そう呟きなら、ジャングルに足を踏み入れる。現在時刻は、十三時。そろそろ朝になるかもしれない時間帯だ。早めにジャングルのモンスターとの戦闘をしておきたい。ジャングルを歩いていると、背筋がぞわっとした。

 すぐさまその場から飛び退く。すると、私がいた場所に、大蛇が上から突っ込んできた。名前はジャングルパイソン。全長六メートルもある大蛇だった。


「でっか……現実で襲われたら、トラウマになるレベルの大蛇じゃん……」


 ジャングルパイソンは、鎌首をもたげながら、こっちを睨んでいる。隙があるようでない。


「パイソン……って事は、毒蛇じゃない? あれ? 毒蛇? そっちはヴェノム? そりゃ毒か。毒蛇はバイパー? うわっ!?」


 毒があるのかないのかで迷っていた瞬間、ジャングルパイソンが、凄い勢いで突撃してきた。ギリギリで身体を反らす事で避けて、短剣を突き刺した。突撃の勢いもあって、身体を一直線に斬り裂いていく。


「おぉ……鰻を開く時みたい。鰻職人の道も近い」


 そんなおふざけをしている間に、ジャングルパイソンが口を大きく開いて噛み付こうとしてくる。その顎に蹴りを入れる。I字バランスのようになりつつも、ジャングルパイソンの口を完全に閉じさせる事が出来た。【脚力強化】もあって、ジャングルパイソンが少しだけ打ち上がった。露わになったお腹に短剣を突き刺して、斬り裂く。

 結構攻撃を与えられているけど、まだ二割残っている。東の森よりもやっぱり強い。


「やばっ!」


 いつの間にか、ジャングルパイソンが、私の周りを身体で囲っていた。すぐに上にジャンプして、上から垂れ下がっているツタを握って、身体を上に持ち上げる。その直後に、私がいた場所をジャングルパイソンが身体で締め付けていた。私がいたら、身体の骨がバッキバキになっていたと思う。

 握っていたツタを放して、ジャングルパイソンの上に落下する。そして、その場でくるりと一回転して、ジャングルパイソンの頭に踵落としを決める。ジャングルパイソンの頭を地面に叩きつけた後に、その首と思われる場所に短剣を突き刺す。

 それでようやくHPを削りきった。落ちたドロップアイテムは、ジャングルパイソンの皮、ジャングルパイソンの肉、ジャングルパイソンの牙、ジャングルパイソンの血だった。


「う~ん、巫山戯ている余裕はなさそう。一瞬の油断が、命取りだ。【吸血】も難しいかな」


 倒すのに時間が掛かった事と最後の締め付けに気付かなかった事もあって、あまり油断は出来ないと判断した。【吸血】を使う隙も見当たらない。ジャングルパイソンにそんな事したら、ぐるぐる巻きにされて、締め付けられるのがオチだ。


「周囲の環境を上手く使うのが、大事かな。ここのツタは、私の体重でも耐えてくれるみたいだし」


 先程咄嗟にツタを掴んだけど、これがあっさりと千切れていたら、そのままジャングルパイソンに締め付けられていた。ここら辺の耐久度を試しておいた方が良さそう。

 私は、もう一度ツタを掴んで、そのまま登ってみる。ツタは、全く千切れる事なく樹の上まで登る事が出来た。


「うん。本当に環境を利用して戦うのが、ジャングルの攻略法かも」


 ジャングルには、ジャングルでの戦い方がある。これから別エリアに行く度に、その場所での戦い方を模索していく必要がありそうだ。

 それらの確認をしたところで、ツタを放して地面に降りる。すると、私の耳にバサバサという羽音が聞こえていた。音が聞こえてきた方を見ると、私の身長程もある巨大な蝙蝠が飛んで来ていた。


「でかっ!? 怖っ!?」


 名前は、吸血蝙蝠。私の装備の素材になっているモンスターだ。吸血蝙蝠は、口を大きく開けた。あっちも吸血攻撃かと警戒すると同時に、耳に違和感を覚える。耳の聞こえが悪くなったと気付いた時には、平衡感覚も狂っていた。思わず、膝をついてしまう。


「もしかして、超音波!?」


 不快感に顔を顰めながらも、短剣を握る。同時に、吸血蝙蝠が襲い掛かってくる。首元に噛み付こうとしてきたので、何とか身体を捻って、左肩を噛ませた。私の【吸血】を基準に考えると、これでも血を吸われてしまうと思った。でも、実際には、外套によって、その牙を阻むことが出来た。

 吸血蝙蝠の吸血攻撃は、魔力の牙を使った私のものと違い、実際の牙を使うため、物理的に防ぐ事が出来るみたいだ。

 私の近くで止まった吸血蝙蝠の身体に、短剣を突き刺す。予想外の一撃だったのか、吸血蝙蝠は驚いたように目を見開いていた。それを見ながら、私は何度も吸血蝙蝠の身体に短剣を突き刺していき、最後に、片方の皮膜を斬り裂く。

 私から離れようとした吸血蝙蝠は、いくら羽ばたいても空に戻る事は出来なかった。空を飛ぶための羽の片方が、全く使い物にならなくなっているからだ。そんな吸血蝙蝠に噛み付いて、逆に吸血する。ホワイトラビット達のような獣臭さがあるが、まだ耐えられるので、飲み込み続ける。吸血蝙蝠も負けじと吸血してこようとするけど、血姫の装具に弾かれて、吸血出来ないでいた。なので、一方的に血を吸い尽くして倒した。

 ドロップアイテムは、吸血蝙蝠の羽と吸血蝙蝠の牙だ。【吸血】を使って倒したので、血はドロップしていない。


「羽を斬れば、飲めるかな。夜霧の鎧を編み込んでいるからか、相手の牙は、突き抜けてこないし。でも、安全かどうかで言えば、微妙か。しばらくは、普通に倒そう」


 偶々吸血出来ると思ってしたけど、吸血蝙蝠からの攻撃も受けているので、あまり良いとは言えない。ボス戦とかだったら、仕方なくやるのはあるけど、通常モンスター相手にそれは、スライムくらいで十分だ。


「東の森は、コボルトとワイルドボアだけだったし、南のジャングルは、ジャングルパイソンと吸血蝙蝠で全部かな?」


 これからジャングルで、スキルレベル上げを行う予定なので、出来る事なら、ジャングルにいるモンスターとは、全部戦っておきたい。周囲を警戒しながら、ジャングルを歩いていると、近くにバナナが生っていた。


「ジャングルの口直し発見。あっ、よく見ると、色々ある。あれはマンゴーで、下に生えているのはパイナップルかな。う~ん、この中だと、バナナが一番便利そう」


 私は、視界に映る果物を回収していった。熱帯バナナ、極甘マンゴー、強酸パイナップルの三種類だった。

 試しに熟したバナナを剥いて果肉を食べる。すると、馴染みのある味が広がる。


「うん。甘い。普通のバナナだ」


 次にマンゴーを食べる。すると、異常なまでに甘さが広がってきた。


「うん……美味しいけど……甘過ぎって感じかな。でも、無いよりはマシかな」


 続いて、強酸パイナップルを食べようとしたけど、さすがに、とげとげとした皮ごと食べる事は難しい。なので、血染めの短剣を取り出してから、少し考えて仕舞った。ゲーム内だから、衛生面とか気にしても意味ないんだけど、モンスターを斬った短剣で皮を剥くのは止めた方がいい気がしたからだ。


「ラングさんに、果物ナイフを作って貰おっと」


 成っている果物を全部採って満足していると、正面から黒豹が突っ込んできた。咄嗟に、後ろに倒れ込んで、避ける。私を飛び越えて行った黒豹は、すぐに振り返って、こっちを睨む。

 名前は、ブラックレオパルドという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る