第6話 アップルパイと紅茶

 アカリの案内で、中央広場に近い場所にある飲食店にやってきた。そこはNPC運営じゃなくて、プレイヤーが経営している飲食店らしい。ウェイトレスもNPCに混じってプレイヤーがやっていた。


「甘酸アップルパイを二つと赤紅茶あかこうちゃ二つ」

「は~い、かしこまりました」


 アカリとウェイトレスさんがやり取りをして、ウェイトレスさんが離れていく。


「これって、どのタイミングでお金払うの?」

「今のタイミングだよ。今日は、私の奢り」

「そうなんだ。ありがとう」

「どういたしまして」

「そうだ。アカリのスキルも見せてよ」

「それもそうだね。良いよ」


 アカリは、すぐにスキルを見せてくれる。


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アカリ:【剣Lv26】【片手剣Lv21】【HP強化Lv18】【MP強化Lv19】【物理攻撃強化Lv16】【器用さ強化Lv24】【裁縫Lv30】【鍛冶Lv18】

控え:なし

SP:25


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 一ヶ月先にやっているという事もあり、結構育っている。それに、スキルポイントが余っている事から、結構慎重に取っているという事も分かる。私も安易に決めない方が良さそうだ。


「この内、最初のスキルは?」

「【鍛冶】だよ」

「ああ、なら、アカリは運が良かったのか」

「うん!」


 アカリは、基本的に生産職がなければ、サポート職を選ぶことが多い。裏で色々とサポートするのが好きなんだと思う。


「魔法のスキルは取ってないみたいだけど、この【MP強化】は何で取ったの?」

「生産系のスキルだと、一気に加工する時とかにMPを消費するの。だから、効率良くするために、上げておこうと思ってね」

「ああ、そういう事ね。この【片手剣】は?」

「ランク1のスキルだけど、【剣】がレベル10以上にならないと出てこないスキルだよ。他にも【短剣】【両手剣】があるね」

「なるほどね……」


 三つの派生スキル。ここから、どの剣を選んで戦うかで収得するスキルが変わっていくんだと思う。


「私は、【片手剣】か【短剣】かな。でも。【吸血】を交えるなら、【短剣】かな」

「えっ……本当に【吸血】も使い続けるの?」

「うん。そのつもり。せっかく手に入れたものだし」

「まぁ、ハクちゃんらしいか」


 そんな風に話していると、ウェイトレスさんが、アップルパイと紅茶を持ってきてくれた。さっそくアップルパイを一切れ食べる。煮詰められて甘さが上がった林檎とサクサクパイ生地が、とても美味しい。甘酸林檎をそのまま食べるのとは大違いの美味しさだ。

 明るい赤色をした赤紅茶は、渋みが少し強い紅茶だった。その渋みのおかげで、アップルパイの甘さがさらに際立ってくれる。


「これもプレイヤーメイドなんだよね? プレイヤーメイドの利点て何?」

「簡単に言うと、自由かな。レシピ通りに作っても、市販されているものよりも性能が良くなるけど、見た目が決められた形にしか出来ないんだ。でも、レシピを使わずに、自分の手で作れば、自分の好きな見た目で作る事が出来るの。その場合、性能は作り手の技量とスキルレベル次第って感じかな。スキルレベルは、技量で補えるよ」

「ふ~ん、そうだ。私の防具、アカリに作って欲しいんだけど」

「良いよ。下着、インナー、上着、外套、右腕、左腕、腰、靴、頭って、結構細かくあるけど、重要な部分だけ作るんだったら、五十万くらいかな」


 防具の設定は本当に細かそうだ。改めて、自分でも装備欄を確認してみると、アカリの言った通りに分けられている。


「下着って必要?」

「下着だけは、脱げないようになっているからね。本当におしゃれに拘る人は、下着も拘っているみたいだよ。因みに、ここだけは、耐久もないよ」


 下着の変更もおしゃれの一環みたいになっているみたい。多分、主に女性の間で拘られているのかもしれない。


「まぁ、下着も脱げたら、私達はプレイ出来ないゲームになるか。私達の最後の砦みたいなものね。それで、重要な部分って、どこら辺?」

「インナー、上着、外套、腰、靴の五つ」

「一つ十万か……」

「ある程度差はあるけど、簡単に計算したら、そんな感じだね。何か、良い素材を手に入れたら、強い防具に出来るから」

「まぁ、出来たらね」


 最低五十万というと、今回の狩りが三万なので、結構遠く思える。まぁ、結構ゲームに慣れてきたから、少しは上がると思うけど。


「まぁ、日中ステータスダウンなんだから、気を付けてね。気休めに、これでも使う?」


 アカリがそう言ってメニューを操作すると、目の前に譲渡ウィンドウが出て来た。そこには、日傘という文字が書かれていた。受け取るボタンを押して、取り出す。出て来たのは、黒の日傘で、レースなどもあしらわれた綺麗なものだった。


「どこかで売ってるの?」

「それは、私が作ったやつ。一応、攻撃判定もあるけど、杖武器って感じだから、ハクちゃんのスキル構成だと補正は付かないよ」

「ふ~ん、差してたら貴婦人に見えたりするかな?」

「初期服だから、それはないと思うよ。武器に関しては、私は専門外だから、ごめんね」

「それは大丈夫。武器屋を探すから」

「うん。じゃあ、私は、ハクちゃんに似合うデザインを考えておくね。【吸血】を使う気なら、ちょっと良いデザインが思い付きそう」


 アカリは、本当に楽しそうに笑った。このゲームの生産職にハマっているみたいだ。

 アップルパイを食べ終えた私達は、店を出る。


「それじゃあ、私は金策に励んでくるよ。三割ダウンの戦闘も経験しておきたいから」

「頑張って。デスペナは、ステータス二割ダウンだから気を付けて」

「……死んだら、半分になるのか。アイスみたい」

「あ、そうそう。移動型のボスがいるから、それも気を付けてね」

「エンカウントボスって事?」

「そんな感じ」


 私が調べた範囲内に、そんな情報はなかったので、ちょっとだけ気になった。


「どんなボス?」

「発見されたのは、夜霧よぎり執行者しっこうしゃって黒い鎧のモンスター。両手剣を使うモンスターなんだけど、馬鹿みたいに硬いのと攻撃が強すぎるのもあって、まだ一度も倒せてないんだ。見つけても挑んじゃ駄目だよ?」

「オッケー」

「ああ、絶対に挑むパターンだ。何か情報手に入れたら教えてね」

「了解。それじゃあね」

「あっ、待って。フレンド登録だけしておこ」

「ああ、そうだね」


 アカリとフレンド登録をしてから別れて、街の出口を目指す。その際に、日傘を差してみると、心なしか身体が楽になった気がする。


「日を遮る事が出来れば、ステータスダウンもなくなるって考えて良さそう。洞窟とかダンジョンみたいな場所なら、私も普通に戦えそうかな。森の影でも、同じようになればいいけどなぁ」


 燦々と陽光が照らされている平原を歩いて、森まで向かって行った。

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