第3話 初めての【吸血】
東側の出口から外に出ると、少しの平原とその向こうにある広大な森が見えた。
「おぉ……これは結構良いなぁ……これまでもファンタジー系のゲームはやってきたけど、この風景は結構リアルだなぁ。てか、【吸血】のスキルがあるけど、血までリアルではないよね……」
このゲームは十八禁じゃないので、さすがにそこまでグロくはないはず。
「取り敢えず、【吸血】のお試しかな」
平原にいるのは、スライムと兎だった。スライムは名前のままだけど、兎の方の名前は、ホワイトラビットというらしい。夜だからか、ホワイトラビット達は、基本的に眠っていた。
「無害そうだし、この子からやろうかな。若干罪悪感めいたものがあるけど、暴れるようなモンスター相手だと使いにくそうだし」
起こさないように、ゆっくりと近づいて、ホワイトラビットを捕まえる。そして、その首元に向かって、噛み付こうとする。すると、自分の犬歯の周りに、魔力が纏わり付く。感覚的には、犬歯が伸びたような感じだ。
それをホワイトラビットに魔力の牙を突き立てる。口の中に、毛むくじゃらの感触と、熱い液体が口の中に入り込んでくる。
「んぐっ……」
口の中に生臭い匂いと異常なまでの鉄の匂い……いや味と言った方が正しいかもしれない。それが広がっていく。これを使った人達が吐き戻したという理由が、よく分かる。これに耐えるのは、かなり辛いだろう。
でも、私は口を離さなかった。そのまま口の中のものを飲み込んでいく。ホワイトラビットは、私から逃れようと暴れる。それを力尽くで押さえつけて血を飲み込んでいった。最終的に、ホワイトラビットが動かなくなり、ポリゴンのようになって消えた。
「うへぇ……みず姉のクソまず料理を食べていて良かった……あれがなかったら、吐き出していたかも」
みず姉の料理は、本当に酷く、六割の確率で酷い味付けになる。本人曰く何事も挑戦との事だ。でも、まともなものも作れるのだから、まともなものだけを作って欲しいというのが、私達家族の意見だった。まぁ、結局直る事もなかったけど。
ため息をつく私に前に、一つのウィンドウが現れる。そこには、ホワイトラビットの毛皮とホワイトラビットの肉という文字が書かれていた。
「ドロップアイテムって事かな。換金アイテムか素材か……まぁ、そこら辺は、後で調べれば良いか。スキル獲得の方は……ない。本当に低い確率なんだ。でも、ポイント無しに手に入れられる可能性があるのは、利点だよね。あの味とかを我慢すれば……」
色々な確認をしているところに、半透明のスライムが跳ねてくる。
「血液が無さそうなモンスターに使ったら、どうなるんだろう?」
興味本位でスライムを捕まえようとする。でも、すぐに手を離す事になった。手のひらが軽く痛くなったからだ。
「なんだろう? もしかして、消化されそうになった?」
モンスターとしてのスライムのイメージだと、色々と消化して物を食べるというのが、私の中である。もしかしたら、このゲームのスライムも同じなのかもしれない。
「これだと吸うのは、無理かな? う~ん……でも、みず姉も何事も挑戦って言ってたし」
取り敢えず、スライムに魔力で出来た牙を立てる。さっきは、ホワイトラビットに刺すような感じがあったけど、スライムに関しては、そんな感触もなく勢い余って、スライムを食べてしまった。
凄いピリピリとした感覚が口の中に広がる。炭酸のしゅわしゅわ感を持った無味無臭のゼリーって感じだ。口の中のスライムを飲み込んで、地面にいるスライムを見ると、私が食べた箇所から、赤いエフェクトが飛び散っている。
「これもダメージが通るんだ。これだと、拳とかでも一応ダメージは入るって感じかな。多分、格闘スキルを持っている人とは、桁違いに低い威力なんだろうけど」
私は、ぷるぷると震えているスライムをジッと見る。そして、スライムを手に持って、スライムを食べていった。ちょっと手がピリピリとするけど、凄いダメージを食らうわけではないので、そのまま食べ続ける。
すると、急に硬い食感がしてくる。硬いと言っても、氷菓子くらいの硬さなので、食べる事は出来た。
「……私、何してるんだろう? あれ? そういえば、スライムのドロップは?」
我に返った私は、さっきのホワイトラビットと違い、スライムのドロップアイテムが出ていない事に気付いた。
「完全に食べきったモンスターは、ドロップアイテムを落とさない? ちょっと検証してみよ」
私は、スライムを剣で攻撃して倒していく。その間に気付いたのは、スライムの硬い部分を正確に破壊したら、一撃で倒せるという事だった。多分、この硬い部分がスライムの核なのだと思う。ただ、身体と同じで半透明なので、しっかりと見ないと判別が付かない。咄嗟に狙うのは、このゲームの戦闘に慣れてからじゃないと厳しそう。
「うん。剣で倒すとドロップする。スライムゼリー……これを食べたからドロップしなかったって感じかな?」
剣でドロップする事が分かった私は、ちょっと試しに核を食べないようにして、スライムを食べてみる事にした。スライムに食らいつくのでは無く、身体を飲んでいく。完全に飲み干すと、最後に手のひらに丸い砂糖玉のようなものが残った。
すると、目の前にウィンドウが現れる。
「スライムの核ゲット。なるほどね。核を壊さないように倒せば、普通にドロップするって事か。それじゃあ、さっきドロップしなかったのは、完全に食べきったからで、間違いなさそう」
検証の結果、全部食べきらず、核だけ残して食べれば、ドロップする事が分かった。つまり食べてしまった部分に関しては、ドロップはしないという事だ。
「スライムの核が欲しい時は、この方法で倒せば確実に手に入るね。剣で斬ると、誤って壊しそうだし」
倒し方によって、ドロップするアイテムが変わってくると考えた方が良さそうだ。素材を駄目にするような戦い方は、素材集めの際には控える事にする。
「スライムの消化攻撃のダメージは、少ないけど、今の状態だと軽視は出来ないなぁ。取り敢えず、ホワイトラビットで補充しよっと」
HPゲージとMPゲージは、数値はないけどバー表示で見る事が出来る。少し長くスライムを持っていたからか、一割近く削られている。
なので、【吸血】のHP回復を利用する事にした。ちょうどホワイトラビットもいるから、HP回復には困らない。こういうとき、アイテムによる回復とは別の手段があるのは、結構助かる。
「うぇ……」
そう思ってホワイトラビットの血を飲んだけど、やっぱりこの味は最悪過ぎる。
「ホワイトラビット一匹で、全部回復した。ホワイトラビットの回復量が多いって言うよりは、私の最大HPが低いって方が正しいよね。最大HPの上昇は……スキル収得か。強化系のスキルは、早めに収得しておこうかな」
収得可能スキル一覧を確認すると、ランク1に【HP強化】【MP強化】【物理攻撃強化】【物理防御強化】【速度強化】【魔法攻撃強化】【魔法防御強化】【器用さ強化】【運強化】の九つの強化スキルがあった。
「この中から、自分のスタイルに合った強化を選んだ方が良いんだろうね。私は、近接戦闘系で、基本ソロでやるつもりだから、HPとMPと物理攻撃と速度かな。防御系は……保留にしておこう。回避すれば、どうにかなるかもしれないし」
自分のスキル構成を考えつつ、近くにいたホワイトラビットを捕獲して、吸血しておく。
「う゛ぉえ……連続で吸血するの辛っ……」
この味と匂いに全く慣れない。でも、せっかく最初に手入れたスキルなので、可能性を追求してみたいという欲求が大きくなりつつある。だから、もう少し使ってみようとは思う。
「さて、まだ夜明けまで時間があるし、森の方に行こうかな。ここから、本格的な戦闘かな」
自分から食らいに行っているスライムの消化攻撃を除いて、ここまでモンスターから攻撃されていない事から、本当に初心者用の狩り場なのだと分かる。ここで軽くモンスターと戦うという事を覚えて、森で本当の意味での実戦になるのだと思う。
獰猛なモンスター相手に、どうやって吸血を交えて戦おうかな。ちょっと楽しみだ。
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