36-1:だからなぜ私!?
机の上に広げられた地図と書き留められたメモ書き、そして数枚の用紙。
それらに目を通した私と両親はそれぞれで同じことに気付いたようだった。
「徐々に境界に移動してきている上に型が大きくなっていっている…」
「そうだ。当初見掛けられた際はカズイールより北西のククレル火山のほうだったそうだ。そしてその時は小型であり、今まで見かけたことのない姿だったことから報告が上がっていた」
「同じ魔物の可能性だ」
「しかし先程別種、と…」
「そこだ。別種の報告と同時に、境界で見られた魔物は姿が見当たらない」
「同じかもしれないし別かもしれない、ということですか」
「そうだ」
「移動速度が少し速くなっていますね」
私は用紙を手に取り記された目撃地の情報と地図を見比べる。そして地図に示された移動点からこの魔物の移動速度に目を見張る。
最初はとてもゆっくりなのか、次の目撃地点までは大体5日ほどあった。そして二つ目の目撃地点では4日、しかし距離として見ればさして一つ目から二つ目の目撃地までとは然程変わらない。傾斜もそこまで大きく差はない。あるとすればそこに住む魔物の種類だけだが、火山周辺では大型の魔物はあまり現れない。火山に住み着いている魔物を恐れ距離をとり縄張りを作るからだ。
縄張りを作ることをしない小型は恐れはしても食糧目当てに姿を見せることはあると聞く。
だとして、そう考えるとこの小型の移動がそもそも疑問だった。
そして三つ目の目撃地点。そこまでには3日と移動速度が上がっているように感じた。
それに加えて大きさだ。
最初は小型。そこから小型と思われる、中型に満たない小型、中型、ときている。
となれば考えられるのはこの魔物の"成長"だ。
魔物の成長速度は様々な研究はされているが未だに解明されておらず、予想の範囲、で留まっている。
種類ごとにでも違えば、不思議なことに同じ種でも成長速度が全くと異なることあり、場合によっては半年とも取れるほどの差が出ることもあるのだとか。
そう考えるとこの魔物は成長速度がやけに早すぎるように感じる。こんな数日で何十キロとある距離を移動してくるなど、相当だ。ククレル火山からカズイールまでは馬車で一月はかかるとされている。魔物ならば何日で到達出来るのだろうか。距離だけでいうなら20日程度とはいうが、それでもかなり険しい道だ。そんな短期で移動できていることも考えると相当なのではないかと思う。
数字だけを追うとそうでもないように感じてしまうが、
日本で言うなら東京から京都まで歩くと2週間はかかるというし、そう考えると相当だと思う。
飛脚は数日だったというけど。
そういえば参勤交代とかいうのあったな。
「移動速度を考えるとこの魔物は相当成長速度が速いのでは?飛行型ではないのが救いと思いますが、このままでは明日明後日にはカズイールに到達しても可笑しくないのでは」
「気付きましたか」
「つまり閣下はこの魔物は同一と考え、また成長過程にあると?」
父が真っ直ぐとアドルネア閣下を見て問えば、彼は深く頷いていた。
この目撃情報を考えればそれしかないと私は思うが、それならば成長後の形態…。あ…。
「この魔物はあの魔力溜まりを起こしているククレル火山で生まれた可能性があるな。更には境界をも超えている。確実に高魔力保持の魔物…。このまま成長が進めばこの魔物から逃げようとする魔物も現れるかと」
「スタンピードですね」
「流石はマリアーネル家だ。読みがいいな」
どうやら父も同じことを想定したようだ。まあ、マリアーネル領を護る人だ。その想定をするのは当たり前なのかもしれない。
「魔物の大群が押し寄せることが予測されるのであればカズイール領は落ちる可能性がある。境界に張られた結界は既に破られていると考えていい」
「そこが落ちればこの魔物がそのままの進路でくるならいずれマリアーネル領に到達することも可能性としてはあり得る」
山々に囲まれたカズイール領は境界に結界があることもありそこまで戦に目を向けていない。ククレル火山に近寄れる魔物も、そこから出られる魔物もそう多くはない。山堺にいる魔物ならば結界でどうにか出来るからだ。
もっと警戒しなさいよ…。
頭が痛くなる話で、これは追々改善させねばならないとされていた。これを機にぜひとも改善して欲しい。領土が残っているなら。
「そこでだ。カズイールとマリアーネル領の境のここ、サウス平原手前で結界を張りたい」
「結界?」
「ああ、君のご息女なら出来るだろう?」
「……そう来ましたか」
え?私!?は…????
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