7:悪口大会の昼休みはお断りです。

「マリアーネル様、お昼ご一緒にいかがですか?」


 呼ばれてそちらを向けば4人のご令嬢方が並んで私を見ていた。圧が強いわね…。

 私は案外一人ではなかったらしい。あまりこの人達のことを覚えていないけど。そういえば前世の記憶を思い出したのはいいけれど、私の記憶がない。記憶の混濁っていうよりは完全にないなって気がする。…生まれ変わりでもなく転生で人の身体乗っ取ったとかそういうこと?だとしたら嫌なんだけど…。


「マリアーネル様?」

「え?あ、ああ。いいわ、行きましょう」


 それにしてはお嬢様言葉ってのが板についてるんだよなあ。考え事をしながらも令嬢達と共に食堂へ向かう。


「マリアーネル様、どちらへ?食堂はこちらですよ?」


 どうやら通り過ぎたらしい。だってこの子達私の後ろを歩くんだもの!道なんて知らないわよ!前歩けばいいじゃない、前!まあ身分的に難しいんでしょうけど。リアラや周りの反応からしてそこそこには良いとこ出のお嬢さんらしいし。


 食堂内に入ると既に人が増え始めたところなのか賑わっていた。そんな中少し手前側の席にリアラを見つける。私が手を上げて声を掛けようとしたその時、一緒にいた令嬢がリアラに先に声をかけた。


「あら、芋虫さんじゃない。こんなところでどうしたの?」

「あ…」


 令嬢に声をかけられたリアラは怯えたように震えていた。

 どうしたのもなにも食堂なんだからお昼食べてるに決まってるでしょ。ていうか芋虫って何。失礼すぎない?この子。


「芋虫だから葉っぱしか食べれないのよね。可哀想に」

「蝶じゃなくて蛾にしかなれない芋虫さんは空気が悪くなるから早く出て行ってくれないかしら」

「そうそう。いっそ学園から出て行っても構わないけど」


 そう言って笑い出す4人。呆れた…。幼稚園児でももっとマシな悪口があると思うけど。リアラは言い返すのかと思えば何も言い返しもしない。4人だけでなく周りでもくすくすとリアラを笑う声がする。


「この食堂は随分小蝿が飛んでいるのね。人様の食事に集って醜くて敵わないわ。五月蝿いのはその髪型だけで充分なのだけれど」

「な…」

「マリアーネル様!?」

「悪いけど私小蝿と戯れる趣味はないの。教室に戻らせていただくわ」


 それだけ言って踵を返す。

 なんなのあれ。教室でも食堂でもリアラを目の敵みたいにしちゃってみっともない。そもそも無駄に縦ロールやらリボンばかりつけてたりゴテゴテした髪型したあんた達よりリアラのピンク色に近い赤い髪の方がずっと綺麗なのよ。て、論点はそこじゃない。

 はー。お昼食べ損なったよー!!!お腹空いてるのにいいい!どうしようかしら。こういうとこって購買とかないの?あるわけないか…。や、意外にあるんじゃない?ノートとかそういうの売ってたりしそうだし。


「マリアーネル様!」


 後ろから大きな声で呼び止められて振り返ると走ってきたのか息を切らしたリアラがいた。

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