禿げと国父の異世界放浪記

広島あみ

第一記

 いつの間にか居眠りをしていたらしい。

 眩しい光が目蓋に当たり、目を閉じていてもそれが太陽の温かみであるとわかる。

「なんだ、もう朝か。」

 椅子から立ちあがろうとすると、やっと自分が寝っ転がっていることに気がつく。俺は相当疲れていたのか、寝る前の事をあまり覚えていなかった。

 ゆっくりと体を起こし、目を開けたそこには、

 我がイスタンブールのその景色は跡形もなく、ただ地平線まで広がる草原が広がるだけだった。

 ドルマバフチェ宮は?金角湾は?一体ここはどこであるのか。

「お目覚めになられましたか。」

 後ろから若い男の声がした。

 振り返ると、そいつは細い体にあまり似合わない、修道服を着ていた。

 その時、直感的に、悟るようにここが所謂、死後の世界である事を理解した。

「なるほど、そしてお前が俺を地獄に連れてゆく案内役ということか。」

「察しが良くてこちらも助かります。」

 なんと、本当に俺は死んでしまったらしい。

 やっぱり、酒の飲み過ぎは良くなかったな、もう遅いのだが。

「しかしながら、私は地獄に導く悪魔ではございません。私は世界と世界を繋げる案内人。言わば、2つのものを留めるコネクターなのです。」

 世界を、繋げる?言っている意味がよくわからないが。

 まあいずれにせよ俺が死んだ時、どうやって地獄から逃げ出そうか、と夢想にふけっていたのは全くの無駄になってしまうようだ。

「聞いてもいいか?」

 男はええと頷く。

「その説明の通りなら、俺はこれからはこの、何もない原っぱ世界で過ごすって事になるのか?それは超退屈そうだからちょっと嫌なんだが。」

「いいえ、ここはあなたがこれから暮らす新しい世界ではありません。あなたには、もっとあなたを求めている世界が用意されております。」

 いや、怪しすぎるだろ。

 絶対やばいとこに送られるって、針山とか、血の川とか、無理だって、絶対行きたくねえ。

「では、説明も致しましたので、転移を行います。これ以降の質問、変更は一切受け付けておりませんので、ご注意ください。」

「おい、ちょっと待て待て待て、まじで無理だから、俺もうオッサンだから、胃も悪いし、仕事し過ぎて死んだんだってば。」

 男は困った顔をする。

「仕方ありません、普通ならこんな事はしないのですが、あなたは元の世界でかなり活躍したそうですから、こちらで少しずらしましょう。向こうの世界に行って、ひとりぼっちというのは寂しいものです。そこで、あなたと親しかった方を当初の予定を早めて、あなたと一緒に向こうに行けるように変更しておきます。」

 俺と親しいやつか、26年、あの時も、かつての友を失った俺にそんな人物がいたのだろうか。

「それは誰なんだ。」

「質問に答える事はできません」

「さっきは答えたじゃねえか。」

 男は似合わない笑顔を浮かべて俺を見送った。

「それでは、良いお旅を。」

 その瞬間、また俺は眠りについた。

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