8.実情②

「まず、君が捕まった状況から説明する。」

男はそう語りだした。

「君は警官の扮装をした我々の敵の末端構成員に捕まった。君はパトカーのトランクに詰め込まれ、特殊なビニール製の袋に入れられた。全身をすっぽりとな」

「奴らが誰かを拘束して、持っていく時はその袋に入れて脱走を防ぐんだぁ!暑さにも強く、破られにくいっていう優れもの!異能力で脱出できない完全無欠の牢獄って訳!」

男の説明にモンテなんたらが補足を付け足す。

「パトカーはその後、君が捕まった駅前から二十キロ圏内にある道路を走行中、我々の同胞の部隊によって救出され、ここに連れ込まれたという訳だ。ちなみに、しっかり部隊はその末端構成員を殺害した」

男は事の顛末を話しながらさらりと物騒な事を言った。

やはり、ここの組織では敵勢力の人間を立場を問わず殺すようだ。

「なるほど、だいたい分かりました。それで、私の能力というのは…?」

俺がそう切り出すと、男はモンテなんたらの方を見た。

「結果はこいつから聞いてくれ。もう解析はしたんだろ?」

「もっちろ~んっ、だよ!君の能力はぁ~、君がおねんねしてる間に解析しておきましたぁ~!なんと、なんとぉ~?!君の能力はぁ~?!というか、能力じゃないんだけどぉ~、えっとねぇ、君の持ってる変…」

「ちょっ、待ってください!」

俺はモンテなんたらの言葉を遮らざるを得なかった。

(能力発表~!みたいな雰囲気の中で飛んでもない事言いやがった…)

寝てる間に解析をしたって?解析って具体的に何をやったって言うんだ?

身長体重を計ったとかそんな生易しいものではないだろう。

DNAを採取したり、レントゲンを撮ったり、採血したりといった健康診断レベルのものから、特殊な装置を使った検査や、何らかの薬品を使ったものまでやったんじゃないだろうか。

(というか、目眩がしていたのってそういう…)

男の話は信じるしかない。結局こちらにそれを確かめる術は無いのだ。知りたがりは立場を悪くする。捕まった事に対しては言及するのはよそう。

だが、その解析とやらをしている時に何か変な事をされていないだろうか?

こいつらが何を考えているかは分からないが、俺を仲間に引き込みたいのであれば、俺にとっての利益、ここで言えば身の安全と訓練によって自分の身を自分で守れるようになる事ではあるが、それでも、俺が自分達の意にそぐわない行動をとる事も視野には入れているのでは無いだろうか?

(……薬物の類いは詳しくないから、何とも言えないが、彼らが漫画やアニメに出てくるような能力を持っているなら可能性はある)

「そ、その~、解析ってのは具体的には?」

「ん?採血と遺伝子検査とレントゲンだよ~!一時間もかからずに対象が持つ特異点を分析できちゃい~っ、マウス!」

モンテなんたらさんの答えに俺は、ほっとして息を吐きながら、胸を撫で下ろす。

良かった。ファーストコンタクトはさんざんだったが、常識は……無さそうだが、こちらに危害は加えようとはしていないようだ。

(とはいえ、確かめる術はないけどね…)

「栄えある君の異能というか、超能力というか、普通のホモ・サピエンスと違うところというか、私が定義したホモ・スーパーナチュラルの特徴としての非科学的…」

「早く言え!」

モンテなんたらさんのもったいぶった長すぎる前置きに、男はいらついて、怒鳴り声を上げる。

「え~っ!だってえ、ちゃんとした定義がされてないんだよ!」

「良いから!どんな能力なのか言えば良いんだよ!その他諸々の事なんざ、今どうでも良いだろ!」

男の剣幕に眉を潜めながら、不満そうに「その能力って言葉、正確じゃない…」とぼやきながら、モンテなんたらさんは言った。

「君の異能は『血中成分の酸素運搬に関わる機能の向上に伴う身体能力の向上及び血中成分の変異による発火性質の獲得』だ」

ん?え?何て?そして長くね?

長すぎるのと、余りに学問的な呼称過ぎて、脳が理解するのを拒否してしまった。

「えっと…もう一回…」

「『血中成分の酸素運搬に関わる機能の向上に伴う身体能力の向上及び血中成分の変異による発火性質の獲得』だ。長くて覚えづらいかもしれないけど、頑張って覚えてね!」

それは無理だ。逆立ちしたって無理だ。

俺の事は知ってんだろ?どこにでもいるFラン大学生だ。そんなの覚えられるか。

怠惰でやる気が無くて、将来に何の展望も無く、未来も無い、大卒資格を取るためだけに大学に来たそんな奴だよ。おまけに、片親のすねかじりだよ。

(そんな奴が覚えられる訳ねぇだろ!馬鹿がよ!)

心の中で半ば逆ギレしながら、俺はモンテなんたらさんの言葉に否を叩きつける。

「無理です…覚えられません」

「というか、能力の内容は?」

男がモンテなんたらさんに尋ねると、モンテなんたらさんは、嘲笑の笑みを浮かべた。

「えぇ?も・し・か・し・て?さっきで分かんなかったのかなぁ~?言ったよねぇ?『血中成分の酸素運搬に関わる機能の向上に伴う身体能力の向上及び血中成分の変異による発火性質の獲得』だってぇ?まんまじゃあん!なぁんで分っからないのかな~?頭がすっからかんなのかなぁ~?ノータリンリンッ!なのかなぁ~?」

「あぁ?」

口元に手を当てながら、高度な煽りを展開するモンテなんたらさんに、男はドスの効いた声を上げながら、指の骨を鳴らす。

「舐めんのも大概しろよ、この腐れメガネが」

「や~い、や~い、落ちこぼれエリートォ!」

「あんだとぉ?!!」

男は握りしめた拳を瞬時に後ろに引き、狙いをモンテなんたらさんの顔面に定める。

「えっ?ちょっ、私、女だよ?!女の顔面、殴るって言うのっ?!ちょっ…やっ…」

モンテなんたらさんは目をつぶり、とっさに両手を顔の前に出す。

だが、男は止まらなかった。

ダァン!

しかし、拳は直前で速度を落としつつ、進路を変えて、モンテなんたらさんの後ろの壁にぶち当たる。

「はぁ…はぁ…止めましょ…はぁ…はぁ…殴っちゃ駄目です…」

拳がモンテなんたらさんの顔面に直撃するほんの数秒前に、俺は男の腕を掴むと、前へ押した。

男の拳を止める程の力は俺には無い。

だからこそ、力と勢いをそのまま、それが向く方向をほんの少しだけ変える事しか出来なかったが、誰かが殴られる事だけは避けたかった。

いつの間にか、俺は息が浅くなり、呼吸が荒くなっていた。

「お前、良く俺の腕を動かせたな」

男は驚きと関心の混ざった顔をしながら、拳を下ろす。

彼にとって、俺の行動は予想外のものであったらしい。

だが、俺にとっても想像もしていなかった行動だった。

(何で…あんな事…)

モンテなんたらさんが殴られようがどうでも良いじゃないか。

それなのに、何で止めに入った?相手が止めてくれたから良かったものの、逆上して自分まで殴られたらどうするつもりだったのだ。

(浅慮な行動は止めようって何度も決めたじゃないか…)

「そ、そういった事が出来るのが君の異能!」

モンテなんたらさんは、殴られかける恐怖から解放されたようだ。

だが、まだ、完全には恐怖が抜けきっていないのか、先程よりも早く口を動かした。

「身体能力が大幅に上昇してて、君の反応速度とか瞬発力とかも軒並み上がってるみたいで、それもこれも酸素の運搬量が常人の約一・五倍程度上がってるからでね!君の臓器とか筋肉とかも全部全部能力が底上げされてるみたい!すっごいよね!そうなんだけどデメリットもあって君の血は火だったり熱いものに触れると燃えちゃうの!焼けど程度なら大丈夫だけど火炎放射器とか火炎瓶とかに要、注意って感じだねっ!でも、血液が強くなった分肌も強くなって普通の人の一・五倍から二倍程度皮膚の強度が増してるから安心してね!」

「まっ、待ってください…」

血液が…燃える……?

う、嘘でしょ、おかしいやん……

俺は現実を受け止める事が出来なかった。

(血が燃えるって何すか?血が燃えるって……)

頭の中でずっと、その問いだけが繰り返される。

「……つまり…戦闘には不向きって事か?」

「うんっ、そだねっ!銃弾一発で火だるまかな!」

悲報、内山優(うちやますぐる)二十歳。Fラン大学生から無事、ワンショットライターへと転職致しました。

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