口笛は、天高らかに

あめはしつつじ

夜に口笛を吹くと、

 僕は口笛を吹けない。

 フーセンガムを膨らませられない。

 言葉を、上手く話せない。

 僕の口は不器用だ。

 理科の授業で先生が、

「天の河は本当は、何からできていますか?」

 とたずねられたので、

 僕は手を挙げて、

 星、そう答えようとしたのだけれど、

「ほほほほほほほほ、ほ、ほほ、ほ、ほ、」

 どうしても、し、の音が出せなかった。

 それを聞いたクラスメイトは、

 口に何度も手を当てて、

「ほぉほぉほぉほぉほぉほぉほぉほぉ、」

 と僕をからかった。




 待ちに待った夏休み、

 学校を休めることが嬉しいんじゃない。

 僕はもう、行くのが嫌で、

 学校をよく休むようになっていたから、

 嘘の理由なく、休める、

 それが嬉しい。

 宿題は二日で終わらせた。

 作文の宿題、

 絵日記以外は。




 あれ? 絵日記も嘘でいいんじゃないか?

 僕は気づいた。

 こんな絵日記を書いた、


『今日は、口笛の練習をしました。

 あまり上手くいきませんでした。』


『今日も、口笛の練習をしました。

 昨日よりは、少しできるようになりました。』


『今日もまた、口笛の練習をしました。

 あとちょっとで、吹けそうだったけど、

 お母さんに、

 「夜に口笛を吹くと泥棒が来るよ」

 と言われてやめました。』


『今日も、口笛の練習をしました。

 「ヒュー、ピューイ」

 とても上手に吹けたので、

 とても嬉しかったです』




 そしたら、

 口笛ができたという嘘を書いたその日、

 本当に口笛が吹けてしまった。


 もしかすると、

 この絵日記は、

 予言の書?

 もし、万が一、

 僕の絵日記に書かれたことが、

 本当になるなら、

 慎重に、

 慎重に、書かなければ、




 今日は夏休みの登校日でしたが、

 寝坊をしてしまいました。

 遅れて、学校に行くと、

 もう、

 クラスメイトも、先生も、

 みんな来ていて、

 学校が燃えていました。

 みんなみんな、燃えていました。


 絵日記の通り、

 燃えている学校を見上げて、

 僕は口笛を吹いた。

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