婚約者の心の声が怖すぎるんですが。

ラムココ/高橋ココ

第1話

 きっかけは、誰もがギフトという能力を授かる「女神の祝福の儀」でギ私が変なギフトを授かってしまった10歳の時だった。


『あー・・・・・犯してしまいたい』


 え? 


 本当に突然だった。同い年の婚約者とのお茶会の最中に突然、目の前で静かに座っている婚約者の声が聞こえてきたのだ。

彼は口を閉じているのに。


『ん? 唖然としているシャリーもとても可愛いあー早く18歳にならないかなそうすれば×××して×××して×××できるのに』

「ん? どうした?」


 婚約者であるこの国の第一王子殿下ーーアリオス様の心の声と実際の声が重なって聞こえてきて余計頭が混乱する。


 ・・・・・・・脳がが理解を拒否している。


 ーーよし、私は何も聞かなかった! 今後も私は何も聞かない!


 と決意して以降、婚約者からいくら過激な規制が入るような言葉が聞こえてきたとしても、変態チックな趣味について聞こえてきても、思わず小さく悲鳴をあげるほどの妄想が聞こえてきても、なにも聞かなかったことにした。


 ーーーだっていちいち気にしてたらアリオス様の顔が見れなくなってしまうんだもの!


 アリオス様は表面上は完璧貴公子の笑みを浮かべていていつも通りなのに、私だけ挙動不審だったら明らかに怪しまれるじゃない!


 アリオス様のヤバ過ぎる心の声が聞こえたあの日から、私は自分の「読心」のギフトについて秘密にしているのに!


 まさか、あなたのヤバすぎる妄想とか趣味のこととかずっと知ってましたーなんてカミングアウトした日にはアリオス様にもう二度と顔合わせられなくなるわ・・・・・


 ていうかアリオス様のことは好きだから、どんな変態なことを私で妄想されようとも別に嫌ではないのよ。


 ただこちらがウワーーッて叫びたくなるのを我慢するのが辛い・・・・居た堪れないし、はっきり言ってめちゃくちゃ恥ずかしい!


 そして先日15歳を迎えた私とアリオス様は現在、恒例の月に2回親睦を深めるためのお茶会をしている。


『××××××して×××したらどんな反応するんだろうかシャリーは・・・・・あと3年の辛抱じゃないか。そう、あとたった3年我慢すれば毎日やりたい放題ッ! ×××して×××してそれで×××を使って・・・・それまで毎日〇回×××すれば耐えられる・・・・・!』


 ちょちょちょちょちょっと待って!? 規制増えてるというか規制だらけになってるしやりたい放題ってなにが!?

使うってなに!?


 これは完全に成長して制御できるようになってから久しぶりにちょーっと覗いてみようかなぁなんて思った私の自業自得だわ・・・・



 とその時、アリオス様が言葉を発した。


「そうだシャリー。最近王都でギフト狩りが増えてるという噂だから気を付けろ。一人で王都へ出掛けないように。出掛ける時は侍女だけじゃなく護衛もつけるように。一応公爵には話を通しているが」

「ギフト狩り、ですか?」

「そうだ。どうやら片っ端から若い女性を攫って珍しいギフトの持ち主がいれば別にどこかへ連れて行かれるそうだ。」

「そうなんですね・・・・分かりました、気を付けます」


 ギフト狩り・・・・・なんなんでしょう、怖いわね。


 別に連れて行かれるって、貴族の屋敷かしら?

 ギフトは親の遺伝が大きいから、珍しいギフトの持ち主を集めて、無理やり子供を産ませる・・・・野心の強い悪徳貴族ならあり得る。ギフトが珍しいものだと、それだけで一家のステータスになるからだ。予想が正しければ、おそらく、人攫いのバックにその貴族がいるのだろう。




ーーーーーーー




 お茶会からの帰り道。


 我が公爵家の高級馬車に揺られてボーッと外を眺めていると、チラッと視界に入った女性が黒いローブを着た男達に口元を覆われて連れ去られていくのが見えた。


「あれって・・・・! ねぇちょっと馬車止めてもらえる!?」

「え、あ、はい」


 御者に言って馬車を止めてもらうと、私は馬車を飛び出した。


「お嬢様!? お待ちくださいッ!」

「ノンナはここで待ってて!!」

「えぇ!?」


 専属侍女のノンナには申し訳ないが、巻き込みたくはない。それに若い女性2人は危険だ。いや一人も危険だけど、2人よりは動きやすい。


 幸い、妃教育の一環で自衛のための護身術は習っているし、短剣も護身用だけれど持っている。

 こういうのは見捨てられない・・・・・! 自分の目で見てしまったからには、助けなければと思ってしまう。



 黒ローブたちを見失わないうちに走って彼らの元に向かう。



「ねぇ! 彼女をどこに連れて行くつもり?」

「あ゛?」


 思わず声をかけると、中断されて気に食わなかったのか、ギロリと睨まれる。

こちらもキッと睨み返す。


 睨んではいるけれど、やっぱり怖い。冷や汗が噴き出て、今にも逃げ出してしまいたい。


 すると、相手がフッと目を逸らした。


「お嬢さんには関係ない話だ。さっさと失せろ。見たところ、良いとこの貴族のお嬢さんだろ? 流石に貴族の娘を連れ去る気はないからな。連れ去ったのがバレれば処刑になる」


 それは嫌だ、と目の前の男は言う。ていうか、どうして高位貴族ってわかったのかしら? それに人攫いだって隠す気もない・・・・?


「なんでって顔だな。そりゃそんな高そうなドレス着てりゃ一発で分かる。それより、俺たちは依頼されてやってんだ。お前と同じ貴族だよ。そんなの断れないし、失敗したらそれこそ殺される・・・・失敗できないんだ、見逃してくれ」


 な、なんでこの人はこんなにペラペラと情報を話してるのかしら? 大丈夫なの? 

 ハッ! もしかして、同情を買って逃げるつもりかしら!?


「同情を買おうたってそうはいかないわよ。その娘を解放しなさい」

「それはできない。・・・・・・何も知らない純粋な貴族令嬢だと思ったがとんだ誤算だったな。ーーーおい、こいつも連れてくぞ」


 男がそう言うと、他の黒ローブたちが私を押さえつける。


「なっ!? やめて!! 離しなさいよっ!」

「へへッいい体してんじゃねえか。口だけは勇気のあるヤツだがまぁ、珍しいギフト持ってなくとも別の使い道はあるだろ」

「や、やめてってば!! んぐッ」


 短剣を取り出す暇もなく、口を覆われ、体も動けないように押さえつけられる。

 こんなことなら介入するんじゃなかった。私ってやっぱりバカだ。助けようとか言って自分も捕まるなんて。

 

 暴れて男たちから抜け出そうとする。が、何故か、力が入らない。


「!?」

「お、薬が効いてきたようだな。このまま大人しくしとけ」


トンッ


 首筋に手刀を入れられる。私はそのまま、意識を失った。




ーーーーーーー




 「う・・・・ここは・・・?」


 目が覚めると、檻のようなところに入れられていた。どうやら、あの時手刀を入れられて意識を失っている間に、どこかにつれて来られたようね・・・・・・


「ねぇ。あなたも捕まったの?」

「ッ!」


 急に声をかけられ、振り向くと、そこには先ほど私が助けようとした女性がいた。


「・・・・・えぇ、そうみたいね」

「ごめんなさい・・・・私と一緒にあなたもここに入れられたって聞いて・・・・・」

「聞いた?」

「他の人もほら、捕まってるらしいの」


 言われて周りを見ると、10人ほどの女性が、同じくここに入れられていた。


 全員が女性・・・・・これはギフト狩りに捕まったとみて間違いなさそうね。


 その時、ガチャっと音がしてドアが開いた。


 私たちを攫った男たちと同じ黒ローブを着た、小柄な男と粗暴そうな大柄な男がが入ってくる。


「おい。珍しいギフト持ちはいるのか?」

「ちょっと待ってくださいよぉ、今調べますから。どうせ今回も収穫はなーーーーん?」

「どうした?」

「・・・・どうやら一人、いるようですねぇ」


 調べると言った小柄な男は、嫌な笑みを浮かべそう言うと、私に視線を固定した。


「ッ!!」


 私?


 小柄な男が私に視線を向けたのに気付くと、大柄な方の男が、ズカズカと檻の前まで歩いて檻の鍵を開けると私の腕を乱暴に掴んだ。


「こいつか?」

「痛ッ!」

「叫ぶな」


バシッ


「うッ・・・!」


 腕を強く掴まれて声を上げると、頬を殴られた。手加減も何もない。頬がジンジンと痛みを訴えている。


 ちらっと他の女性たちを見ると、檻の端の方に集まって震えている。


「来い」


 腕を無理矢理引っ張られて思わず悲鳴を上げそうになるが、悲鳴をあげればまた殴られる。私は唇を噛んで悲鳴を飲み込んだ。


 私を殴った大柄な男は無理やり私を立たせ檻から出すと、再び鍵をかけ、私を連れて出ると、どこかへ連れて行く。


 どうやら檻があるのは地下らしく、階段を上りそのまま進むと、どう見ても貴族の屋敷のようなところに出た。

 通りかかったときにあった調度品や広さをみた感じ、おそらく子爵か男爵あたりだろう。


 しばらく無言で乱暴に連れられて歩いていると、一つの部屋の前で立ち止まった。


「男爵様。連れて参りました」

「よい、入れ」


「おら、男爵様の部屋だ」

「きゃッ!」


 男がドアを開けると、私は背中をドンっと押され、部屋に倒れ込むように入れられた。


「お前は下がれ」

「はい」


 男は私をここに連れてくるだけ連れてくると、ドアを閉め去っていった。



「・・・・あなた、何のつもり? 私に何かするなら承知しないわ」


 連れてこられた男爵の部屋はギラギラと趣味の悪いもので埋め尽くされていた。


 ベッドに座っている男爵はぶくぶくと太っており、指にはごちゃごちゃと趣味の悪い指輪嵌め、いかにも成金といった風貌の男だった。妃教育で習った貴族名鑑の中にいたわね。ゴルバ男爵だったかしら。


 キッと男爵を睨むと、男爵は肉に埋もれてほとんど見えない目をさらに細めニィっと笑う。


「口だけは達者なようだな。今からワシの相手をしてもらう。もちろん、性的な意味でなぁ? グヒヒッ」

「ッ・・・・・・」


 き、気持ち悪いっ! ゾワって鳥肌が立ったわ!


 ど、どうしましょう。本格的にヤバいかもしれないわ・・・・・でもこんなに長い時間私が戻らなければ、さすがに誰かが来るはず。


「さぁワシの子を産んでくれ。珍しいギフト持ちの子を産んだ暁には妻に取り立ててあげよう」

「いやよッ! 来ないで!!


 やっぱり予想は当たっていたわね。


 ベッドから立ち上がり、太った巨体がニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら私に近付いてくる。


「ワシだって乱暴はしたくないんだ。大人しくワシに組み敷かれなさい」

「ヒッ!」


 ひぃぃ!


 何から何まで気持ち悪い男ね! 誰がそんな言葉に従うもんですか!


 

「きゃッ! い、いや、いやよッ! だ、だれか助けて!!」


 私が後ずさると、我慢に限界が来たのか私の髪を引っ張り、無理やりベッドへと連れ込んだ。


 誰かッ・・・・助けて・・・・・!!


 いや、嫌よっ・・・・私の純潔はアリオス様に捧げるって決めてるんだからぁッ!


 ・・・・もう致し方ない。あんまり貴族同士で揉めるのは嫌けれど、ここまでされては、ほんとに処女を奪われてしまう。


「やめてって言ってるでしょうッ!!」


 ーーー私は護身用に持っていた短剣を取り出し、男爵の肩に思いっきり突き刺した。


「ぎゃああああッ!!」


 途端、私を組み敷いていた体が跳ね上がり、ベッドから転げ落ちた。


 ふんっ! そんなに太ってるから私の短剣にも反応できないのよ。


 ベッドから降り、いまだ痛みに悶えている男爵を放って出ていこうとすると、足をガシっと掴まれた。


「ッ!」

「グヒヒヒッ! よくもワシの肩を刺してくれたな・・・・!!」


 ヤ、ヤバいッ! すっかり油断してたわ!


「離してッ」

「グヒヒッ油断したなぁ!」


 バンッ!!


 男爵の手から抜け出そうと必死に足を引っ張っていたとき、ドアが勢いよく開いた。


「シャリーッ!!!」

「ッアリオス様!」


現れたのはなんと剣を持ったアリオス様だった。


「グヒッな、なぜアリオス殿下がここに!?」


『早くシャリーを助けないと・・・・!』

「その手を離せ!」


 いつかの時と同じく、声が二重に聞こえるる。アリオス様がきた安心感で制御が一時的に緩んでしまったようだ。


 アリオス様は私と男爵の側まで来ると、男爵の手の甲に剣を突き刺した。


「ギャッ!!」


 刺された痛みで反射的にパッと手を離したおかげで、足が解放された。


「シャリー、遅くなってすまないッ!」


 突然、私はアリオス様に抱き締められた。


「い、いえっ! 私が勝手に動いたのが悪いんです! アリオス様のせいではありません!」

「君の侍女から話は聞いた。シャリーには念の為私の護衛を付けておいたんだが、どうやら姿隠しのギフト持ちがいたらしく、見逃してしまったんだ。ただ、急いで過去視のギフトを持つ者を使ったおかげでシャリーの足取りが掴めた。

捕まっている他の女性たちは護衛に任せている。・・・・・シャリーが居なくなったと聞いた時は心臓が止まるかと思った。本当に、良かった・・・・」


 そう言って再びギュッと抱きしめられる。ちらりと見えたアリオス様の目元は赤くなっていた。

 それだけ、私が心配をさせたということだ。


「ーーーーはい。心配をおかけしてごめんなさい、アリオス様。そして助けに来て下さってありがとうございます」


 私もアリオス様をぎゅっと抱きしめ返す。


 アリオス様の温もりに包まれると、安心感から思わず涙が溢れる。


「ご、ごめんなさいっ! アリオス様の服に涙がっ」

「気にしなくていい。今は我慢せず、満足するまでまで泣くと良い」


 そう言って頭を撫でられる。


「ふっうっ・・・・うう、うわああんアリオス様あぁーー!! ううっぐすっ・・・・・」


 アリオス様の優しさについに涙腺が崩壊してしまった。そのまましばらく、私は声を上げて泣き続けた。


「落ち着いたか?」

「はい・・・・おかげさまで。ーーー申し訳ありません。次期王妃ともあろうものがこんな騒ぎを起こして、こんなはしたなく泣いて・・・・婚約者失格ですよね・・・・」

「いや、良いんだ。シャリーのそういうお転婆なところも含めて私は好きなんだ。シャリーはそのまま私のそばにいてくれ」

「ーーーはい。嬉しいです」


『あぁシャリーはとても柔らかいな・・・・これは・・・我慢できるだろうか。自信がなくなってきた』


 ちょちょちょアリオス様!? そこは我慢してくださいッ!!


 思わず聞こえてきた心の声に、私はバッとアリオス様から離れた。

 今日は色々あって上手く制御ができないせいか、アリオス様の心の声が聞こえてきてしまう。


「? どうした?」

「な、なんでもありませんっ!」


 真っ赤になりながら答えた私はしかし、そのあとすぐにまたアリオス様に抱きしめられてしまうのだった。







 ーーーその後、いろいろとやらかしていたことが発覚したゴルバ男爵は捕まり、今は監獄に入れられている。非道なことを行ったとして、後日、処刑が実行されるようだ。



 それから数年後。私はアリオス様と結婚し、すぐに男の子を授かった。その1年後には女の子、3年後には男の子と女の子の双子を授かった。


 今、お腹の中には赤ちゃんがいる。


 こんなに立て続けに身籠っているのはアリオス様のおかげね・・・・・

 

 まあずっと昔からアリオス様について(いろんな意味で)知ってる私としては、全然驚かないけれど。




ーーーーーーー


「リオ。私はリオについて昔からなんでも知ってるわよね?」

「? そうなのか?」

「そうなのよ。あのねーーーー」


「ッ!?」

「ふふっおどろいた?」

「お前というやつは、まったく・・・・私はこれからもお前に振り回されるんだろうな」

「あら、嫌?」

「いや、嫌じゃない」

「ふふっなら良いじゃないーーーあら、今この子がお腹を蹴ったわ」

「どれーーーお、ほんとだな」

「どんな子かしら。楽しみね」

「ああ。ーーーそうだな」


ーーーーーーー



 Fin.







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