第30話

 十回裏。

 先頭打者をヒットで出塁させてしまってから、左打席に荒木あらき航平こうへいを迎える。

 さっきはインコースの真っすぐで詰まらせたが、結果的には適時打タイムリーを許した。この打者を、どうやって抑える。

 氷見ひやみさんのサインは、外のボールゾーンへの真っすぐ。

 俺は、ほぼその通りに投げる。荒木は手を出さなかったが、「それでいい」と言うように氷見さんはうなずきながら返球する。

 二球目。ゾーンへのチェンジアップ。荒木はスイングするようなそぶりを見せるが、タイミングが合わず見送る。球審の手が挙がって、一ボール一ストライク。

 三球目は、左打者の外からゾーンに入ってくる軌道のカーブ。これにも手を出してこず、追い込んだ。

 四球目はインコースの真っすぐ。しかし、外れてボール。

 二ボール二ストライク。

 追い込まれて、荒木はバットを短く持っている。一年相手に、そこまでプライドを捨てられるか。ほんと、厄介な打者だ。だけど。

 だからこそ、当てられなくボールもあるだろ。

 五球目。外のくさいところに真っすぐを投げたが、ぎりぎりのところで当てられてファウル。

 変化球も意識したスイングなのがわかる。

 六球目。少しサインが合わない。俺は二度、首を横に振った。

 とはいえ、俺の球種は真っすぐとカーブとチェンジアップの三つしかない。サインは、すぐに決まる。

 選んだのはチェンジアップ。ただ、俺はいつもと少しだけ抜き方を変える。

 いままで投げていたチェンジアップと同じように、俺が投げたボールはゾーンに向かう。荒木は少しタイミングを外されたように体勢を崩す。だが足は残っている。タイミングを完全には外せていない。しかし、もうスイングは止まらない。

 途中までゾーンに向かっていたボール。それが、ゾーンの外にすべるように変化していく。左打者からは、逃げるように。短く持ったバットでは届かない。

 空振り三振。

 俺はきっちりとさっきの借りを返し、拳を握りしめる。


 後続も抑えてベンチに戻ると、氷見さんが不機嫌そうに話しかけてきた。

「おい、大森おおもり。さっきのはなんだ」

「?」

 俺は首を傾げる。

「荒木を打ち取ったボールだ」

「へ? いや、ええと、チェンジアップですけど」

 サイン通りですよね? と目で主張する。しかし、眉根を寄せる氷見さん。なにが不満なのか、本当にわからない。

「はあ? 外に変化しただろ」

「それは、そうですね。そういう抜き方をして、そういう回転をかけたので」

「お前、二種類のチェンジアップを投げ分けられるのか?」

「いえ、投げ分けってほどでは……」

 投げ分けというと、例えば、カット気味のボールと左打者の外に逃げるボールがある向井むかいさんのスライダーのようなイメージだ。俺のチェンジアップはあの領域にはまったく届いていない。

「一球一球キレが良いときと悪いときがあるのと似たようなものです。その延長線上で、微妙に使い分けているだけで」

「……」

 氷見さんは数秒間黙り込む。いや、そんなに変なことを言ったつもりはないんだが。

 やがて口を開く。

「カーブもそんなふうにできるのか?」

「まあ、回転を強めにかけて、落ち方を多少変えたりとかはできますけど」

 むしろ、チェンジアップよりもカーブのほうがそういう微妙な調整はできる。

「わかった。勝ったら少し付き合え。いろいろと受けてみたい」

「わ、わかりました」

 勝ったら、か。俺は顔を下に向けにやりとした。


 ※※※


 向井むかい当真とうまは、試合を見つめる。

 レベルの高い投げ合いだった。両者七回からの登板。

 十一回表。二死三塁と福岡南ふくおかみなみは勝ち越しのチャンスを得たが、先程適時打を放った小南こなみ剛広たかひろを、松原まつばら純平じゅんぺいが三振に切って得点を許さず。その裏を、大森おおもり寿々春すずはるは三者凡退で切って取る。十二回は純平も寿々春も三者凡退で終わらせ、ついに試合は十三回に突入する。

 たった一点が試合の勝敗を左右するこの状況。最も重責を背負っているのは、マウンドに立つ二人の一年生。

 いいな、あいつら。

 当真が抱えていた感情は羨望だった。あるいは諦念。

 持ってないよなあ、俺。

 攣った足を少し持ち上げてみると、ふくらはぎの辺りがぴくぴくと痙攣する。はは、と自嘲の笑みがこぼれる。

 やっぱり主人公は、俺じゃなかった。


 吉田よしだ暁人あきとが他界した。その知らせは当真にとっても衝撃が大きかった。暁人とは、当真が中学二年の頃からバッテリーを組んでおり、同世代の捕手と比べてもその実力は抜きんでていた。当真の現在の投球に対する価値観は、暁人の影響を色濃く受けている。高校でも同じチームでプレーすることを、当真は強く待ち望んでいた。しかしそれは叶わなかった。そしてその年の夏、また後輩がひとり野球部からいなくなったことも当真の耳に入ってきていた。大森寿々春。二つ学年が違ったため一緒に汗を流した期間は短かったが、印象に残る後輩だった。天性としか思えない純度の高いストレートには憧れさえ抱いた。そして自分で考えながら練習に取り組む姿勢。あいつは正しい努力の仕方を知っている。当真は寿々春を高く評価していた。あれだけ野球に熱中していた寿々春が野球部をやめるなんて当真にとっては意外で、そして残念だったが、暁人の死がそれほどショックだったのだろうと勝手に想像していた。

 しかしその想像はまるで正解とはかけ離れていた。当真が真実を知ったのは、いわば偶然だ。

 高校二年の夏のある日、当真は気まぐれで暁人の墓を訪れた。そのときに出くわしたのが暁人の妹である吉田よしだかえでだ。余談だが、「妹が入学した」という話を暁人から聞いた際、面白半分に顔を拝みに行ったために当真は楓と顔見知りになっていた。楓も当真のことを覚えており、「野球部では兄が嫌われていたみたいです」と打ち明けられた。

「それで、大森くんだけかばってくれたんですけど、彼は野球をやめてしまって」

 楓は寂しげに笑う。

「聞いてもらってありがとうございます。すみません、向井先輩に話しても仕方がないのに、こんな話しちゃって」

「いや……」当真は、なにも言えなかった。いつもならいくらでも軽口が出てくるのに、なにも言えなかった。

 かろうじて出てきたのが、「暁人はいいやつだった」という言葉だった。

「悪く言われるようなやつじゃない」

 楓はやはり、寂しそうに微笑んだ。

「ありがとうございます。向井先輩とお話しできて良かったです」


 そして高校三年の春。仮入部期間中からずっと野球部の練習に参加していた河野こうの大遥たいようから、寿々春が福岡南高校にいるという情報を得た。しかし野球をする気はないのだという。実際に見て探ってみようと思った。本当に野球に戻ってくる可能性はないのかと。

 すぐ翌日に寿々春のクラスの教室を訪れ、直に会話を交わしてみて、当真は寿々春の中にまだ燻っている感情があると確信した。それはきっと、野球をやめて以来、熾火のように寿々春の中にずっと残っているはずの感情だ。

 無理やり野球部の練習に引っ張り出し、投球ピッチングをさせた。

 相変わらずだった。当真が密かに憧れた純度一〇〇パーセントのストレートは健在だった。

 マウンド上で精神的な弱さを露呈させることこそあるが、寿々春の能力を当真は疑っていなかった。本領を発揮したときの寿々春の投球を見るといつも、「俺、こんな投手になりたかったんだよなあ」と思ってしまう。

 でも、俺だって負けちゃいない。俺が、このチームを甲子園に連れていく。

 その覚悟で今日の大一番のマウンドに上がったのだが……足を攣って降板というつまらない結末。本当に持っていない。

 俺がいるのは、やっぱり応援席だったらしい。

 マウンドに立つ寿々春を見る。

 一年の最初の夏の大会から、こんな緊迫した場面で登板して、同い年のライバルと投げ合って。

 すげえよ、お前。

 自分を卑下なんかしなくていい。これまでずっと、いや、今もかもしれない。迷っただろう。間違えただろう。でもお前は、また野球を始めてから一度も思考を止めなかったはずだ。ずっと歩き続けてきた。体力も追いついてないくせに、体を引きずりながら全力をやめなかった。

 この舞台はすべて、お前のためのものだ。お前が中心だ。

 見せてやれよ。

 お前が、そこにいるということを(『BUMP OF CHICKEN: Stage of the ground』より引用)。


 ※※※


 スコアは四対四のまま、十三回裏に入った。

 先頭は、三番の荒木航平。

 続く四番の東野ひがしのも強打者だし、勝負に行った方がいい。このときの俺の思考は、そんな感じだった。しかし、一点を奪われれば負けの状況。もっと石橋を叩くべきだった。どんなに苦労しても最終的に点を与えなければそれでいい。ならば、くさいところをついて、最悪歩かせてもよかった。

 初球。俺と氷見さんのバッテリーは、インコースを突いた。とはいえ、決して甘いボールじゃなかった。むしろ、見逃していればボールだっただろう。

 実際、俺は荒木が見逃したと思った。だけど、見逃すと判断した瞬間、バットが出てきた。腰を回転させ、腕をたたんで、振り遅れることなくバットの芯にボールを衝突させる。

 快音が響いた瞬間、ぞくりとした。

 打球の勢い。

 角度。

 やばい。

 頭の芯の部分がすうっと冷えた。

 打球が伸びていく。右翼手ライト布谷ぬのたにさんが下がっていく。打球の勢いはまだ衰えない。

 まだ伸びていく。

 最悪の予感。しかし。

 ガシャン! という音。

 打球がフェンスに激突した音だ。スタンドには入っていない。しかし。

聡太そうたっ! 急げ!」

 そのだれかの声に俺ははっとする。慌ててベースカバーに向かう。

 追ってきた布谷さんをあざ笑うように、フェンスで跳ね返った打球はあらぬ方向に転がっていく。

「三つだ!」

 ようやく布谷さんがボールを拾ったときには、すでに荒木は二塁を蹴る。

 送球は間に合わない。荒木が三塁に滑り込む。

 その瞬間、間近に音が戻ってきた。

 わああああ‼ っという大歓声。そして。

「っしゃあっ‼」

「ナイス、航平‼」

 三塁側ベンチの西国にしこく選手がベンチから飛び出して拳を突き上げている。

 冷汗がぶわっと吹き出す。

 いやな汗だ。いままで汗なんて全然気にならなかったのに、アンダーシャツが張り付くのがとても鬱陶しく感じる。

 無死三塁。一度タイムをとる。伝令の向井さんが出てくる。俺と氷見さんを中心として、内野陣が集まる。

 向井さんが言った。

「満塁策かこのままで勝負か、お前らが決めろってさ」

 え。

 内心で俺は唖然とした。

 だよな、と飛高ひだかさんが苦笑する。つられて平井ひらいさんが笑った。

「相変わらずだなー。自主性に任せてくるのは」

 どうやらいつものことらしい。

 ちょうど四番、五番だし、守りやすさを考えれば満塁にするべきだろう。一点を取られれば終わり。走者を何人ためようが関係ない。無失点で終われなければ全部一緒だ。

 氷見さんが一瞬俺をちらりと見る。そして、小南と田中たなかさんに向かって言う。

「悪い。三年で決めていいか?」

 そう言われては、二人ともうなずくしかない。いちおう俺もうなずいておく。

 それを見て、氷見さんは言った。

「俺はこのまま勝負でいいと思う」

 飛高さんと平井さんもうなずく。

「俺も同意見だ」

「俺も」

 氷見さんは向井さんを見る。

「当真は?」

「いや」

 先程の氷見さんと同じように一度俺に視線を向けて、向井さんは笑ってかぶりを振る。

「俺はもう下がってるからな。試合に出てるお前らが決めるべきだ」

「よし。じゃあ、このまま勝負に行く。内野は前に出て来いよ」

 いくつか氷見さんが指示をした後、輪が解ける。

 いまの三年生たちの判断が、俺を考えてのことだったのは、俺だってわかっているつもりだ。

 点を取られた時点で終わりのこの状況において、無死三塁よりも無死満塁のほうが間違いなく守りやすい。ただ、それはある前提の上に成り立つ。満塁にすることのデメリットがひとつだけある。

 それは、押し出しの可能性。

 その打者で必ず勝負しなければならないというのは、俺に大きいプレッシャーがかかる。もっと俺が頼りになる存在であれば違ったんだろうが、この試合も前の試合もやらかしている俺にそんな信頼があるはずもない。

 最悪歩かせてオッケー。くさいところを攻めて、カウントが良くなれば勝負、という気持ちで行くべきなのだろう。

 相対するのは、四番の東野。

 春の地方大会を制した西国の四番は、伊達じゃない。

 くさいところを突いていく。

 しかし、追い込まれているのならばともかく、浅いカウントでは打ちに来てくれない。

 結果、四球。

 だけど、完全に逃げたつもりはない。結果的に四球になっただけで、あくまで予想の範疇だ。

 無死一、三塁。

 当然内野は前進守備のまま。

 大丈夫。

 まだ一つ塁は空いている。勝手に自分を追い込む必要はない。打者心理で言えば、ここは投手を助けたくない場面のはず。言い換えれば、ボール球には手を出したくない。低めのボールには手が出しづらい。

 高ささえ間違えなければ。

 モーションに入る。体重を後ろから前に移し、いよいよリリースという瞬間、「んっ」と声が漏れる。ひざ元の真っすぐ。

 ガチッと鈍い音が鳴った。完全に詰まらせた。

 だけど、これは――。

 その結末が脳裏をよぎる。

 いや、きっとなんとかしてくれる。

 予感を振り払うように俺はその名前を呼んだ。

「小南っ!」

 打球は前進守備の二遊間に飛ぶ。

 振り返るとき、三塁走者の荒木が突っ込むのが目に入る。

 小南は捕球する。そして、一瞬で右手に持ち替えている。ここまでは完璧。あとはホームに。間に合うか? でも、間に合わせるしかない。

 一瞬の間に思考が駆け巡る。

 小南が顔を上げたところから、三塁走者を視界に捉えているのがわかった。

 バックホーム。

 小南は間違いなくその動作に移ろうとしていた。

 だけど――。

 その動作を無理矢理小南は止める。

「えっ」

 そんな音が口から漏れた。

 だれもが凍り付く。

 そして小南は訳がわからなくなったかのように、送球した。

 ――一塁ファーストへと。


 なにが起きたのかまったくわからなかった。でも、徐々に理解する。生還した荒木がホームベースのまわりで仲間と抱き合っている。氷見さんは唇をかみしめて目を閉じ、空を見上げている。小南は帽子を深くかぶり、膝に手をつき顔を上げようとしない。飛高さんは必死に感情を押さえながら、崩れ落ちた平井さんの腕をとり、立ち上がらせようとする。そして、ベンチでは向井さんや中野なかのさんが整列のために走り出している。

 そうか。

 頭では理解していた。でも、心が追いついていなかった。

 ――負けたんだ。

 小南の真意はわからない。でも、ホームに投げたところでもう間に合わなかったんだろう。それなら、小南のあの挙動も納得できる気がした。

 小南は、負けを認めたくなかったのだ。でも、あいつはすごいやつだから、だれよりも先に結末が見えてしまった。一秒先の未来が見えたのだ。それを受け入れられなくて、葛藤が生まれた。だから、迷いを見せた。

 そういうことなのだろう。

 放心したまま、整列する。

 純平に、「ナイスゲームだった」とだけ声をかけられたのは覚えている。その称賛に対して、俺がなんと返したのかは覚えていない。茫然としたまま、ベンチに戻る。

「早く荷物を出せ!」

 気丈にも飛高さんが声を張り上げる。

 相変わらず大きな声だ。でも、少し震えている。

 俺が点を取られなければ。

 皆、笑顔のはずだった。

 向井さんにも、もう一度マウンドに上がる機会があるはずだった。

 結局、俺は足を引っ張ることしかできなかった。

 小南の様子を窺ったが、帽子を目深にかぶって表情はわからない。わざわざ小南を窺った自分に嫌気がさした。

 タオルなどを雑にバッグに詰め込んでいると不意に、ドン、と背中に衝撃があった。

「よく投げた」

 振り向くと、背番号一が遠ざかっていくところだった。

 涙がこぼれそうになるのを必死にこらえる。俺は最後まで足を引っ張っただけだ。慰めの言葉をかけてもらう権利なんて、これっぽっちも持っていない。

 俺も帽子を深くかぶる。

 先輩たちがうなだれて、涙を流す姿を見ていられなかった。ただの現実逃避だが、俺は自分にその光景を受け止めることができるとは思えなかった。下を向き、前を歩くだれかの足だけを見たまま通路を進んでいくといつの間にか球場の外に出ていた。

 もうほぼ全員集まっているらしい。

 俺は下を向いたままその輪のいちばん外に加わる。

 すると俺が来たのに気づいたようで、目の前にいた人物のつま先がこちらを向いた。

「大森」

 声で分かった。飛高さんだ。

「お前、なに泣いてんだよ。まだ、お前には次があるだろう?」

 やはり、声が震えている。視界がさらにぼやけた。

 俺は顔を上げなかった。声の震えを押さえるように意識する。

「すみませんでした。先輩たちの、最後の試合に……」

 拳を握り締める。

「だれが気にすることでもない」と飛高さんは言った。「俺たちの努力が報われなかったんじゃない。相手の努力が報われただけだ。だから、泣くな」

 もう俺は返事をしなかった。

 だって、飛高さんの言葉はまるで的外れだったから。俺は帽子をかぶってうつむいている。飛高さんみたいに背の高いでかいひとからは、なおさら俺の表情なんて見えやしないだろう。

 そもそもだ。

 三年生たちのほうが泣きたいはずなのに、負けた原因である俺が泣くなんていくらなんでも寒すぎる。

 泣き落としとなにも変わらない。俺には許されるつもりなんて微塵もないのだから、泣くはずがない。

 以前読んだ冒険ものの小説に出てきた、一人の女の子を救うために、仲間をも巻き込んで世界を敵に回す主人公。彼は女の子を守るために傷つく仲間を見て、あろうことか、「ごめん、僕のせいだ」などとのたまい、罪悪感にさいなまれていた。

 いま俺が罪悪感を感じるのは、その善人ぶった主人公と同じだ。

 懺悔を口に出すくらいなら、俺は自分からマウンドを降りるべきだった。態度に示しさえすれば、そうすることもできたのだから。

 だから、俺は泣いてない。

 ほかのだれが泣いたとしても、俺だけは泣いてはいけない。

 飛高さんが言ったのは見当違い。帽子を深くかぶる俺を見て、勘違いしているだけだろう。

 それに、小学生時代のソフトボールの監督にも教わった。男が泣いていいのは、親が死んだときだけだと。

 だから、俺は泣いていない。


 三年生たちの夏が終わった。

 福岡県予選準々決勝。福岡南4―5×西国大附属。

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