アルファオメガ・ゲーム
@Iwa_on_1000
1話 Invitation【招待状】
神は……決して人を救ったりはしない。
この宇宙のどこかを彷徨う…あるいは宇宙すら超越した存在かもしれぬ彼は、すべての制約から解き放たれている。
悪くいえば、我儘に生きている存在がなぜ人類を善意から助けたりするだろうか。
この世はまさにゲーム……人間が苦しみ、足掻き、喜び、死んで、悟る。
人を神が弄ぶ。それが世界だ。
『さぁ、始めよう……世界を賭けた———ゲームを。』
————※————
耳にタコができるほど聴き慣れたチャイムが鳴る。
聴き慣れたとはいえ、そのチャイムは学生にとって休戦を告げるもの。喜ばしいと思いこそすれ、煩雑に思う者などいないだろう。
するとドタドタと音を立てながら、『バカ』が向かってきた。
「逃げんなよ速人!!」
「……」
「無視すんな!!」
この動物みたいな男にも名前はある。
森谷威(もりたに たける)———腐れ縁の、自称 俺のライバル。
そしてコイツが俺に逃げるなと言い放った案件についても、俺は知っている。
「俺が逃げるわけないだろうが。行こうぜ…ゲーセン。」
「今日こそボッコボコにしてや
『ちょっと威!?』
煩雑な声パート2。その声はパート1の男に「げっ」と声を出させるまでに鬱陶しい。
「葉夕…補修ならいかねーぞ?俺は忙しいんだ!!」
「何が『忙しい』よ。ゲームするってたった今言ってたじゃないの!」
「ゲームは用事だろ。何言ってんだお前。」
「うっさいわね!屁理屈言わず、一緒に補修行くわよ!!」
「痛たたた!!痛い痛い!!」
不毛な言い争いをするバカ2人は俺の目の前からいなくなり、平穏は取り戻された。
「『一緒に』…か。全く、恥ずかしい妹だ。」
威を耳を引っ張りながら連行していったセミロングの金髪を持つ彼女は天極葉夕(あまぎわ はゆ)、俺の双子の妹。
双子といっても二卵性ゆえに顔はそこまで似ていない。むしろ、あのアホと一緒にされるのも困る。
流石に試験がオール一桁の威には及ばないが、あんな女でもクラス委員長をやれているのだから驚くものだ。
荷物も纏めたことだし、用もないので帰ろうか…俺は通学カバンを持ち教室をそそくさと後にした。
そして下駄箱まで辿り着き、靴に手を伸ばそうとした……その時。
華奢な手が俺の手とぶつかる。
「あ、速人くん……」
「あぁ———結女か。」
〜〜〜〜〜
6尺2寸の男と5尺4寸の女が並列して歩く。
嫉妬心の塊のような人種の方々にはこれがカップルの下校などと妄想されるかもしれないが、そんなことは決してない。
「それでね———」
「ああ…うん。」
ぶっきらぼうな返事にとどめている俺を見れば、そうでないことはよくわかるだろう。
一応紹介しておこう。
宮地結女(みやち ゆめ)———第一印象はまさしく女性という名の
具体的に述べるなら、目の覚めるような抜群のスタイル、胸まであるサラサラの黒い長髪に、淑やかな雰囲気とそれに違わぬ朗らかな性格……
さて、これで魅了されないのは男性でもごく僅かだろう。
だが俺はそうではない。
「……」
「またそのコイン見てるの?」
「あぁ……これは父さんの形見だからな。」
この古代ローマの男性が描かれたコインは父の持ち物。
父の不慮の死を遂げた後に母は突如失踪した……このコインは、まだ俺たちが二足歩行を始めた頃に母が渡した形見————というのは表向きの話だ。
俺には断片的だが記憶がある———父が何者かに惨殺される様を。
これは葉夕にはない記憶だし、その真偽は俺にもわからない……しかし俺は確信している。
全ては母が———俺たちを捨てた母が、全ての秘密を握っている。
「母さん、貴方は今どこに———」
そんな独り言を呟く俺に、結女は首を傾けて尋ねる。
「速人くん、今日はいっぱい喋りますね。」
「そうか?」
「うん。いつもはもっと黙ってるのに…何かいいことでもあった?」
「……さぁ。」
「さて何かなぁ……今日の私たちのご飯は好物の海鮮料理とか?」
もう気づいたかもしれないが、言及しておこう———俺と葉夕、結女は自宅が同じ。いわゆるシェアハウスというやつだ。
これも彼女を意識しない理由であり、なぜそのような状況に置かれているかがわからない———謎の1つでもある。
そうこうしているうちに家に着いた。俺は早速その扉に手にかける……その時。
「ちょっと待てー!!!!」
「「!!!」」
猪突猛進、疾風迅雷の如し。
土煙を上げながらやってきたは、世界一の愛すべきバカ 森谷威———本来はここにいてはいけない人間である。
「ふぅ……脱出成功ぅ!」
「お前——あとで葉夕にしばかれても知らんぞ。」
「でぇじょうぶ、でぇじょうぶ。」
「絶対大丈夫じゃないだろ…」
言い忘れていたが、このバカもまた俺のルームメイトというやつだ。だからこそ奴が俺をライバルとしているのだ。
このあとの展開を想像すると頭が痛い。また騒々しい犬猿の対決を見ないといけないのだからな。そうなる前に早々に自室に籠るとするか。
そう思考を巡らせていると、威があることに気づく。
「速人、手紙入ってるぞ。」
「手紙?」
威はポストから取り出した封筒を、雑に手渡してきた。
その手紙の差出人は……
「天極星一……
「お祖父さんが?」
「あぁ。」
俺を含め、ほとんどの人は会ったことのないであろう俺の祖父。
俺たち4人がこうして生きているのも、資産家と言われている祖父のおかげだ。そのおかげで俺たちは大抵の欲求は叶っているはずだ。
しかし面識はない。会おうと思ってもどこにいるか、何をしているか…素性が一切わからない。
ただ1人を除いては。
「じゃあお姉ちゃん宛かな?」
「多分そうなんじゃね?」
「お前の多分は信用ならんが……」
適当な威の言葉だが、今回に限り正解だ。
宮地恵未(めぐみ)———結女の一回り年上の姉さん。実質俺たちの親代わり。
その美貌は結女に匹敵。母性がある分、上回っているかもしれない。
だがいつもそんな郵送などではなかったはずだ……そう考えていると、結女は俺の前にせがむように手を出す。
「多分生活についての云々だろうし、お姉ちゃんに渡しておきますね?」
「ああ…」
いつもより強引な結女。
しかし、拒否るほど大事でないこの手紙。渡してしまう方が事を荒立てないだろう。
『その必要はない』
俺たちの前に現れたフード付きの赤いローブに白い仮面の男……風貌といい、ボイスチェンジャーで変えた声といい、その姿は明らかに異様だ。
『その封筒はこの場で開けたまえ。』
「え?——ああ…」
「!?」
結女の困惑と驚きを振り切って、俺はその封筒を開封する……と、一枚のカードが落ちる。
落ちたカードを威は拾い上げる。
「何だこれ?」
『それはシリウスカード。その封筒にあと2枚入っているはずだ。』
「あ、ああ……」
封筒を探ると、確かに青白いカードが2枚ほど、威のモノを入れて3枚ある。
そのカードはまさにシリウスの如く青白く輝く、この世のものとは思えないカードだ。
カードを取り出したのを確認した謎の男は高らかに宣言する。
『では参ろう……聖域へと。』
パン!と指パッチンをした瞬間————視界が黒くなった。
正確にすると、黒で満たされた虚無の空間へと転移したと言うべきか。
「ここは……?」
「ようこそ、神域オメヨカンへ。」
「「!?!?」」
虚空から突如として現れた声に、注目を集める俺たち3人。
現れたのは黄土色のスーツに蝶ネクタイをした美男……彼は慇懃に自己紹介を始める。
「私はゲームプロデューサー メジェム。そして君たちを案内したナビゲーターのジブールだ。」
「ゲームだと…?」
俺が怪訝な顔をすると、メジェムと名乗るその男は慇懃無礼にも不敵な笑みで返す。
「君たちには我々が主催するゲーム……『アルファオメガゲーム』に参加してもらう!!」
「あるかおめーがゲーム?」
「「「「………」」」」
英語に不慣れなお年寄りたちもびっくりな聞き間違いをする威が、空気を一気に白けさせる。
しばらくの静粛が続いたあと、メジェムがその詳細を語り始める。
「そのシリウスカードは、神の遺伝子を引き継ぐ存在が適齢期に達した事を示すモノ……そして。」
軽やかな指パッチンが鳴り響く……すると、妙な感覚が俺、そして威を襲った。
その妙な高揚感はすぐに収まったが、すぐに手に何か持っていることに気づく。
「これは…」
「うおおおお!!鎌じゃん!!」
威のシリウスカードは大きな鎌…それこそデスサイス、死神の鎌のようなそれ。重そうに見えるが、威はクルクルと回したりと、自在に動かせている。
一方の俺は、金で装飾された両刃の剣……そして。
「三鈷……これどうやって
「神器は使ってみればわかる。」
俺が聞こうとした疑問は言い切る前にメジェムがシャットアウトする。
確かにそれはそうだ———俺はメジェムに尋ねる。
「神の遺伝子ってどういう事だ?俺たちは何をするんだ?」
「アルファオメガゲームはこの世界の終焉と創造を行う主神を決める———その参加権は神の遺伝子を持つ者。」
「終焉だと…?」
「あぁ、この世界はもうすぐ滅亡する———地球の文明を続けるには新たな地上に君臨する現人神が必要……いわばこのゲームはその玉座をかけたパワーゲームというわけさ。」
「「………」」
字面だけをみればどうも胡散臭い話だが……手に持つ武器がその信憑性を高めている。
そして何より、嘘だと思考するのを拒絶させるような空気感……それこそ神によって導かれるようなそれ。
俺は———
「何だか勝手に話が進んでますけど、本当に参加しなきゃいけないんですか?」
「結女……!」
少し不満げな結女にメジェムは煽るように即答する。
「当然。むしろこれまで君たちを守ってきたのは他でもない、このため……我々の保護なしで生きてはいなかったというのに。」
「何だと…どういう事だよそれ!!」
恩着せがましい発言に腹を立てたのか、語気を強めて問い詰める威。
プロデューサー メジェムはそれにも動じず、問いに答える。
「そのままの意味だ。君たちは現主神に就いている男に狙われている……我々は神の思し召しで、君たちを守ってきたんだ。」
「……!」
「神の遺伝子はあれど、年齢が理由で参加できない者を殺害するのは御法度。しかし、それも今日までだ……これから君たちにその刺客が襲い来るだろう。」
刺客…現主神の男……神の遺伝子。
何となく話の内容がつかめてきた。だが疑問はまだ山ほどある。
なぜ俺と威なのか…俺たちは———
「さて、今回はこれまで。」
「!!——ちょっと待て、まだ聞きたい事が
「我々がその質問に自ら答えることはない。」
「……!!」
「では…ご機嫌よう。」
パチン!!
暗黒の世界から……俺たちは追放された。
〜〜〜〜
αΩゲームルール
16歳を迎えた神の子らはゲームへの参加権を得る。
参加すれば、もう後戻りはできない。
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