第4話課外授業ー②

「あれは、セレム・ネレさんで間違いないでしょうか?」


 こちらに気づいた彼女は、ゆっくりと息を整えながら近づいてくる。鼻先まで来たところで乱れた髪をかきあげる。整ったヨーロッパ美人のような顔からは想像できない、血生臭い臭いが鼻を突く。


「初めまして……セレム・ネレです」しゃがれた静かな声で挨拶をする。

「よろしくお願いします……」


 期待していたのは、美人であり、鬼人ではないため少し肩を落としながら挨拶をする。正確に言えば美人であり鬼人である。


「これ……どうぞ」


 手には少し焦げた肉のようなものがある。


「楽しみにしてた……から、皆に協力してもらって作った」

「ネレは優秀な模様付きだから、星物を使って色々なことができるの戦闘も日常のことも」


 エイダは、ネレの手の甲を見せ、静かに言う。


「それより、何でこんなに近いんですか?全然見えないんですけど」


 鼻先、そう鼻と鼻が当たるほどの近さで喋る。


「ネレは目が悪いの、だから戦闘中は星物の力を借りて日常は、眼鏡をかけて生活しているの」


 倒木に腰掛けたノレイが教えてくれる。


「ちょっと離れてもらえると、男的に嬉しいかも……」

「そう、ごめんなさい……」

「ピル―!」

『?』

「グルゥゥ」


 デミウサギの高い鳴き声に目を向ける。三人の輪から少し離れた位置にいるノレイ――俺たち、三人の死角から犬にしてはでかい体躯の化け物がノレイ目掛け襲い掛かる。


「ノレイ!」


 声が出るのより少し先体が座っているノレイ目掛け動き出す。


「ガタッ」


 倒木から重なって落ちる。


「大丈夫か!?ノレイ!」

「う、うん」

 

 体を起こし、ノレイの肩をつかみながら声をかける。少し体を震わせながら、困惑しながら頷く。


 この短いやり取り、その一瞬の隙に化け物は、縦半分に切り捨てられていた。エイダとデミウサギが心配そうに駆け寄ってくる。


「はじめ君動かないで」


 エイダは腰に付けたポーチから、応急処置用具を取り出し、背中の引っ搔き傷を治療する。


「ごめん私のせいでケガしちゃって……」

「私も年長なのに気を抜いてたわ。ごめんなさい」


  心配そうな声で謝る。


「ごめんなさい……守れなかった……」


  謝るエイダの後ろ側、仕事を全うできなかったこと、自分が居ながら仲間を危険にさらしたことを悔やむように血振りをしネレも謝る。


「ネレさん、それ木です」

「うん……でかいと思った……」

 

  *   *   *


  四人と一匹、帰路に就く。



 





 

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転移のハズレ値らしい俺が図々しく居座り世界を救う 他支店 @tasitenn

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