第2話初めてのお世話

 二、三日ほどニートをしながら情報を集めた。最初にいたサバンナのような場所は”本物”のサバンナではなく、バライ王国の最東端、に存在する。王立星物獣保護区おうりつせいぶつじゅうほごくらしい。


 そして、この世界には星獣の他にも星物せいぶつと呼ばれる星獣の加護を受けた動物もいるらしくこの施設は、そういった星物、星獣を保護するのが目的ということが分かった。


 他にも分かったことはあり、この施設の形は五角形でサバンナ地区から見て右回りに熱帯、温帯、冷帯、寒帯の五地区に分かれていて中央に円形の生活区がある。


 この広大な施設はあの貧乳女、ノレイだけでなく、他に二人――サファイアのような目、肩ほどの長い水色の髪を後ろでポニーテール縛りしたのが特徴的なトラム・エイダ、アメジストのような目に腰まで伸びた紫色の長髪が特徴のセレム・ネレの三人で管理しているらしい。


 そして俺は、高さは五十メートルから一メートルほどまで、まちまちな木があり、湿度が高い――そう熱帯で”化けウサギ”に餌やりをしている。


 化けウサギとはどういう事かというと、ウサギに比べ体が二倍程大きく、その体と同じサイズの耳を持ち、真っ赤な目をしたウサギのような物のことだ。


「いい子だからねー大丈夫だよー」

「ピル―ピル―」


 可愛い鳴き声だが、真っ赤な目が恐怖心を煽る。


「ガサッ」

「ヒィッ」


 間違いなく後ろからした音に目を向けると、水色の髪を持つ綺麗なお姉さんが立っていた。


「あら、あなたが役立たず転移者?」


 初対面でここまで言われると逆に自信が出てくる。それにしてもノレイにこんなことを言われては、発狂するだろうにお姉さんに言われると、どこか気持ちがいい。


「大丈夫?」


 さすがに、心配をしてくれているのだろう。こういう時は、遜れと教わったものだ、もちろんプライドなど疾うに捨てた俺には朝飯前だ。


「た、だずげてー」


 足にしがみつきながら助けを乞う。


「やり方を教わっていないなら仕方ないわ」


 あの野郎、何も教えずにこんな化け物の世話をさせようとしていたのか。


「デミウサギの餌やりはまず、餌を叩いて音を出してあげるの」


 デミウサギというのか、初めて知ったが少し安全になった今は、プライドが大事だ、当たり前に知った顔をする。


「やはりそうか、異様に発達した耳は<中略>というこどだな、はぁはぁ」


 早口で息を切らせながら、それっぽいことを言うと半分奪い取るように、人参のような果実を手に取る。


「ちょっとまt」

「ほーら、ほれ、こっちだぞー」

 

 話も聞かずに餌を動かしながら音を奏でる、ここまで完璧に出した音は、飯どころではなく寝てしまうのではないかと心配になったが、エイダは全く他のことを心配してるようだ


「どうしてそんな顔をしてるんですか?こうしてみると可愛いn」


 目の前の筋肉の塊は俺を、天敵だと勘違いしたのか顔めがけてダイブした。


「はぁ、」

 

 さっきまで優しく教えてくれていた彼女にこんなにも呆れられてしまうとさすがに傷つくが、顔面に張り付いたこいつをはがさなければ、言い訳もできない。


「ふが、はう、ああう、はふけれ」

「ちょっとお仕置きが必要ね」


  *   *   *


 冗談抜きで、一時間は放置されたし中央――生活区にもどってからは、この仕事は命懸けだと三時間以上説教された、あんなに優しそうなエイダは、思ったよりSっ気があるらしい。さすがに反省したが反省をより促すようにデミウサギの耳の痕はじんじん痛む。


 あの耳は、獲物や天敵の音を察知するだけではなく、攻撃にも使われるらしい。新たな学びだ心に留めておこう。こんなにも成長すると自分でも怖くなってくる。


 「じゃあ、反省したならご飯にしましょう。美味しいのができてるわよ、もちろん今日のご飯はあなたが世話した……」

「え?」

「デミウサギ、ではなく普通のウサギよ」


 さすがの俺も一緒に汗を流したデミウサギがご飯になっていては、泣いてしまうところだった。


 ここに来てからずっと、エイダはほかの保護区で世話を、ネレは外で星物の確保に向かっていたらしくノレイと二人っきりで食卓を囲んでいたため、三人での食事は初めてだ。


 実際はデミウサギか普通のウサギか一切わからない肉で出来たシチューを頬張りながら喋る。


「あのレベルなら、俺でも簡単に倒せるけどなぁ」


 横目にノレイを見ながらドヤ顔でいう。


「そうね、”あの”レベルならね」

「?」

「星物には等級が一級から五級まであって、最弱の五級がさっきのデミウサギとかになってるのよ」


 エイダは心配そうにこちらを眺めながら言う。


「そして一級の上にいるのが星獣なの」


 トパーズのような瞳を輝かせ、シチューを取りながらノレイは言う。


「だから、デミウサギと決死の戦いをしたとか言ってる君いや、お前は”最弱”」


 完全なヒエラルキーが今ここに完成した。


 

 

 

 



 


 



 



 

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