転移のハズレ値らしい俺が図々しく居座り世界を救う

他支店

第1話ハズレ値

 空気は乾燥し、肌を焼くように太陽が照り付ける。目に付くものに人工物はほとんどなく、所々木があるだけだ。恐らくここは、地球でいうところの、サバンナだろう。


 つい先ほどまでは、家でくつろいでいたのに気が付くとここにいた。これはもしかすると、異世界転移だとか転生だとか、そういう類のものかもしれない。


 きょろきょろとあたりを見渡すと六メートルほど離れた位置、こちらに手を振りながら小走りで近づく人物を見る。


「おーい大丈夫か―?」


 黄金色のボブヘアーにトパーズのような瞳を持つ、満面の笑みを浮かべた美しい少女は息を切らし、目の前で膝に手をつく。


「あのーここどこですか?」


 当然の疑問を投げかけると、俺を見た少女の顔からは笑顔が消え少し困惑、少し気まずそうにしながら言う。


「ちょっと間違えちゃったかなーハズレだこりゃ」


 おい、ちょっと待てハズレとは何だハズレとは、確かにThe日本人といった感じの黒髪黒目、百七十二センチ、二十一歳、大学三年生のモブみたいな見た目だが、ここまでストレートに言われると傷つくぞ。


「へ?あのー」

「めんどくさいことになってしまった」


 失礼だろ傷つくだろ、そんなことも考えてくれるほど優しい世界ではないみたいだ。


 この世界はもしかすると胸の大きさと優しさが比例するのかもしれないと、少女の小さな胸を見ながら考える。


「とりあえず説明するね、転移の儀式でここに来てもらったけど……」


 少女――ジェイミーノレイの話によると、このガガビレ大陸には星獣せいじゅうと呼ばれる十体の、獣がいるらしく、星獣一匹で山が五匹で国が十匹で世界が消えるとのことだ。


 しかし星獣は、ガガビレ大陸の北に存在するアゾ帝国、西に存在するザイミ王国、そして俺がいる、東のバライ王国で取り合い状態らしい。そして俺はその星獣を保護し人の争いに関わらせないことが仕事らしい。


 だが、まだ釈然としない何故俺は”ハズレ”などと言われなければならないのか。


「なぁ、ハズレってどういうことなんだ?」

「それが……」

「憐みの目を向けないでくれ」

「一部の才ある人は、生まれたとき手の甲に星獣の加護と呼ばれる模様があるの」


 ?、頭に疑問符を浮かる、確かに俺の手の甲には何もないが、運悪く才がなかっただけそこまで言われる筋合いはないだろ、と考えていると気まずそうに話す。


「歴史書によると転移してきた人は皆模様があって、しかもとても強力なの……」


 そうか、そうなのか、俺は全然申し訳ないなんて思ってないし、悲しんでもない。決して異世界無双ハーレムライフが始まるのでは?なんて考えて無かった。


「うぅ、目から汗が」

「何かごめん……ほら、元の世界の知識を使って役立つとかあるし、ね……」

「朝昼晩美味しい食事にふかふかのベットだ」

「へ?」


 今度は、ノレイが疑問符を頭に浮かべる。


「養ってもらうぞ」

「はぁぁぁーこんな役たたz」

「おっと、そんなこと言ってもいいのか、そもそも勝手に呼んだのはそっちだろ!これは義務だ!」

「うっ……」


 言葉を遮りこんなことを言うのも何だが、役立たずの俺がこの見ず知らずの世界で生きていくには、恥も外聞も捨て”図々しく”生きていかなければならない。自分より小さな女の弱みに付け込むなんて朝飯前だ。


 こうして、ハズレ値転移者てんいしゃ――加賀一かがはじめの異世界生活は幕を開ける。


 


 


 





 




 


 


 

 

 

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