第2話

北野葵きたのあおいが彼、吉田成よしだなるを認知したのは、高校1年生の秋、体育祭の時だ。

部活対抗リレーの時にやけに目立っている人がいるなあ、と思った。

その時は本当にこれだけだった。



初めて会話したのは、その年の12月。

私は体調が悪くて保健室で休んでいた。


「北野さん、先生今から職員会議だから、大丈夫そうなら戻ってね」


先生が保健室を出て数分後に、扉が開いた。

その時入ってきたのが吉田成だ。


「あれ、先生いないじゃん!消毒液とかどこあんだよー」


ブツブツと言いながら棚を漁る音が聞こえた。

しばらくベッドの上で横になっていたが「ない、ない」という彼に痺れを切らした私は声をかけた。


「消毒液なら先生の机の箱の中だよ」


私の声に吉田成は肩をビクリと跳ねさせた。

どうやら誰もいないと思っていたらしい。


「お、サンキュー!体育の時に思っきりすっ転んでさー」


ほら、と擦りむいた肘と膝を見せてきた。

そして少し困ったように笑いながら言ってきた。


「肘だけ、手当てしてくれない?」


突き出された擦りむいた肘を目の前に断ることもできず、手当をしてあげた。


「ありがとう、助かったよ北野さん!」

「私、名前言ったっけ?」

「あれ?確かに!でもなんか知ってたっぽい!」


満面の笑みを見せる彼に、私も「変なの」と笑みが溢れた。


「俺吉田成!ほんとありがと!じゃ!」


自分の名前を告げ、颯爽と保健室を飛び出していった。



もう少しで4限目の終わりを告げるチャイムが鳴る。





そしてその鐘は、私たち2人の関係が始まる合図でもあったのだ。

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