隣人〜その愛は本物ですか?〜
ライト
プロローグ
結婚を機に新築一戸建てを購入した
明日に引っ越しを控え、長らく暮らしてきたこの部屋ともお別れとなる最後の夜を迎えていた。
「これって有名な不倫の映画だよな?」
「ふふっ、そうよ。これを観て盛り上がってから引っ越しするのも悪くないでしょ?」
「雨上がりの砂地……。これって、どういう意味?」
「ヒント! 雨が降った後の砂地ってどうなる?」
浩司が考える事もなく答える。
「それは、水と砂が混ざって泥になる……だろ?」
「正解……。泥は泥でも泥々になるでしょ? その砂の泥々と、男と女の泥々を掛けてるのよ。──どう? 興味湧いてきた?」
浩司が薄く笑う。
「ははっ……う〜ん、興味ねぇ〜、微妙かな?」
「も〜。とにかく一緒に見よ」
綾音が浩司からパッケージを取ると、デッキにDVDをセットした。電気を落とした部屋に機械音が響き、テレビに映像が映し出される。
『『 ━━━━━━━━━━━━━━
── 雨上がりの砂地 ────
舞台は団地。
その団地の、向かい合わせに建つ棟に住んでいる、仲良し夫婦四人組の物語。
四人は自治会の会合で知り合い、偶然にも歳が同じだった事も重なって仲を深めていくのだが……。
「ねぇ、
「んん? 会ってないけど?」
「嘘よ! 私、知ってるのよ。隣の奥さんも見たって言ってるし!」
「ははっ、世の中には似た人が何人かいるらしいぞ? それは俺じゃないだろ?」
「そんな事ないもん! あれは絶対に
優が晴美を抱き寄せた。
「勘違いだろ。あまり深く考えない方がいい。今日は疲れたんじゃないか? 後は俺がやっとくから、もう寝ろよ」
「勘違い……そうなのかな? ──勘違いならいいんだけど……」
❑ ❑ ❑
それからも
「あら? この手紙、宛名が無いわね?」
「痛っ! な、何?」
指から血が大量に流れ出し、慌てて救急箱を取りに行った。大雑把に手当を済ませると、指が切れた封筒を逆さにして振ってみると、カッターナイフの刃がこぼれ落ちた。
「誰の仕業よ……。ん? 何か紙が入ってるわ」
痛い指を庇いながら、カッターナイフの刃と一緒に入っていた小さく折られた紙を広げてみると、『シネ』と切り抜き文字を貼られていた。
「う〜……絶対に
指の血が止まらないので病院へ行き、その日の晩に
「どうして? ちゃんと話を聞いてよ!」
「聞いてるさ……。確かに物騒だけど、犯人が
業を煮やした
「
「──
「そ、そんな事……」
「俺、知ってるんだ。
「び、病院! キーー!!」
❑ ❑ ❑
その後、病院に入院させられた
「
「御見舞ありがとね」
「いや、違うんだ。コレにサインしてほしい……」
「えっ?」
「俺はもう書いたから、
「そんな……嫌よ! なんで私が
「──もう疲れたよ。弁護士にも頼んであるから、後はそっちから連絡が入ると思う。じゃあな」
「ま、待って!!」
泣き崩れる
「ふふっ。
あの二人をこのまま幸せにする訳にはいかない……そう心に言い聞かせる
❑ ❑ ❑
病院を退院した
二人の新居の前に着いた晴美が呟く。
「そんなに幸せになりたいなら、私が天国に連れて行ってあげるわ……」
ピンポーン♪
『は〜い』
「すいませ〜ん、隣の者ですけど〜……」
『あ、はい。今開けますね〜』
インターホンから聞こえる
━━━━━━━━━━━━━━━ 』』
ここで映画は終了し、字幕スーパーが流れていく。
「どうだった?」
綾音が浩司に感想を訊くと。
「いや、怖いだろ! 泥々すぎるよ……」
浩司の感想を聞いた綾音が、浩司の腕に抱きつき、こう言葉する。
「私達はこうならないようにしましょうね?」
「いやいや、どっちの夫婦にもならないだろ。ああ〜、見るんじゃなかった……」
「女は何でも泥々が好きなのよ!」
「ほんとに? 人によるだろ? ──映画に付きやってやったんだから、今度は僕に付き合ってもらおうかな?」
浩司がそう言って綾音にキスし、胸に手を這わす。
「あん……この部屋でするのも、今日が最後ね。──んん!」
綾音の妖艶な声が、この部屋での最後の夜を彩っていく。
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