短編集
柊木蘭 (ひいらぎらん)
鏡
朝、電車に乗車するいつもの日常の中にも、一つ、癒やしが得られるなら、欲しいものだ。
今日、こんな事があった。いや、「会った」が正しいかもしれない。
中央線の上り電車に乗った。
七時前の電車に乗ったのが導いたのか、運良く座席に座れた。
それだけでも、私の中では、癒やしだ。
だが、それだけではない。
向かい合わせの席に女の子、女子高生だ。
テストが近いのか、教科書を眺めていた。その教科書のせいで、顔は隠れているが、私の直観力ではきっと、優美な顔立ちをしていると思う。
優美さを支える彼女の制服、これを私は、まず、似合ってるとか可愛いと思う前に、懐かしいと思ってしまった。
あぁ、あの時の私……向かい合わせの彼女が、私の高校生時代かの様に見えてしまう。
朝、鏡台に座り、寝癖を直してる自分を眺めている気分だった。
私は、自転車での通学だった為、電車でこの様な事をしながら学校を通うことが無かった。
けれど、向かい合わせの彼女は、今は私だ。
今、わたしはあの時、味わえなかった事をしている。
高校生時代の青春を味わっている。あぁ、癒やしになった。
次の駅への到着のアナウンスが聞こえた。
おっと、降りないと、ありがとう見知らぬ向かい合わせの女の子。教科書を手鏡のように見続けていなさい、頑張りなさい。
そう言いながら、ドアのガラスに映る自分の顔を見つめた。
もう、四十代後半、スカートなんてもう三十年も前。
あの子はもしかしたら、三十年後の自分を教科書という手鏡で見てたのかな?なんてね。
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