異世界転生したのでのんびりしてみる。

蓬 白亜

神様に出会う

 周りが少し騒がしい。誰かいるのか?


 寝ていた僕は自分の体を起こそうと力を入れようとする。


 ……おかしい。体が動かない。目は……どうやら開くみたいだ。


 左には先生?右には……母さんと父さんがいるではないか。どうしたんだ、そんなに悲しい顔をしてしまって。


 「奏!!お願い返事をして……お願いだから」


 母さんどうしたんだ?返事ぐらい、いくらでも返して……ってあれ?


 声がでない……いつもなら出せているのに。

 

 「先生!!奏は助かるんですよね?……なんとか言ってくれ!!」


 なにを父さんはそこまで怒っているのだ。心配しなくても……。


 「……ご両親の方々には申し訳ないが奏くんはもう助からない。こちらもできる限りのことは試し、頑張ってみたがもう方法が……」


 そっか、そっか……って、え?僕、死んじゃうの……嘘、だよね?


 喋ることはできないなか、両親と先生の会話を理解する事ぐらいできていた。


 まぁ、遅かれ早かれ僕の余命は短かった。いつ死んでもおかしくないと思うと死に対する恐怖も段々となくなっていく。


 自分の歳の若さから考えると短い人生なのかもしれない。小さい頃からこの病院で生まれ、このベットの上で過ごす。窓から見る同じ景色。できることと言えば本を読むか勉強するだけだ。一人で歩くと危険だからと病院の中でさえ散歩することもできない。


 いつも、病室のこの狭い空間で過ごしてきた僕にはわからない。外にはなにがあるのかを……。


 少しづつだって変化していく日常を過ごして長い人生を歩む人がいるなら、僕はなんの変化もない、いつもと変わらない場所で長い時間過ごしてきた。


 内心、正直もう疲れていた。このまま、ここにいるくらいなら死んでしまった方が楽だと思ったこともある……。


 だからといって僕を産んでくれた母さんや父さんを恨んではいない。こんな僕でもここまで支えてくれたのだから。


 でも、申し訳ないと思ってしまう。


 父さんと母さんは毎日のように僕に謝っていた。「丈夫な体で産んであげられなくてごめんなさい」と。


 こんなに僕のことを思ってくれている両親だ。僕が死んでしまったら、心の中に塞がらないほどの穴が空いてしまうのではないか心配である。


 最後の最後に今までのお礼を言いたいところだが、どう頑張っても声が出ない。


 同時に顔から少し冷たい何かが垂れてきたのに気付いた。僕は……泣いているのか。とても不思議に思う。死に恐怖する涙でなければ、いったい何が僕をそこまで。心の中で一つの感情が込み上げてきた。


 ああ、そうか悔しいんだ。


 そう、僕は今こんな体で生まれて何もできないまま死んでいくのが悔しい。死んでしまってもいいと思いながらも心のどこかでまだ生きていたいとそう強く願い、希望を持っていた。


 同学年と遊びってしたい。

 世界の広さをこの目で見たい。

 他にも、やりたいことなんて沢山ある。

 だがそれらも、僕の死をもって叶わぬ願いで終わってしまうのである。


 死ぬ前にもう一度だけでいい。ちゃんと、「ありがとう」を伝えたい。


 僕は涙を流しながらも、両親に伝わってほしいと最後の力で口を少しづつ動かす。それに父さんは気付いた。


 「おい……母さん。奏が口を動かして何か伝えようと……」


 僕は自分の力が尽きるまで何度でも繰り返す。

  

   「あ・り・が・と・う……」


 母さんが僕の口の動きに合わせて声に出してそう言った。よかった伝わってくれて。最後くらいは僕の前で笑っていてほしいから。


 微かにだが微笑んだ僕に、涙を流しながらも笑顔を見せてくれた。何も聞こえない。視界も段々と暗くなってくる。


 そして、僕は息を引き取った。


___________________________________________


 ……と、そう思っていた。僕はさっき暗闇に飲み込まれるようにして死んだはず……なのに、何故だろう目を閉じていてもわかるぐらい周りに光を感じる。


 もしかして奇跡的に助かる……はずもない。あのとき僕は確かに死んだんだ。だとすると僕が今、目を閉じながらでも感じているこの光は……。


 「奏殿。君はいつまで目を瞑っているのじゃ?」


 急に声が聞こえてきたことに驚き、僕は勢いよく目を見開いた。そこにいたのは、どこにでもいそうなお爺ちゃんである。杖を持って髭は……年齢の割には生えてそうなごく普通の。


 おかしいな。僕は死んだんだから夢なんて見ないはずなんだけど……。


 「さっきから黙って聞いとれば奏殿。お爺ちゃんだの夢なんではないかなどと色々と。死後の世界。これはリアルじゃよ」


 また、前にいるお爺ちゃんが喋った。だがおかしなことが一つある。お爺ちゃんが言ったことは確かに僕は思いはした……だが、口には出していない。


 「その通りじゃよ。奏殿は口には出していなかった」


 ってことは、僕の心を読んだのか?!


 「そうじゃよ、だってこう見えてワシ、神様じゃもん」


 「ふぅ〜ん。神様ね〜〜

     ……って、えぇぇ〜〜〜〜!!」


 神様って、嘘くさいな〜〜。いるわけないじゃんこの世の中に。本で出てくるだけの架空の存在じゃないのか。


 「存在はするぞい。ほら、ここに」


 僕の前に立ってピースをして立つお爺ちゃ……ではなく、神様。歳のわりには元気そうなのは伝わってくるけど疑ってしまう。


 「疑ってしまうのも無理はないかのう。どうじゃ。奏殿少し、歩いてみんか?」


  「僕は、歩けても少しだけですよ。どうせ、すぐ倒れてしまうので前世ではずっとベットの上だったんですよ」


 「ほっほっほ。奏殿のそれは、あくまでも前世の話ですぞ」


 神様は以前の僕の体を知って言っているのだろうか。


 僕はその場に立って、前で歩き始める神様の後ろで、どうせすぐ倒れると思いながらも……倒れ……倒れる、はず……あれ?倒れないし疲れてもいない。


 「なんで?とでも、言いたそうな

          顔をしておるのぅ?」


 当然だ。数秒でも歩いていればめまいがしてきて倒れるのが当たり前だった。それが今はどうだろうか。歩き始めてから、五分ぐらいは経ったはずだ……そのはずなんだが僕は体に一切の疲れも感じていない。別の人の体と言われても納得してしまいそうなほどに。


 「奏殿。あそこに腰掛けて少し話でもせんか。見ての通り神様ではあるが、それを除けばただの老人だからのう……この歳になったら話し相手もいなくなる。だからこうして、お主に会えたことがワシは嬉しいんじゃ、他の神は若いものばかりじゃしな。」


 僕も若いんだけどね…………話し相手か。生きてきた時間の中で自分が話したことがある人なんて限られてる。親や親戚、病院関連の人ぐらいだし、話の話題とか自分で考えたこともない。知識ならテレビでやるニュースなどを見ていれば勝手に頭の中に入ってくる。しかし、この世界の神がそれを知らないとは考えにくい。


 話のネタを考えながら、神様と一緒に広い空間にポツンと一つ存在するベンチに腰をかけた。


 「わしはな、奏殿に申し訳なく思っているのじゃ。」


 座ってすぐに神様がそう僕に言ってきた。


 「皆が優しい家族のもとに生まれ、恵まれた環境で生きてほしいという願いが、わしにはある。だが、神の掟として人の世界を見守ることしかできないのじゃ。だからわしは、病を抱えるものや怪我を負ったものに何もしてあげることはできんかったのじゃ……」


 悲しそうな声で神様は、語り続ける。


 「いつも病院で笑顔でいる奏殿には少し恥ずかしい話になるかもしれんが、夜遅くに一人、皆が寝静まった空間で静かに泣いていたなを見た時はわしも申し訳なさでいっぱいじゃった。」


 「それをなぜ神様が?!」


今の僕はものすごく顔が赤いだろう。


 「心が痛かった。巡回中の看護師も何人かは知っておったじゃろうな。」


 「結構、バレてたんだ〜〜。看護師さんの気配なんて全く気づきもしませんでした。」  


 ちなみに、生きてる時にその話を話題にされたことは一切なかった。


 「死ぬ直前で気づいたんです。本当はいつも不安だったんだってことを。この体に生まれたことには後悔なんてしてたわけではありません。ただ、いつ互いにとっての大切なものを失うかが怖かった。離ればなれになって二度と会えないと思った瞬間、今からでも自分にできることは無いかと考えてました。」


 僕は上を見上げ話し続ける。


 「でも、僕には少しでも元気な僕を見せて心配しなくていいよと思ってもらうことが精一杯で、他には何もできなかった。だからこそ、具合が悪くなってると知っていながらも笑顔を絶やさなかった。両親には笑っていてほしかったから。」


 「どんな体で生まれたとしても、奏殿は優しく強い人間でいたのじゃろうな。」


 神様は微笑みながら僕の方を見てそういった。


 今思えばここまで誰かに自分の気持ちをさらけ出したことはなかったかもしれない。結構スッキリするもんだな。押さえ込んでいたわけではないが、初めて自分の気持ちを自分自身で知ることができた。


 「神様、ありがとうございます」


僕は神様に感謝を伝える。


 「次の人生があるとするんだとしたら、誰かに恵まれた環境を与える側になりたいと、両親や看護師さん、医師の方から教わることができたと思ってます。」 


 それを聞いた神様が、僕のことを見て笑顔で提案してきた。


 「そこでなんじゃ奏殿、次の人生は異世界転生をしてみるのはどうじゃろうかのう?」


 僕の頭の中はそれを聞いたのと同時に真っ白になった。


 

 


 


 


 


 


 


 



 


 


 


 


 



 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 








 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 

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