願い事

紫雨

プロローグ

 本当はさ、俺、今すぐ死にたいんだ。

 片手に拳銃を持った黒木の言葉に一瞬思考が停止した。

「今、ここで死んだら俺は最後まで人間でいられると思う」

 ビルの屋上に設置された錆びた椅子に腰掛ける彼の髪を風が弄ぶ。夕暮れと夜の間、沈んだ太陽の残した淡い光が容赦なく彼を晒す。

 表情が見えた。目があった。

 どこまでも透明で底のない闇に包まれた彼の瞳、諦めたように口角を上げて作る微笑み。

「生きるって才能だよな」 

 いきなり弱音を吐いた彼を前に、僕はただ立ち尽くすことしか出来ない。返事など求めていないらしく、黒木はただ移りゆく空をぼんやりと眺めていた。

 光が消え夜が姿を現したとき、黒木は僕に拳銃を差し出した。

「僕に君を殺せって言うのか?」

 彼の肩を掴むと黒木は呆れたように笑う。

「そんなわけねぇだろ。お前、ここに来た理由を忘れたのか?」

 黒木は一呼吸置いて、真剣な表情をみせる。

「お前がヴィランを殺してほしい」

 その言葉で全身に力が入るのを感じる。

 記憶が脳裏を過り、震える拳を握りしめた。

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