東京カティル

@kakip1

Repetition

2040年

6月23日21時47分


驟雨(しゅうう)が東京を襲った。


「急に降りましたね〜志茂田先輩」

「ああ、そうだな」

路地裏の居酒屋から帰るところだ。

雨に濡れたくないから雨宿りできるところまで走ろうとする。

「先輩走るの遅いっすね〜w早くしないと濡れますよ〜」

「こっちも酔ってんだ...生意気な後輩d...」

ザッ...

小さな音が人を襲う。

「そりゃ、あなたの下で働い...て...」

一瞬なにも聞こえなかった。

志茂田の顔半分が足元にとんでくる。

ベチャベチャと、スーツに血肉が当たる感覚、

鉄の匂い

雨で出来た水溜まりが赤く染まる。

「ッ...」

声が出ない。足も動かない。

すると、モデル体型のフードを顔半分まで下げた女が

「ゴミみてんな肉の色してんな。」

と言ったあと僕に向けて唾を吐いた。

「う...ああ...」

先輩が目の前で死んで、まだ声も出ない。

「喋れねぇのか?おーいw猿かよー?」

臭い。臭い。臭い。臭い。臭い。

鉄の匂いが頭から離れない。

「答えねぇのムカつくなぁ...!」

みぞおちを強く蹴られた。

「ゲハァ...」

嘔吐物と血が混ざったかのような液体を吐いた。

「うわ、なにこの液体、きもちわる〜w」

声が、出ない、死にたくない。逃げたいのに。

「なんでお前無視してばっかなの?殺すよ?」

いやだ。怖い。死にたくない。

いやだ。死ぬ?死ぬのか?死にたくない、死にたくない...いやだいやだいやだ...

死ぬ?死ぬ?死ぬ?死ぬ?死ぬ?

「ふふ...ふはは...」

声を出そうとしていたのに恐怖で笑いが出てしまった。

「こりゃイカれてんな。殺すか。」

鉄の匂いがしたと同時にサイレンが聞こえた。

「チッ...」

女は走って逃げていった。

寒い...寒いよ...死にたくない...

視界が真っ暗になった

「...で...んで...」

誰かが話しかけてくる。

「なんでお前だけが助かった!!」

!!!!!!!!

「ハッ!!!!」

目が覚めると家ではないどこかだった。

横を見るとカーテン、逆を見ると木が見えた。

カツン...カツン...

靴の音が聞こえる。

こっちに近づいてくる靴の音に警戒していたが、体が上手く動かない。

「高橋さーん」

大きな声で名前を呼ばれた。

「あっ!おはようございます〜!」

小柄な女の子が看護師姿で来た。

「あ...おはよう...ございます...」

「院長、呼んできますね〜!」

走って出ていった。

院長...看護師...

ここは...病院...?

そ、そうだ!志茂田先輩!!

ベッドから動こうとすると足が痙攣して動かない。

怖い...怖い...

昨日のようなことがまたあったら...

すると、すぐに院長が来た。

「高橋くん!!なにをしているんだ!!」

靴を履いているところを見られてしまった

「ぁっ...」

分かってるけど、分かりたくなかった。

逃げるかのように院長に質問をする。

「志茂田先輩...志茂田先輩は!!」

「...」

院長は黙り込んだ。

でも、まだ生きているかもしれない...

その望みにかけた。

「志茂田先輩はどうなったんですか!!」

「大声出すのはやめなさい。」

「どうなったんですかと言ってるんです!!」

「お静かに!!!」

...

「志茂田...志茂田義和は...」

「無くなっていました。」

分かっていた。でも...

それでも受け入れられない...

憧れの先輩が...

そのあと、病院を出る手続きをした。

保険のことなどを話したりしたが

立ち直れる予感がしない。

立ち直りたくない。

会社に有給をもらった。

有給をもらった日はずっと寝込んだ。

志茂田先輩を慕っていた人はたくさんいる。

責められたら俺は死のうとする。

憧れの人が目の前で亡くなると、こんなにも苦しいのか...

そういや、飯食べてないな。

23時か。コンビニで適当に買おう。


弁当と...あと...飲み物...

ホットスナックも買うか...

金を払い、コンビニを出る

ザーーーーー...

なんだよ。雨降るのかよ。

あの時のような急な雨。

志茂田先輩の夢を見てしまう。

なぜ。俺だけ助かったのだろう。



悲鳴が聞こえた。

っ!!

足が勝手に震える。

あのとき感じた恐怖だ。

あのとき感じたなにも出来ない感じ。

怖い。怖い。

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

「あのー、大丈夫すか?」

コンビニの店員が話しかけてくる。

「っ」

驚いたが、答えた。

「だ、大丈夫です」

「いまの女の悲鳴、なんなんでしょうかねぇ」

助けたい。でも動けない

っ!!

ダッダッダッダッ

走って家に帰る。

僕が今できることは無い。警察に任せよう。

なにもできない。

志茂田さんを救えなかった自分も、殺したあいつも、すぐに来なかった警察も、

全部憎い。

憎い。憎い。

ガチャッ

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

うぅ..うぅ...

悲鳴をあげた人は助かったのだろうか。

自分で助けたかった。

志茂田さんも、悲鳴をあげた人も。

飯を食べる活力も出ない。

なんで生きているんだろう

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