白紙の手紙
@Kakimothi_Sara
第1話
アパートの一室。
月明かりだけが、部屋を照らす。
遠くから電車が通過する音、踏切
玄関の目の前にあるダイニングテーブルの上には、何も書かれていない紙が置かれている。
ただいまー
ん?何だこの手紙?
その手紙には何も書かれていなかったんです。
付き合って3年、同棲を始めて1年
今でも仲がよくて、喧嘩をしても仲直りしたし、デートは毎月してたんですよ。
そんな彼女が白紙の手紙を置いて行った
何かを書いて消した後も残っていない
きれいな紙
真っ白で
温かみはない手紙でした。
彼女のことだ、何かをメモしようと思って、それを忘れて、そのまま置いて行っただけかもしれないって俺、思って、着替えようとして寝室に入ったんです。
寝室の天井から伸びる縄に首をかけ、ぶら下がっている女が部屋に現れる。
顔は色白く、すでに死んでいることが目で見てわかる。
え…?は?
彼女は寝室の天井から吊るされていたんです。
俺、意味がわからなくて、そのまま立ち尽くしました。
どんくらい時間が経ったかな?俺なんとかしなきゃって、だから…
あ、あ…えっと
これって警察?救急車?
いや、死んでるなら
じゃじゃあ、警察?
よし、電話をしよう、うん
ほら、よくテレビで、遺体に触ったら、犯人にされるじゃないですか?
だからね、だから、俺、触らずに彼女を助けようと思って
(震える手で携帯を取り出し電話する)
はい、はい
そうです
葛飾区金町 ー ー
です。
はい、わかりました
(間)
……
俺、気づいたら、彼女の写真を取っていたんです。
死んだように見えなくて、やっぱり眠ってるだけで、
本当は夢なんじゃないかって思ったんです。起きたら見せてやろうって、
だから写真を撮りました。
何やってんだよ
死んだ顔の写真なんていらないのに…
寝転がり、撮った写真を眺める
綺麗な顔だな
死に顔ってのは、そんなもん?
本当は寝てるだけじゃないか?
なぁ
あ、そのリップ…
俺が好きなやつ
いちごの甘い香りがする淡いピンクのリップ
可愛いって言ったら、お前喜んでさ、デートの時は必ずそれをつけてきてた
そのとき俺さ、ああ可愛いなって思ったんだ
あ、そのネックレス
俺が記念日にあげたやつ
つけてくれてたんだな
その服、俺とペアルックした時の服
あんまり似合ってないって言ったのに
ネイル剥がれてるぞ
いつも、ネイルに気づかなくて怒ってたよな
なんで、今気づくんだろうな
お前がこんなに綺麗なこと、俺は今までしらなかった
なんで、そのメイクをその服を今日選んだんだよ
俺を恨んでんのか?
俺が悪かったのか?
なぁ、教えてくれよ
(チャイムの音)
あ、……
はい、こっちです。
その後、警察が来て、検視がはじまりました。
写真を撮ったり、紙に何かを記入したり、部屋に転がるものや、彼女が使用していた物をジップロックに入れた。
事件性が疑われるため、警察署の霊安室に搬送されるらしい
そこでも検査のようなことをされるらしい。
説明を受けてもわかるわけがない、
俺はただ彼女がおもちゃみたいに扱われるのを見ていただけでした。
彼女が帰ってきたのは、3日後でした。
死因は縊死(いし)による窒息死
事件性は無しと判断されました。
お母様とお父様には、本当に申し訳ありませんでした。
俺という存在が居ながら…
でも、彼女は自殺なんてするわけないんです。
何を言っても、聞く耳なんて持ってもらえなかったよ
棺桶に入る彼女の首の縄の後は綺麗に消えていた。
今のメイク技術はすごいものだと感心し、また俺は彼女の写真をとった。
より白くなって、真っ赤な口紅が施されていた。厚化粧の彼女。
ピンクのリップも、ネックレスも、ネイルも全ていつもの彼女じゃなかった。
死因は急性心臓死。親族を思い、自殺とは公表しないものらしい。
俺が知らない姿で、死んだ理由も捏造されて、
涙を流されながら見送られた彼女はどんな気持ちなんだろうか
そんなことを考えている間に
葬式が終わり、俺だけが取り残されていた。
彼女は白紙の遺書だけを残した
最後に何を思ったのか、なんで死を選んだのか
誰も知ることができない
俺だけが彼女の死を知らない
白紙の手紙 @Kakimothi_Sara
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます