第2話 二人の天才の出逢い
中学時代。
あの美貴ちゃんとは別の中学へ。
ところが通い始めた塾でまた週一で逢えた。それはそれは楽しみで、苦痛だった塾が逆に天国に。美貴ちゃんはそこでも親切にしてくれた。
そんなある日、その塾で近くの席になった時。美貴ちゃんとその友人の会話。
「美貴のカレシってさ、結構カッコ良いよねー」
「う、うん。付き合ったばっかだけどね……」
ガックリと項垂れた。それきり片想いは終った。
どうせボクなんかもうあんな子とは二度と巡り会えないんだろうな……
以来、俺は更にヲタク街道まっしぐら。恋人はPCとその中の存在たち。
そう、そのまま俺の魂は二次元ヘ――――
「やっぱ深雪たん最高だよなー。このキャラ造型、美貴ちゃんにそっくりだし性格も最高だ!」
にしても二次元の世界は裏切らないからイイ~! 常にご都合展開で俺らを慰めてくれるし言い寄ってもくれる。何故か美少女ばかりが次々と。
「あーっ、俺も異世界転生してーっ」
でも気に入らないのは主人公だ。棚ボタでチー卜能力貰ったくせに偉そうにヤレヤレと女子を蔑んだ態度とか。イケメンになってモテモテ? 一時の夢のため? ばからしい!
逆じゃんか! ブサやフツ面に絶望与えてんだよっ!
あれは現実と逆の立場になれたつもりの自慰行為。
そんなのを見て満足なんか出来るか! むしろ反吐がでるし逆に惨めにすらなる。レビューサイトで8割がダメ推し。ザマーねえな。
ラノベもアニメ制作陣もヲタク脳に犯された奴しかいねーのかよ。こんなのばっか垂れ流して。リサーチしてねーだろ、どれだけ反感買ってるか……
そんな中学時代。学校からの帰り道、耳障りなあの言葉と共にあるとんでもない光景に出逢った。
「あれ見て!! 何あの人 !!……サイテー。人形とデートしてる~! ヤダ~、キモ~ッ」
サイテー、キモい。
負け組の俺も言われて来たその二大凶器にむしろ男の方に共感と同情の生暖かい視線を向ける。
と、その男の横にはいわゆる『リアルドール』ってヤツが居た。つまり寒い男が大人目的で所有する高価でヤベーヤツだ。そんなモノを街中堂々と連れ出して……コイツ正気か?
『んっ !! あれは!!』
何とあの美貴ちゃんを思わす超美形ドール。そしてその男は可愛い服を着せて幸せそうに海を一緒に眺めて語りかけてた。
「あんなキレーな等身大の人形があるんだ……」
その時の俺はその男のキモさより羨ましさの方が上回っていた。
だってあの人形、少くとも絶対に裏切らない。キモイとか言わないし、ずっと寄り添ってくれる……
『ああ……あんな裏切らない彼女が欲しいなぁ……』
* * *
そして高校2年になった俺。
あの頃の羨望の眼差しが、この舞い降りた桜の花を冠した愛用のPCユニットによって現実となって叶えられようとしていた。
*
「お―い、
俺をこう呼ぶこの男は我が東京TECHアカデミー高等部の同級生にして二大天才の一人、
マアマア……いや、かなりのイケメンで、相棒でもある。
このスクールでは卒業制作において社会に影響を及ぼす程の成果を挙げた者に本校の大学への奨学金を全額補助するという制度がある。最多で6名以下のチームが許され、最大2組までが入賞対象になりうる。
その名も『カミングネクスト・スプラウト(CNS)』
故に多くの者がその卒業課題へ向けて協力出来るパートナーと手を組もうと必死だ。
俺は情報工学とプログラミング科をとり、その方面ではダントツトップだ。 そしてその能力を生かし個人的にはデジタル通貨で一儲けしてるから奨学金など不要だが、託人は家庭の事情で必死だ。故に俺と手を組んだ。
託人はロボット工学科で既に世界の最先端クラスの人型ロボットを研究、実証制作しつつ改良を加える次代を荷うスーパールーキーだ。その滑らかな動きに日々磨きをかけているメカの天才。
最近では一般人の動きはおろか、アスリートのそれさえ実現しつつある。
そんな託人の魅力はその才能だけではない。長身でシャープな小顔に涼しげで切れ長の目、ソフトツイストの髪型を爽やかにキメたクラスでも人気者だ。
それに比べ中肉中背、今一つ特徴の無い陰キャな俺はせいぜい優しく見えると言われた事がある?……パッとしないフツーの人。互いに本来なら縁遠い存在だがCNSが俺たちの縁を結びつけた。
「お前、相変わらずその名に違わず脳ミソ溶けてんなあ……何だよそのフィギュア、相変わらず二次元キャラばっか追いかけてしょーもねーなぁ……学校にまで持ってくんなよ」
そう言って最新AIシステムの調整でPCモニターを睨む俺の後ろから覗き込んでくる託人。フンッと鼻を鳴らして牽制すると、それでも続く小言。バディーを組む方の気持ちになれば確かにそう言いたくもなるのだろう。ハズいだろうからな。
『いい加減さぁ、二次元辞めて別次元に移れよ』
「うるせー、二次元最強だろーが。深雪たん嘗めんな! そのロボに搭載するAI能ミソ作ってやんねーぞ、カワイイ彼女居るからって見下しやがって」
「いや、見下してないって。オレはお前を天才だと思ってるよ。この学校随一の。しかも努力を怠らない。そればかりか昔お前と同じ学校にいたっていう奴からもPC関連ならどんな相談にも分け隔てなく教えてくれたって聞いた」
懸命にフォローしてくれる。いいヤツだよ、全く。「ここでもプログラミングの事では惜しみ無く助けてくれる、って陰の人気者なの知らんのか?」 等と肩に手を載せ持ち上げてくれる程に少し惨めな気にもなる。
「いや、初耳だ」
素直じゃないのは分かってる。まあどうせ
「普段人を見てねーからな。ま、実はオレも尊敬もしてるんだが。卒業制作用のロボの脳味噌ボット、楽しみにしてんだから宜しく頼むよ」
―――― おだてんな。ま、マトモな託人とつるめてるお陰で俺は廃人狂人扱いされずに済んでるしな。俺もありがたいとは思ってるよ。
「ハイハイ、分かったよ。せいぜいサイコーの対話型リアルロボを作って、大人達のドギモを抜いてやろーぜ」
託人は少し目を細め、クスッと鼻息。肩に置いた手を更に親愛を込めてポンとしてきた。今度は懐柔するつもりだな。だが馴れ合いはせんぞ。
「――――でも俺と深雪たんとの仲は何人たりとも引き裂けない」
「んくっ…………はぁ……」
呆れ半分で肩をすくめる託人は、俺を見て軽蔑とは違う、まるで駄々っ子を見守る様な優しい笑みを浮かべていた。
―――― ホント、いいヤツだ。
* * *
ロボットの天才・託人との出会いは高校入学してすぐだった。ここでは一般高校の部活動に代わって様々な科学研究部がある。そのスーパールーキーの託人が初めて俺の研究を覗いて来た時のこと。
「こ、これ、
……フッ、俺のAI脳ミソに驚いてるな。一目でこの価値が分かるとはこいつも大した奴だ。
「まあな、とは言っても破れかぶれに魔改造しまくってようやく形になってきてな」
最初はどうやっても思い通りに行かなかったが、このスクリプトを結局ぶち壊す覚悟で無茶やってるうちに気が付けば複雑怪奇なすごいのが出来た。
「今は粗方の完成に向けて調整中ってところだ」
なんと小学生時代から取りかかってようやく形になって来た自作AI統合管理プログラムだ。そう、俺がヲタク故に生まれた逸品。
そのプログラムの名は『ブレンダー』。最高の相棒だ。
その成り立ち。俺をとても可愛がってくれていた東京のおばあちゃんが
そうだ! あの美貴ちゃんに作ったセラピー犬アプリの様に、今度は俺自身の3DアバターとAIの会話サービスを結びつけ、病床のスマホからいつでも日常会話出来るようにしてあげたらどうだろう。
早速取りかかって見た―――――そして。
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