第8話:美桜と図書館

 翌日、ちひろから「特に予定がなければ日曜日まで泊まってもいいよ」と言ってもらったけど、流石にそれは申し訳ないと思い断わって、土曜日のお昼過ぎには家に戻った。

 それに、テストが終わったばかりなので宿題も少ないから、突貫工事のテスト勉強になってしまったことで理解が曖昧になっていた部分の復習と予習を進めておきたかったという理由もある。


 自分でも『面白みが無いなー』って思うけど、遊んでばかりで学力が下がっては元も子もないし、私は絶対に母親が納得する県外の大学に合格して、あの家を出るんだから。

 

 それでも、予定していた勉強が日曜日の午前中で概ね片付いてしまったので、家にいても仕方ないので市の図書館に行くことにした。

 勉強のためじゃなくて、久しぶりに本を読むために。 

 日和とまではいかないけど、私も本が好きだった。

 だけど今は、本は買わないことにしている。

 理由は二つ。

  

 一つ目は、お金を貯めておきたいから。

 私の今の目標は、県外の大学に入学して、あの家から出ること。

 そしてそのまま家には戻らずに、大学を出てあの家と決別すること。

 ただ高校生の私は、社会人としての生活はおろか大学生活ですら想像ができていない。

 おそらく、私の想像を超えた出来事や苦労があるのだと思う。

 だから、今は極力お金を使わずに、貯めてその時に備えようと決めた。

 

 もちろん、高校生に貯められるお金なんてたかが知れている。

 今持っているお金は、アルバイトでもすぐに貯められる金額だということは分かっている。

 ただこの先、どうしようもなくなる時が来たとして、それまで何もしてこなかったと後悔することがたまらなく怖い。

 その時に、私なりに出来ることを頑張ってきたという事実は、きっと、私の心の持ちようを大きく左右すると信じている。 

 

 二つ目。

 これは本当に単純で、私はあの家に自分の痕跡をできる限り残しておきたくないと思っているから。

 私は県外の大学に進学できたら、もうこの家には戻りたくない。

 だから、もう戻ってこなくてもいいように今あるものは全部持っていって、この部屋は空っぽにしていくつもりだ。

 大学で住む部屋がどんな感じなのかは想像できないけど、おそらく収納スペースも限られるだろう。

 そう考えるようになってから、不自然にならないようにこの部屋からモノを減らしていった。

 服や雑雑貨も必要最低限を残して少しずつ処分し、本や雑誌も古いものから順に捨てている。

 古本屋に売ることも考えたけど、保護者の同意が必要なのでそれもできないから、少しずつ、少しずつ。

 だんだん整理されていく部屋をみると、何だか自分の体まで身軽になっていくような気がする。 

 

 日曜日なので図書館はそこそこ混んでいたけど、短めの小説を読み終える頃には人の数も減り、あたりは真っ暗になっていた。

 

 そろそろ、駅前の商店街は来月のクリスマスに備えてイルミネーションで彩られる。

 いつもは、浮かれる街の様子にげんなりとしていたが、今年は少し楽しみな気持ちになっている。


「日和や、ちひろに『見にいこう』って言ったら、来てくれるかな」


 こんな気持ちになるなんて、少し前の私は考えてもいなかった。

 自分で日和に言ったことばだったけれど『普遍のものはない』というのは、自分にも当てはまるのだと強く感じた。


 できれば、いい方に変わりたい。


 友達になれだけど、日和には本当に迷惑をかけたし、ちひろにも心配ばかりかけている。

 変わるのであれば、友達を裏切るような形じゃなく変わりたい……。そう思う。

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