第5話:お泊まり

「みお、明日うちに泊まりにこない?」

「えーっと、泊まり?」

「うん。明後日は土曜日だし、明日、珍しく部活ないんだ。テストも終わったし、お疲れ様会! どう?」

「えーっと…………」


 ちひろが目を輝かせながら、覗き込むようにこちらを見ている。 

  

「うん。お疲れ様っていうか、ちひろには本当に助けてもらったし。行きたい。 でも、うちの母親がなんて言うかな。ちひろの家だったら問題ないと思うけど…………」

「そうだよねー。でも、いざとなったら、お母さま……、お母さんに、また美桜の家に電話して貰えばいいよ。お母さんも『美桜ちゃん、来ないねー』って寂しがってたから!」

「いやいやいや。もうちひろのお母さんまで巻き込めないよ。大丈夫。ちゃんと話して、行けるようにするから」

「絶対、絶対だからね。ダメだったら、またみおの家にいって、さらっちゃうから!」


 両手でガッツポーズを決めやる気を出す。

 ちひろは、もし私が行けない事態になったときは、誘拐のように私を連れ出すつもりらしい。

 冗談だとは思うけど、もしちひろのお嬢様パワーを全開に使ったら、いったいどこまでできるのだろう。

 家にいるお手伝いさんや運転手さんの他にも、荒事専門チームとかいるのだろうか。

 いやいやいや、ドラマやアニメじゃないんだし。


「じゃあ明日、学校終わったら一旦家に帰って用意してて、迎えに行くから」

「えーいいよ。ちひろの家分かってるから、一人でいくよ」

「い・い・のー。私が迎えに行きたいんだから、行くんだよー」

「近い近い、分かった分かった。ありがとう。待ってるね」


 ちひろが迎えに来たがるのは、さらっちゃうってのは冗談としても、おそらくうちの母親が外泊を許可しなかった場合に直談判するつもりなのだろう。

 もしくは、そのままウチに泊まるつもりなのかもしれない。

 その辺り、ちひろはちゃんと考えてる。

 

 前回、ちひろの家にお世話になったのは、私が日和との件で学校にもいかず、自分の部屋でどうにもならなかった時。

 そんな時にちひろは、私を部屋から連れ出してくれた。

 改めて、ちひろのお母さんにもキチンとお礼を言いたい。


 メッセージアプリを開いて、明日は図書室に行かないことを日和に伝えようとしたけど、今日、図書室で伝えればいいかと思ってメッセージの送信をやめた。

 もし今日来なかったら、その時に改めて送ればいい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る