私があなたに!2
ユーキ
第1話:新しい日常
「やっと終わったー」
十一月半ば、二学期制の私の高校は、今日で中間テストが終わった。
クラス全体に解放感、達成感、疲労感、虚無感。色々な感情が渦巻いているように感じる。
(私は…………。うん。達成感かな)
進学校なので中学の頃と比べて格段に授業のペースが早く、そもそもついていくのが精一杯だったのに、私はとある事情で学校をしばらく休んでしまい、結果、全ての教科で授業から大きく遅れてしまった。
欠席の理由は間違いなく私が悪いのだけれど、自分が犯した間違いを許せずにどうすることもできなくて、いっそうのこと、私という存在を全部終わりにしてしまおうとさえ思ったのだけど、大切な親友に救われて、結果、私に友達が一人増えた。
無事に学校生活に復帰できた私は、遅れを取り戻すべく必死になって勉強をした。
いつもと違うのは、いつも一人でやってきた勉強を三人でやったこと。
親友と、新しくできた友達。
二人の助けもあり、なんとか遅れを取り戻して、今回の中間テストに間に合わせることができた。
だから、私は達成感を感じている。
それも、今まで感じたことのない、大きな達成感を――そして、二人への感謝を。
(なんだか、不思議な感覚だった)
中学の頃から基本的に勉強は一人でやっていたけど、それで何も不都合はなかったし不満もなかった。
だけど今回は、普段なら理解するのに時間がかかってしまう問題も、二人に聞くとすぐに解決した。
そして、あまり活躍の場がなかったけど、私も得意な分野を二人に教えると、自分の中でも確実に定着して忘れない記憶となった。
(教えることが自分の勉強になるのはテレビで知っていたけど、本当だった……)
(勉強でも一緒にできる友達がいると、全然違うんだなぁ)
そもそも友達が少ない私にとっては、今だに友達付き合いというものの正解が分からずじまいだけど、確実に今までとは違う生活が始まったと感じている。
そもそも……。
「
しみじみ物思いにふけていたら、教室のほぼ対角線の遠方から、私を呼ぶ声がした。
「おーい!
手を口に当ててメガホンのようにして、満面の笑みで私を呼んでいる。
今まではものすごく近くの席だったのに、席替えで離れてしまったから仕方ないかもしれないけれど、そんなに大きな声で呼ぶのは恥ずかしいから本当にやめてほしい。
用があるなら、こっちに直接来るか、メッセージアプリを使うか、電話でもすればいいのに……。
仕方ないので、立ち上がって声の主の方へ歩いて行く。
私が向かって来るのに気がづいたみたいで嬉しそうに手招きしているが、クラスメイトにどう見られているのかを考えてしまって、恥ずかしさが増し、同時にイラっとした。
「ひ、
私を呼ぶ声の主は、
彼女こそが、私にできた新しい友達。
つい最近まで、私が一番嫌いだったハズのクラスメイト、そして、私が意地悪をしていた対象…………。
「美桜、ごめんごめん。用事は特にないけど、呼んでみた」
「……そういうの、やめて欲しい」
先ほどのイラっとした感情がぬぐえず、自然と冷たい口調で答えてしまい、日和の周りにいた彼女の友達が少し引いているのがわかる。
(またやっちゃった)
「うそうそ。ごめん。謝る。いや、図書室に行く約束してたけど、その確認に呼んだだけ。行く?」
(そんな約束したっけ? というか、私は図書室は何もなくても基本的に毎日行くから、わざわざ聞く必要ないんじゃ……)
「…………行く」
「そっかー。先約があるならしょうがないか。日和、次またよろしくね」
「ごめんね。また誘って! じゃあねー」
日和はそう言うと、ぞろぞろとクラスを後にする集団を手を振りながら見送った。
ここまできてやっと私は、日和が遊びの誘いを断わるために、私をダシにしたことに気がついた。
「…………ひ」
「美桜、ありがと。ごめん。断りの口実に使っちゃって」
抗議の言葉を口にしようかと思ったけど、おそらく日和も日和なりに事情があったのだろう。
「別にいいけど……。それで、断りたかっただけで、今日は何か別の用事があったの?」
「ん? 無いよ。テスト終わったから美桜と話がしたいなーって思っただけ。あと、美桜のちょっと困った顔が見たかったってのもあるんだけど……」
「なっ……!」
以前は、そんなことを言われたら心の奥底から彼女を憎んだだろうけど、それは過去の自分であって、今の私は違う。
日和のいたずらっぽい、太陽のような笑顔がとても可愛くって、酷いことをされたはずなのにこっちが照れてしまい、ついでにうまい返事もできずに完全にフリーズ状態になった。
日和は私の反応を予想していたのか、ニコニコしながら私を見つめていた。
「すーーーーーはーーーー」
大きく深呼吸をして息を整えつつ、日和に言うべき言葉を考える。
「そ、そういうのやめてよね。私、日和と違って誰かに注目されるとか話することに慣れてないんだから。それで、もう図書室いけるの? そしたらもう行こ!」
言いたいことの半分も言えていない自覚はある。
ただ、私と日和のやりとりを遠目に別のクラスメイトが見ているのに気が付いたので、日和への抗議は図書室へ向かう移動時間に持ち越すことにした。
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