推しの死

@nikaidou365

第1話

 最近、皆「死」というものを自分の都合のいいように解釈しているのではないかと思う。眠っているように死んでいるだとか、直近の出来事を死んだ人が見守ってくれる。とかどうしてもその人の死のせいにしたがる。


 リアリストを名乗るつもりはないが、それでも人の死をそのように都合よくは解釈しない。しかし、今はこの死を自分の良いように解釈する人達の気持ちが分かる気がする。なぜなら自分の推しが死んでしまったのだ。


 何もない日常、ただ仕事をして自宅に帰り寝る。特に趣味もなく惰性で日常を貪る自分に推しは生きる意味を与えてくれた。推しのイベントは必ず参加し、グッズもコンプリートし、推しのSNSは必ず反応をした。当然だが、反応が返ってくることは多くは無いが、たまに返信があると、一週間そのことでいつもの何十倍やる気がでた。推しとの会話イベントで、「あ!いつも返信やイベント参加ありがとう!見てるよ!」と認知されていることが分かった後から、推しのためならなんでもできる。推しが自分の神様だという心酔ぶりであった。


しかしもう彼女はいない。別れは突然で周りのファンも動揺を隠せていなかった。自分は彼女がいなくなってから自分の世界は色褪せた。惰性の毎日に逆戻りどころか、更に悪化してしまった。仕事にも身が入らず、上司からも呆れられ、元々友人も多くなかったことから心配されることもなく、SNSで知り合った推し仲間とも距離を置いた。


 推しの最後のライブはほとんど覚えていない。皆いつも通り、いや、いつも以上に盛り上がっていたが、自分は盛り上がれずにいた。配信が終わって一週間後、推しは死んでしまった。誰も驚くことは無かった。そこにはただ、「死」だけがあった。


 推しはSNSで初めて見かけた。電脳世界でたださまよっている所に見かけた一つの星、運命だと思った。自分自身には発せない程の光、高揚感が止まらなかった。自分が見始めた時は数人しかいなかったファンが何十人、何百人に増えていく姿を見ると、どうしても古参ぶってしまうが、それは心の中で留めきれた。ただ一つ、心の中に何かしらのノイズが出てきたのはこの時からだっただろうか。


 最初は憧れであった。トーク力もある、ダンスも歌も上手い。自分には無いものを多く持っている。人気になっていくにつれその劣等感というものを見せつけられた気がした。当然推しにはそんなつもりはないし、自分一個人に対して何の感情もないと分かっているからこそ更にノイズが大きくなる。

 自分もあんな風になれたら。なんて考えていたからかもしれない。憧れから嫉妬に後半は変わっていたのかもしれない。SNSの推しに対しての返信などを見てそう思う。まあ、今思えばどっちでもいいが。


 自分はまたこの電脳世界に漂う。新たな星の光を探して。


 推しは新たな推しにはならなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

推しの死 @nikaidou365

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ