第6話 雛鳥

夕の魂を持つ少女、ユウ・ウラシアの後ろをついていく。


…どうやら今世の彼女は前世の記憶は持っていないようだ。


まあ、しかたない、か。


「ここ!」


と、ユウが立ち止まって指さすは、町のはずれの廃墟地帯にある、一部が崩れた教会と思われる建物。


「取り敢えず雨風はしのげるわ」


「…わかった」


ユウに続いて俺は廃教会の中に入った。












「それで、あなたは何者なの?」


開口一番、ユウは古びた椅子に座るなりそう言う。


「…俺は遠藤光、異世界人だ」


「…異世界人ねぇ…ほんとにいたのね、てっきり伝説の存在かと」


まあ、お前もそうなんだけどね。


「で、その異世界人様がなぜ私を助けてくれたの?」


「…」


助けた理由…か。そんなものいくらでもある、あるが…果たして前世のことに触れていいものか…


「…約束だ」


「へ?」


「ある人と約束したんだ、お前を助けると」


「ある人って…」


「それは言えない」


「…」


こちらを若干警戒するように見るユウ…さてどうしたものか?


俺が考え、次の言葉を発しようとした時だった。




「まあ、大方、前世の因縁だろうね」


上の方からそう誰かの言う声が聞こえた。


「っ!?」


「へ?」


誰だ?しかも何か知っている…?


慌てて上を見る。


すると、廃教会の壊れた屋根の上に誰かが腰掛けていた。


その人物は法衣を着た少女…いや少年。


異様なほど整った顔立ちの少年だった。身長は今の俺より少し高い程度。


「…誰だ?」


しかも先の発言、割と的を射ている。


「あららー、図星だったかい?」


…こいつ。


「…あなたは、まさか!?」


と、そこでユウが大声を上げる、なんだ?


「ああ、自己紹介がまだだったね。僕は…聖教会第2番使徒…「雛鳥」だよ」


聖教会…使徒…


「…さっきのと同じ」


「あんな雑魚と僕を一緒にされてもねぇ」


「…まあ、どうでもいい…お前も敵だろ?」


「そうだね、現時点では君と僕は敵同士だ」


「なら…装填」


「お?」


俺は雛鳥と名乗る少年に照準し、


「世界放ち」


世界そのものを放つ。敵なら加減はしない。


世界一個分の質量が少年に迫る、それに対して少年は…笑っていた。


そして少年は…唱える。


「世界穿ち」


「…は?」


―轟音


俺の放った「世界放ち」は少年の放った「世界穿ち」に穿たれ消滅する。


まさか…


「同じ…魔法…?」


「違うよ?」


「…違う?」


そうして少年は笑いながら言う


「僕の魔法は「世界誕」、誕生することができなかった世界の種を利用する魔法だよ」


「世界…誕」


俺の「世界葬」と一文字違いの…魔法。


「まあ、あくまで、世界になり損ねた種を利用するから、君の世界そのものを利用する魔法と比べたら少し劣るけどね」


…完全に俺の魔法は把握されているな…しかし。


「劣る…?」


「ああ、そうだよ、僕の魔法は君に劣る…でもね、それ以外では…どうかな?」


そう言いながら少年は立ち上がる。


…くる!


「「世界纏」」


俺と少年が同時にそう言い、俺は「終わった世界」を、少年は「始まらなかった世界」を、纏う。


…剣よ。


そう心の中で唱えると俺の手のひらに青銅製の剣の柄が現れる。


対する少年、「雛鳥」は二本の薙刀を持っていた。


そして…いつの間にか、俺の目の前でそれを振り下ろそうとしていた。


「!?」


あわてて剣で迎撃する。




―ガキッン




「…重っ!」


受け止めた薙刀は…一本…もう一本は!?


と、同時に脇腹に衝撃を感じる、そのまま横に吹き飛ばされるが何とか体制を整えて着地する。


「あらら、直撃させて傷一つつかないとはね、やっぱ君の魔法は異常だね」


雛鳥は薙刀を振りながら、そう言う。


「君のその青銅の剣、僕に直撃できれば多分一撃だよ、どうだい、やる気出た?」


「…」


…完全に舐められているな、これは。


だが今の攻防でわかった…実際、彼我の実力差は割と絶望的。当たり前だ、こっちはただの一般人なのだから。


多分一撃すら与えられず削り殺されるだろう。


「…ふむ、どうやら君も現状を理解できたようだね…じゃあ、ちょっと話をしないかい?」


「…話?」


なんだ?突然?降伏勧告か?


「…なにを話したいんだ」


「簡単だよ…」


少年は笑みを浮かべ、言う


「僕を君たちの仲間にいれて☆」



…はい?

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